愛知県総合教育センター研究紀要 第98

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小中連携による外国語活動の在り方に関する研究

(中間報告)

1 はじめに
 平成14年7月に文部科学省によって策定された「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」の中で,小学校英語活動実施状況調査が行われ,平成15年度には全国の小学校の約88%が,平成19年度には97.1%の小学校が何らかの形で英語活動を実施していることが分かった。
 平成20年1月中央教育審議会「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」の中で,小学校段階の「外国語活動」については,「小学校段階にふさわしい国際理解やコミュニケーションなどの活動を通じて,コミュニケーションへの積極的な態度を育成するとともに,言葉への自覚を促し,幅広い言語に関する能力や国際感覚の基盤を培うことを目的とする外国語活動については,現在,各学校における取組に相当ばらつきがあるため,教育の機会均等の確保や中学校との円滑な接続等の観点から,国として各学校において共通に指導する内容を示すことが必要である。(後略)」とされ,「外国語活動」の新設が答申され,平成20年3月に「外国語活動」を含めた小学校学習指導要領が告示された。
 小学校での「外国語活動」が広がりを見せるにつれて,その影響は中学校での英語教育にまで及ぶことは明らかである。その結果,小学校と中学校の英語教育に段差が強く認識されたり,英語学習の習熟及び学習意欲の個人差が拡大したりする可能性が懸念されている。
 なお,この研究においては,新しい小学校学習指導要領の告示以前からの活動に関する記述もあるので,「外国語活動」と「英語活動」がほぼ同義に用いられていることを申し添える。

2 愛知県の「外国語(英語)」教育について
 本県の公立小学校における英語教育の状況については,全体の98.5%の学校において,総合的な学習の時間等を活用し,学年に応じて,歌やゲームなど英語に親しむ活動,簡単な英会話(あいさつ,自己紹介等)の練習などが行われている。こうした英語活動の年間平均実施時間数は,文部科学省「英語活動実施状況調査」によれば,6年生で見た場合,全国で平成18年度は14.8時間,平成19年度は15.9時間であるが,本県では平成18年度には13.7時間と全国をやや下回る水準となっている。しかし,豊橋市や一宮市,豊川市(旧御津町),飛島村のように,構造改革特別区域制度を活用し,独自の英語カリキュラムにより,英語活動・英語科の授業時間数を増やして取り組んでいる自治体もある。

3 新学習指導要領について
 小学校学習指導要領の「外国語活動」に関する記述と中学校学習指導要領の「英語」に関する記述を併せて読み解くことにする。
 (1)
小学校学習指導要領について

 小学校では「外国語活動」が5,6年生で必修化(週1時間)され,中学校では英語の授業数が週3時間から週4時間へと増加し,義務教育における外国語(英語)の授業数が増加することになる。新学習指導要領のねらいの一つは,外国語,特に,英語を実際にコミュニケーションの場で使える力を育成したいということである。
 小学校での「外国語活動」では「外国語を用いてコミュニケーションを図る楽しさを体験する」ことなどを通して,「コミュニケーション能力の素地の育成」を目標としている。したがって,教員が,児童の発達段階や学習負担を考慮しつつ,英語の音声やリズムに慣れ親しむような,コミュニケーションへの積極性を育成できる題材や活動を準備することが重要である。
 また,同時に,「言語や文化についての体験的な理解」も重要視されている。よって,指導する内容については,外国語を用いて積極的にコミュニケーションを図ることができるように指導することと,日本と外国の言語や文化について,体験的に理解を深めることができるように指導することに分けられて,以下のような指導項目が挙げられている。

