インターネットの教育利用に関する調査研究(参加・交流)
情報通信ネットワークを活用した参加・交流学習は,日ごろの学習成果を充実・発展させる手段として用いられている。ネットワーク上のコミュニティで,他校の見知らぬ児童生徒と出会い,関係づくりをしていく過程には,まさに情報社会に積極的に参画していくための情報モラルやコミュニケーション力が求められる。本研究では,愛知エースネットで提供されている学校間交流の場を活用し,実際にネットワークを活用した交流学習を行って,教育活動における参加・交流学習の在り方について研究した。
<検索キーワード> 情報通信ネットワーク インターネット 交流学習 テレビ会議 学校間交流 愛知エースネット 参加・交流の広場
研究会委員 蟹江町立須西小学校教諭 竹内 拓也 新城市立千郷小学校教諭 野澤 康 尾張旭市立西中学校教諭 谷村 仁史 碧南市立新川中学校教諭 石橋 渉 愛知県立豊田高等養護学校教諭 加藤 毅 愛知県立港養護学校教諭 中井増治郎 総合教育センター研究指導主事 茅野 俊正 総合教育センター研究指導主事 太田 学 総合教育センター研究指導主事 犬塚 章夫(主務者)
1 はじめに
平成20年3月及び平成21年3月に公示された新しい学習指導要領では,小学校・中学校・高等学校・特別支援学校すべての総則編において,「学校がその目的を達成するため,地域や学校の実態等に応じ,家庭や地域の人々の協力を得るなど家庭や地域社会との連携を深めること。また,同校種のみならず,他校種(大学などを含めて)との間の連携や交流を図るとともに,共同学習や高齢者などとの交流の機会を設けること(一部改)」とあり,すべての校種において,児童又は生徒の経験を広めて積極的な態度を養い,社会性や豊かな人間性をはぐくむために,学校の教育活動全体を通じて,他校種との交流及び共同学習を計画的,組織的に行うことが求められている。さらに,「各教科等の指導に当たっては,児童又は生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,その基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切かつ主体的,積極的に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。また,児童又は生徒の障害の状態や特性等に即した教材・教具を創意工夫するとともに,学習環境を整え,指導の効果を高めるようにすること」とある。
本研究では,実際に相手を訪問しての交流のみならず,情報通信ネットワークなどを活用した交流活動を通して,児童生徒がその視野を広げ,豊かな人間形成を図ることをねらいとして,学校・地域の実態に合った実践を継続的に行ってきた。今回は,その実践報告を行うとともに,これらの活動によって実現される学習の可能性について考察,検討した。
2 研究の内容
本研究では,情報通信ネットワークなどを活用した交流実践を,その実施形態から,交流型,参加型,共同学習型の3つのパターンに分類し,それぞれの実践がどのように計画され,どのような学びができるのかを明らかにしていきたいと考えた。ただし,これらの分類は考察を深めるための便宜的なものであって,実際の交流は,これらが相互に関連しながら協働していく活動もある。各実践の形態と具体的な活動内容については以下のとおりである。
(1) 交流型
あるテーマや事象に関して,共通の課題や視点をもち,それらに関して感想や意見交換を行う形である。場合によってはEメールやテレビ会議システムを用いて交流を図ることが考えられる。複数の児童生徒,ひいては教員や保護者,地域の関係者が関与することができるので,共同研究や広域的な展開をベースにした活動が期待できる。
(2) 参加型
掲載された作品(情報)を閲覧する,若しくは掲示板などに作品を登録して公開することなどを通して,相互理解や学習の成果の共有を図ることができる。時間や場所にとらわれず閲覧,情報共有することができるので,より広く学習機会を提供することができる。また,身近な学校や近所の話題を題材にすることで,興味関心をより引き出すことができる。さらに,自分情報提供者になったり作品を出品したりするすることもできるので継続的にそのサイト情報の閲覧を促す。
(3) 共同学習型
