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水生生物の樹脂封入標本の製作

1 はじめに

 樹脂封入標本は,液浸標本や乾燥標本とは異なり,壊れにくく気軽に持ち運びができ,手に持って観察することができる。また,上下左右あらゆる角度から観察することができ,実体顕微鏡で微細な構造も観察できるため,児童生徒に形態を観察させるなど,さまざまな形で利用できる。
 魚類など,水生生物は体内に多くの水分を含むため,入念な脱水作業が必要となるが,今回はできるだけ簡単な方法で魚類の樹脂封入標本を製作する。

2 準備

 標本に用いる魚・エビ類などの生物,エタノール,プラスチック樹脂(ポリエステル樹脂またはエポキシ樹脂),硬化剤,ポリプロピレン製の密閉容器,ピンセット,紙コップ,割り箸,耐水性サンドペーパー(220番,400番,800番,1500番),研磨剤またはカーワックス,布,真空ポンプまたは食品などの鮮度を保つための家庭用真空バッグ・容器

3 方法

(1) 脱水・固定 
 標本用の魚を75%→90%→100%エタノールに浸して脱水・固定をする(各1週間程度)(図1)。

   ※フタをして冷蔵庫で保管する
   図1 エタノールによる脱水・固定

(2) 1層目の流し込み
 プラスチック樹脂,硬化剤,密閉容器,紙コップ,割り箸を用意する(図2)。
 土台となる1層目に必要な分量の樹脂を紙コップに入れ,指定された分量の硬化剤を加えて割り箸でよくかき混ぜる。
 標本の大きさに合わせた密閉容器に深さ約5mmになるように流し込み,数時間〜一晩静置する(図3)。

 
   
   図2 準備するもの  図3 1層目

(3) 標本の設置と2層目の流し込み
 エタノールで脱水・固定した標本をろ紙などで軽く拭き,てんぷらの衣をつけるように標本の表面を硬化剤を加えた樹脂でコーティングし,1層目の土台ができた容器に置く。
 標本が約30%浸かる程度樹脂を流し込む。(全て浸かるようにすると標本が浮き上がってしまう)
 標本の裏側に大きな気泡が入らないように確認しながら,ピンセットで位置の調整をし,数時間〜一晩静置する(図4,5)。

 
 
   図4 2層目  図5 2層目(真横から)
 
 
   図6 流し込みの様子(動画)  

(4) 3層目の流し込み
    標本が十分浸かるように硬化剤を加えた樹脂を流し込む。数日〜1週間静置し,完全に硬化させる(図7,8)。

     
   図7 3層目  図8 3層目(横から)

(5) 研磨
    密閉容器から取り出し,必要に応じて耐水サンドペーパーで研磨する(留意点(5)参照)。
    耐水サンドペーパーは220番→400番→800番→1500番の順に細かくして傷を消していく。最後に研磨剤を付けた布で磨くと透明になる(図9〜図12)。

 
   図9 研磨前  図10 220番で研磨
 
   図11 800番で研磨  図12 クリーム状の研磨剤で研磨(完成)

4 作品例

   図13 タイリクバラタナゴ  図14 フナ
 
   図15 クチボソ(モツゴ)  図16 ハゼ 
 
   図17 スジエビ  図18 テナガエビ 
   
   図19 ブルーギル  

5 留意点

(1) プラスチック樹脂や硬化剤は理科教材カタログや,プラスチックを用いた造形素材を販売するホームページ,大型のホームセンターなどで紹介,販売されている。

(2) エタノールによる脱水・固定が不十分だと,樹脂封入直後はあまり違いは認められないが,時間の経過とともに標本の変色が起こってくるので注意する。

(3) 2層目の標本設置の際に,種名,採取した場所,日付などを記したラベルを入れるとよい(固まるまでずれやすいので気を付ける)。

(4) 樹脂をかき混ぜたときに生じる小さな気泡は,時間が経過するとほとんど消える。より確実に気泡をなくしたいときには,真空ポンプもしくは食品の鮮度を保つために用いられる家庭用の真空バッグ・容器で2〜3時間程度脱気する。

(5) 空気に触れている部分は,時間をかけても完全には硬化せず,多少のべたつきが残るため,見た目はきれいでも時間がたつと指紋やほこりがついてくもるので研磨をかけた方がよい。

(6) 研磨をしない場合には,標本を裏向きに設置し,ラベルも裏向きにして封入するとよい(容器の底側の方が表面がきれいになる)。

(7) プラスティック樹脂は引火性,揮発性,中毒性が高いので取り扱いに注意し,適切に保管する。子どもだけで取り扱わず,作業は必ず大人がついておこなう。



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