なお,文字の指導については,児童の学習負担に配慮しつつ音声によるコミュニケーションを補助するものとして用いるものと考えられている。これは,小学校での週1時間という限られた「外国語活動」の中で,児童の興味・関心を引き付ける音声の指導が優先されるべきであるためであろう。文字の指導については,その後でも十分に可能であり,小学校で音声の指導と同時に行うと,児童が文字をあまりに頼りにする危険性もあり,また,音声面でローマ字(小学3年で学習)からの干渉があることも考えられる。したがって,小学校段階では,例えば,使用する絵カードの中に,さりげなく文字を入れておき,児童がそれを認識できるレベルになれば十分である。文字を書く指導は小学校段階ではする必要はないと考えられる。しかしながら,児童が自ら進んで文字を書きたいのならば,やめさせる必要はないであろう。
 (2) 中学校学習指導要領について
 中学校では,学習する語彙数が「900語程度まで」から「1,200語程度」に増える。基本的なコミュニケーションをするのに900語では不十分である,という考えによるものであろう。また,「既習事項を繰り返して指導し,定着を図る」ことで,語彙や文法知識の定着,それを実践的に活用する力の育成につながると考えられている。
 辞書については,自分で話したり書いたりする力を身に付けるために必要なものであるので,これまで以上に積極的な活用を勧めている。使用する英語例については,「あいさつ」や「自己紹介」等の場面ごとの例の他,「お礼を言う」や「気持ちを伝える」等の,コミュニケーションを円滑にする英語の具体例も示されている。
 中学校の新学習指導要領の中で,各学年の指導に関する配慮事項として,「小学校における外国語活動を通じて音声面を中心としたコミュニケーションに対する積極的な態度などの一定の素地が育成されることを踏まえ」ることという文言が追加されている。また,英語の4技能の目標について,現行学習指導要領では「英語を聞くことに慣れ親しみ,初歩的な英語を聞いて相手の意向などを理解できるようにする」「英語で話すことに慣れ親しみ,初歩的な英語を用いて自分の考えなどを話すことができるようにすること」とされていたが,新学習指導要領では「英語で聞くことに慣れ親しみ」と「英語で話すことに慣れ親しみ」という最初の部分が削除されている。
 (3) コミュニケーション能力の素地
 現行の中学校学習指導要領で削除された部分の理念がそのまま小学校「外国語活動」に移行したわけではないだろうが,小学校で育成すると期待されている「コミュニケーション能力の素地」の中には,以下の項目が含まれると思われる。

角丸四角形吹き出し: @ コミュニケーションに対する積極的な態度
A 英語を聞くこと,英語で話すことに慣れ親しむことができる音声的な力

これは,「外国語活動」の目標の「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら」の部分に応じたものと考えられる。
中学校の新学習指導要領の「言語の働きの例」の項目は,@コミュニケーションを円滑にする,A気持ちを伝える,B情報を伝える,C考えや意図を伝える,D相手の行動を促す,の5つになっている。一方で,小学校の新学習指導要領の「外国語活動」においては,その5つが「コミュニケーションの働きの例」として挙げられ,さらに,内容の取扱いの配慮事項として,「言葉によらないコミュニケーションの手段もコミュニケーションを支えるものであることを踏まえ,ジェスチャーなどを取り上げ,その役割を理解させるようにすること」とされている。

 したがって,教員としては,「コミュニケーション」は,言葉によるものと言葉によらないものの両者で成立していることという認識をもつ必要がある。
 今年度(平成20年度)になり,文部科学省から「英語ノート(試作版)」「小学校外国語活動研修ガイドブック」が出版された。「外国語活動」は学校裁量で平成21年度からの前倒しが可能なこともあり,「英語ノート(試作版)」,指導を支援する付属CD,教師用指導資料が,それまでに全小学校に配付されることになっている。また,指導主事等を対象とした指導者研修も実施され,「小学校外国語活動研修ガイドブック」が5,6年の全学級担任に配付されるなど,円滑な導入に向け準備が行われている。

4 研究の目的

 上述してきたように,外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養う「外国語活動」が小学校に導入される。このことを受け,小学校間及び小中学校間で外国語(英語)教育に関する連携システムを構築し,その活用を工夫することで,児童生徒のみならず教員にとっても有効な学習環境づくりに寄与することを目的とする。

5 研究の方法

 研究協力校とセンター所員による共同研究の形態をとる。
 研究協力校は,小学校2校と中学校1校の組合せとした。また,連携会議(連絡会)の開催を念頭に置いていたので,その3校が近隣にあることが望ましいと判断した。そして,現在,「外国語活動」に関連のある研究拠点校となっている小学校が県内に複数あり,校内研修等も含めた取組を行っていることから,「外国語活動」に関して,ある1つの中学校へ進学してくる小学校の組合せは,@研究の拠点校1校とそうでない小学校複数校,または,Aすべてそうでない小学校,のいずれかになる(一小一中を除く)ことが分かっている。
 以上のことから,この研究では,@に該当する組合せの代表として,小牧市立桃陵中学校,小牧市立桃ケ丘小学校(研究拠点校),小牧市立大城小学校,Aの組合せの代表として,武豊町立富貴中学校,武豊町立富貴小学校,武豊町立衣浦小学校,に協力を依頼した。