交流型,参加型の視点から学校間の交流学習を積み重ね,相手(校)との間に学習コミュニティを形成した結果可能になる学習形態である。具体的には,交流(学習)テーマについての意見交換を通した学習の広がりや深まりを求める,環境学習のように他地域の情報を得て,地域内だけでない広い視点から学習課題にアプローチをする,他校の事例と比較しながら,自らの地域での学習を追究する学習などがある。さらに,本や音楽,劇などの共同制作,イベントの共同開催といった活動を通して,互いの役割分担,コーディネートなど共同学習の仕方そのものを学習課題とする,相手校との仲間意識を育て,共同学習することそのものの面白さ,喜びを実感する交流活動,などが想定される。
3 テレビ会議システムについて
愛知エースネットでは,接続校から閲覧できる内部ページから,テレビ会議システムを利用することができる。以下に,その手順の概要を説明する。
(1) パソコンの準備
ア プラグインのインストール
初めてテレビ会議システムを利用するパソコンでは,プラグインと呼ばれるプログラムのインストールを行う。プラグインとは,あるアプリケーションソフトに追加機能を提供するための小さなプログラムの総称である。元から搭載されている機能だけでは実現できない,動画や高品質の音声の再生など,様々な機能が,プラグインを追加することによって実現することができる。
イ 接続試験
会議のための接続試験を行う。会議室に入って,マイクやスピーカーの調子,声の大きさや画面の状況など,本会議での環境をそのまま再現しながら接続試験を行う。ここでの機器設定の環境でもって,本会議に臨むことになる。
(2) テレビ会議の予約・利用
ア 利用申込書の送信
本会議に先立って,利用申込書を管理者にメールで送信する。その送信した内容を管理者が確認した上で,送信アドレス宛に手続き完了のメールが返信される。その中に,本会議を予約するための各種情報(IDやパスワードなど)が記載されているので,その情報に従って本会議を予約する。
イ 本会議の予約
手続き完了のメールの中にあるハイパーリンクから,本会議を行う具体的な日時を,再度,管理者宛てに送信する。その際,ログインIDやパスワードを入力する必要がある。また,会議参加者全員のメールアドレスも入力する。その各アドレスに,本会議に参加するためのURLを掲載したメールが送信される。
ウ 本会議の実施
会議日時の確認のためのメールには,本会議に接続するためのURLも記載されているので,そのリンクをクリックすれば,本会議のサイトへ入ることができる。ここでテレビ会議を利用する。
以上,会議を行うまでの概略を示した。
4 実践について
今回報告する実践については,以下のとおりである。
実践1 「テレビ会議システムを活用した交流 part2」(交流型)
愛知県立豊田高等養護学校
実践2 「テレビ会議システムを利用した交流活動」(交流型)
愛知県立港養護学校
実践3 「将来同じ中学校に通う他の小学校との交流」(交流型)
蟹江町立須西小学校
実践4 「碧南市技術・家庭科Webページを使った交流」(参加・共同学習型)
碧南市立新川中学校
以下,これらの実践について,順に報告する。
−実践1− 「テレビ会議システムを活用した交流 part2」(交流型)
愛知県立豊田高等養護学校
本校は,軽度の知的障害のある生徒たちを教育する県下に2校しかない産業科の高等養護学校である。本校の交流活動は,地域交流が主体であり,学校間交流については,部活動の練習試合以外には行っていなかった。昨年度のテレビ会議システムによる交流では,1年の生徒と安城農林高等学校農業クラブとの交流を行い,生徒の感想としては,「緊張しながらも,楽しかった。便利だと思う。またやってみたい。」といったものが多かった。しかし,「機器の設定と操作の難しさ,生徒の目的意識の不明確さ」が課題としてあげられた。今年度(2年目)については,「より楽しい交流」を目指し,本校女子バスケットボール部の部員と,阿久比町立阿久比中学校(特別支援学級)との約30分間の交流を行った。そのときの活動について報告する。
T 交流計画
7月 阿久比中学校と交流内容について検討
交流実施計画立案(部会・運営委員会)
8月 阿久比中学校とテレビ会議システムのテスト
9月 テレビ会議の予約
テレビ会議システムを使った交流について生徒に対して説明を行う。
阿久比中学校からの質問に対する回答と自己紹介の内容を考える。
10月 交流前日,機器の設定を行う
交流を実施(本校女子バスケットボール部13名と阿久比中学校特別支援学級の生徒7名)
交流についての感想をアンケートにより集約する。
U 実践報告
(1) 使用機器
本校視聴覚室を会場に交流のための機器のセッティングを行った。ノートパソコン,デジタルビデオカメラ2台(撮影用と記録用),三脚,外部スピーカー,プロジェクタ,有線マイク,マイクスタンド
(2) 交流の内容
ア 学校紹介
本校は愛知県で最初に創立された高等部のみの知的障害養護学校で,開校から17年目を迎えている。これらのことも含めながら,女子バスケット部のキャプテンから部活動の紹介を中心に,12月に行われる県大会で優勝を目指していることを紹介した。
イ 自己紹介
阿久比中学校からの個人への質問(学年,名前,コートネーム,好きな教科,好きな曲,好きな食べ物等)を踏まえて,各自が自己紹介を行った。
ウ 阿久比中学校から本校への質問事項
@ どんな授業がありますか。(学校)
A 好きな教科は何ですか。(個人)
B 中学校の時にやっておくとよかったことはありますか。(個人)
C 力を入れていることは何ですか。(個人・学校)
D どんな行事がありますか。(学校)
E 中学校に比べて楽しいことは何ですか。(個人)
F 登校時刻,下校時刻,一日のスケジュールを教えてください。(個人・学校)
G どんな部活動がありますか。(学校)
H 盛んな部活動は何ですか。(学校)
I 今,流行っていることは何ですか。(学校)
J 今,はまっていることは何ですか。(個人)
K 好きな曲は何ですか。(個人)
L 今,頑張っていることは何ですか。(個人)
M 好きな食べ物は何ですか。(個人)
両校の学校紹介,自己紹介を行った後,阿久比中学校から本校への質問に生徒が答える形で進行した。打ち解けた後はお互いのパフォーマンスで盛り上がる場面も見られた。
エ 交流後の生徒の感想(本校13名)
(ア) 交流は楽しかったですか。
はい:12名
・実際に顔や姿を見ながら話すことができて楽しかった。
どちらとも言えない:1名
・声が聞き取りにくく,何を言っているか分からないときがあった。
(イ) インターネットを使った交流は便利だと思いますか。
はい:11名
・遠い人たちとも顔を見ながら話せるので便利だと思う。
どちらとも言えない:2名
(ウ) 今後もテレビ会議システムを使った交流をしてみたいですか。
はい:10名
・とても楽しかったから。
いいえ:1名
どちらとも言えない:2名
・あまり話すことが得意ではないから。
(エ) 次回は,どのような相手と交流をしてみたいですか。
・ 出身中学校
・ 県内の養護学校や高等学校
・ 他県の学校
・ 有名なバスケットボールチーム
V 成果と課題
(1) 成果
生徒たちは,中学校時代から各学校において交流活動を体験してきているため,比較的抵抗感なく取り組むことができた。交流相手としては,日ごろからスポーツを通して共に汗を流し,励まし合っている女子だけの集団である部活動としての交流を設定したことで,生徒たちの仲間意識も深まり,楽しく参加できた。また,ほとんどの生徒がパソコンの操作経験があり,コンピュータを使った交流にも興味をもつことができた。生徒たちは,今回のテレビ会議システムを使った交流に参加したことで,遠隔地の人たちとも交流ができることを知り,出身中学校や高等学校,部活動のライバル校やバスケットの実業団チームへと興味は広がっている。
(2) 今後の課題
ア テレビ会議システムの利用について
研修ではマニュアルどおり活用できるが,期日が経過すると,うまく活用できなくなるおそれがある。活用頻度を多くし,設定に慣れることで,さらなる活用の可能性が広がると考えられる。
イ 機器の設定について
これらの活動を実現させようとする場合,ノートパソコン,プロジェクタ,外部スピーカー等,接続する機器が多い。さらに,今回については,交流途中で外部スピーカーが不良となり,音声が聞こえなくなるトラブルが発生した。四人の顧問で交流に参加していたため,代わりのスピーカーを急遽用意することができたが,不測の事態に対応できるようにするため,校内の協力体制も必要である。
ウ 交流日時の設定について
交流校それぞれの授業の時程(時間帯)の違いにより,交流時間の設定が難しい。そこで,今回は課外活動である部活動の時間を利用することにした。しかし,そこにおいても,本校にとっては,交流しやすい時間であったが,相手校にとっては特別支援学級の生徒を残すことになった。本来は,授業として実践すべき内容であると思うが,特別時間割の設定や時間割変更が必要となるため,学校全体の理解と協力が必要となる。