6 研究の概要
 (1) 学校間連携システムの構築
 小学校段階における「外国語活動」については,現在でも多くの小学校で総合的な学習の時間等において取り組まれているが,ALT活用の頻度等で見られるように,各学校における取組には相当のばらつきがあり,また,研究拠点校とそうでない学校の間でもその取組に相当な温度差がある。
 中学校においては,小学校における「外国語活動」の内容や指導の実態等を十分に踏まえた上で,小学校における「外国語活動」を通じて培われた一定の素地を踏まえて,中学校における英語教育への円滑な移行と,指導内容の一層の充実・改善を図ること,すなわち,「聞く」「話す」「読む」「書く」という4技能のバランスのとれた育成がなされるよう見直しを図る必要がある。
 そこで,小学校で学級担任が安心して「外国語活動」を実践できる環境を整え,中学校の英語教員が小学校で培った英語力を更に伸長させることができるように,小学校間及び小中学校間での連携体制・協力体制を構築する方策を研究した。
 具体的には,各学校の外国語(英語)を担当する教員が集まり,授業の様子や児童生徒の実態等を把握し合うこと,児童生徒のコミュニケーション能力の素地・基礎を養う活動や授業で活用できる題材等を共有すること,また,授業等での工夫を忌憚(きたん)なく話し合える学校間連携会議(連絡会)を開催することを目指した。
 小牧地区の3校(小牧市立桃陵中学校,桃ケ丘小学校,大城小学校)では,研究拠点校となっている桃ケ丘小学校の授業を大城小学校と桃陵中学校の教員が参観したり,3校の代表者で連絡会議を開催し情報交換をしたりして,小中連携の実践を行った。【詳細:小中連携による外国語活動(小牧地区)】
 同様に武豊地区の3校(武豊町立富貴中学校,富貴小学校,衣浦小学校)でも,授業参観や連絡会議等の実践を行い,小学校での「外国語活動」に関する創意工夫を考えた。【詳細:小中連携による外国語活動(武豊地区)】
 また,センター所員で,今後の小中連携の推進への一助になるように,小中連携の普及に関する理論的考察を行った。【詳細:小中連携による外国語活動の普及に関する考察】
 (2) アンケートによる実態調査
 現状では,小学校「外国語活動」と中学校「英語」において,学習の目的,内容,学習活動の性格,評価の観点等,多くの点で「段差」が見受けられる。「外国語活動」の取組が増加し,小学校教員がその指導に積極的に行えば,従来の英語活動にない新たな内容や学習活動が開発され,児童のコミュニケーションに対する積極的な態度が育成されることが予想されるので,その「段差」はますます大きくなる可能性がある。したがって,中学校では,今まで以上に工夫を凝らした英語の学習環境を整える必要がある。

 この研究では,研究協力校の児童生徒にアンケートを実施し,分析を加え,その実態を正確にとらえることによって,小学校での「外国語活動」の更なる工夫を考えたり,小学校で培われたコミュニケーションに対する積極性を,中学校で更に伸長させる授業展開を考えたりするための基礎資料として活用することをねらいとした。【詳細:小中連携による外国語活動アンケートからみえてくること】

7 今後の課題

 平成23年4月から新しい学習指導要領が完全施行され,すべての小学校で週1時間の「外国語活動」が必修となる。それに向けて愛知県では,平成2122年度に「担任が主で行う外国語活動」をテーマとして,「中核教員研修」を予定している。愛知県は小学校数が多く,各校から1人の中核教員を一箇所に集めて研修をすることが難しく,また,市町村によって外国語活動への取組の度合いが異なっていることもあり,県の研修会を市町村の研修の中心となる者への研修と位置付け,その後,各市町村で中核教員を集めての研修会を開催することになる。
 そこでの活動を基にして,各小学校での教員研修が計画立案されることになるだろう。既に「外国語活動」を年間35時間のペースで開始している市町村や,まだ,それほど時間をかけていない市町村まで,多様な状況であることが推測されるので,それぞれ学校で状況に適した教員研修を展開する必要がある。
 小中連携をベースにする本研究では,各小学校での教員研修を,通例の研究授業等に加え,隣接の小学校教員の協力や中学校英語教員の指導助言を交えることで,より効果的な教員研修にする方策を検討していきたい。また,小学校で培われたコミュニケーションに対する積極性や音声的な力という「コミュニケーション能力の素地」を中学校で維持しつつ,アルファベット導入時における工夫,読むこと・書くことに対する指導方法等を考察していきたい。

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