エ 様々な相手との交流の可能性について
テレビ会議システムを利用して,生徒の興味は広がりを見せた。春日井高等養護学校や半田養護学校桃花校舎等,バスケットボール部のライバル校や,さらに実業団チームとの交流を望んでいることが事後のアンケートより分かった。今後も交流の実践を積み重ねることにより,愛知エースネットの枠を超えた交流相手との実践研究が必要である。
W 授業計画における留意点と実現される学習
実際のテレビ会議では,メモなどを読むのが精一杯で,相手の意見にその場で返答できない場合があった。質問に対してうまく答えられなかった経験から自分の考えや思いを確実に伝えることの難しさを学ぶ機会となった。このような他校の生徒との交流を通して,友達の会話を聞いたり,自分の会話で気付いたことなどを振り返ってまとめたりする活動は,新しい学習指導要領にある言語活動の充実にもつながる。
さらに,情報通信ネットワークを活用した今回の活動は,情報リテラシーやコミュニケーション・スキルを向上させる機会にもなる。したがって,事前指導においては,交流する「相手がいる学習」であることを意識させる視点が重要である。また,思いはあるが言葉としてうまく表せない体験を通して,その後の学習課題が具体的に表出し,その一つ一つに前向きに取り組む学習活動を充実させていくことが重要である。
−実践2− 「テレビ会議システムを利用した交流活動」(交流型)
愛知県立港養護学校
−実践3− 「将来同じ中学校に通う他の小学校との交流」(交流型)
本校高等部は,肢体に障害がある生徒が在籍している。校外で活動する機会は少ないが,十数年にわたり中川商業高校と学校行事を通して交流活動を行っている。具体的には,毎年,本校商業科と教育課程T・Uの生徒が中川商業高校を訪ね,その学校祭に参加している。ところが,今年度に限って,本校の校内実習と学校祭の日にちが重なり,残念ながら訪問することができなくなってしまった。そこで,テレビ会議システムを利用することで,お互いの活動や行事を紹介し合う新しい交流活動を試みた。
T 交流計画
5月 テレビ会議システムの設定,及び,生徒会顧問,生徒指導部,
教務部,進路指導部の代表者と交流活動の可能性について検討
6月 中川商業高校の生徒会顧問(交流活動担当)に検討を依頼
8月 中川商業高校のパソコンへのテレビ会議システムの設定と試験送信
9月 テレビ会議システムを利用した交流活動の実施を確認
日程,具体的内容の検討
テレビ会議システムを利用した交流活動の実施
10月 感想をメールで送受信
U 実践報告
(1) 交流活動計画立案までの流れ
年度当初,中川商業高校の学校祭に本校の生徒が参加できないことを知り,テレビ会議システムを利用することでお互いの紹介や様子を報告し合うことができないかと考えた。パソコン等の機器の障害が無いことを確認し,まず,本校生徒指導部,生徒会顧問,校内実習担当の進路指導部等で相談し,その後,中川商業高校に交流活動について提案した。その後,具体的な交流活動の内容や時間等をお互いに調整し合いながら活動計画を作成した。
(2) 交流活動の準備
@ 機器の確認とパソコンへのテレビ会議システムの設定
A 校内でのテレビ会議システムの動作確認と交流活動に参加する生徒への説明
B 中川商業高校とのテレビ会議システムの接続確認
C 交流活動計画の部会,運営委員会への提案
D 授業等においてテレビ会議システム(校内)の練習
E 前日,中川商業高校生徒会役員と本校職員との接続テスト
F 当日朝,生徒会役員と中川商業高校とでテレビ会議システムの接続を確認
G 交流活動の実施
(3) 使用機器
(本校一般教室)
デジタルビデオカメラ,三脚,マイク,パソコン,ネットワークケーブル,スピーカー,プロジェクタ
(本校商業実践室)
Webカメラ,マイク,パソコン,スピーカー
(中川商業高校(パソコン教室))
Webカメラ,ヘッドセット,パソコン
(4) 交流活動の内容
@ あいさつ
A 自己紹介と本校校内実習の紹介
・実習の目的について
・作業の内容について
・作業の様子について
B 中川商業高校学校祭の紹介
C 質問コーナー
D 終わりのあいさつ
E 後日,感想のメール交換
V 成果と今後の課題
スクリーンやディスプレイに映る相手の姿を見ながら話をするので,予定時間いっぱいまで楽しい雰囲気で交流活動ができた。その一方で,緊張していた上に相手の言葉が聞き取りづらいときもあった。やりとりがなかなかスムーズに進まないこともあり,今後の課題となった。今回の交流活動に当たって出てきた技術的な留意点や問題点は,以下のとおりである。
@ パソコンのスピーカーでは聞き取りにくいので,アンプ付きのスピーカーを使った。また,Webカメラのマイクを使用して常時マイクをONにしておくと雑音がひどい。外部マイクを使用したら雑音はなくなった。
A 何回か練習し,画面や音声に慣れておくと話に集中できる。
B Webカメラよりもデジタルビデオカメラの方が解像度が高く,鮮明な画像が得られる。
C 校内のネットワーク環境が整っていないと準備等に大変手間がかかる。
D 常時マイクをONで使用したため,スピーカーから自分の声が聞こえてしまい内容が聞きづらく,何度も聞き直したり話が途切れてしまった。
このような問題点もあるが,以下のような効果も期待できる。
@ 映像と一緒に伝えられるため,雰囲気や内容が伝わりやすい。
A 相手の顔を見て話すというコミュニケーションが可能である。
B 日常,移動が困難な生徒にとっては,交流の機会を増やすことができる。
W 授業計画における留意点と実現される学習
これらの取組で効果的な指導を実現するのに重要なポイントとして挙がったのは,何といっても,適切な交流の相手の開拓である。個人的・個別的なつながりから相手を探す場合や地域内の組織や団体と協力して実施する場合,企業やNPO,あるいは特定の学校がホストになり参加を呼びかける場合などの参加形態が考えられる。何かの企画や行事に参加する方法もあるであろう。その内容によっては,既に実践している指導者からのノウハウを得ることも期待できる。
一口に交流学習といっても実際には,様々な活動形式がある。交流のテーマ,使用するメディア(情報の手段),その実践で学習者に付けさせたい力との兼ね合いになってくるが,この交流活動のねらいと活動の内容が一致すれば,期待以上の成果が得られるだろう。例えば,国際交流など,相手を理解し,コミュニケーションできるようになることそのものを目的とする交流,お互いの地域を舞台にした学習活動の経過を報告し合い,話合いによってそれぞれの学習を進める実践報告,調査方法や具体的な行動のフォーマットを決めておいて,その結果をデータベース化する共同学習,レポートの共同制作や対面の会議の開催など,具体的な目標を決めて活動する「協働」にまで発展する可能性がある。今回の実践のように,相手を理解し,コミュニケーションできるようになることそのものを目的とする交流では,それぞれの実態そのものが児童生徒の興味関心を引き出す要素になる。そのためにも直接対面して話をすることで理解していくことが大切ではあるが,それに代わる手段としてテレビ会議システムを利用することにより,相手を理解しようとする気持ちの育成,基本的な話し方,聞き方の学習が実現できた。
蟹江町立須西小学校
−実践4− 「碧南市技術・家庭科Webページを使った交流」(参加・共同学習型)
本校は各学年2学級で,全校300人程度の比較的小規模な学校である。このような小規模校において情報通信ネットワークを活用した学校間の交流を行うことは,児童にとって,教育内容の選択の幅を広げるとともに,小規模校ならではの特色ある教育活動等を相互に発信したり,小規模校ならではの課題(日常,交流できる児童の少なさなど)を補完するなど,教育上,望ましい成果を期待できると考えられる。
そこで,愛知エースネットのテレビ会議システムを利用して,他校の児童と交流活動を行うことで,児童のコミュニケーション能力を向上させたいと考えた。また,この活動を通して,児童がコンピュータを操作する機会が増えることで,その特徴や魅力に気付かせ,情報機器の活用能力の向上を図っていきたいと考えた。
T 交流計画
8月下旬 交流校(蟹江町立学戸小学校)との打ち合わせ
9月初旬 交流校のホームページ閲覧
10月 学級紹介に関するビデオレターの作成
ビデオレターの鑑賞
11月 テレビ会議のシステム確認と調整
12月 テレビ会議のリハーサル
テレビ会議システムを利用した交流活動
色紙に交流の感想を書き,交流校に贈る(交流のまとめ)
U 実践報告
(1) 使用機器
ビデオカメラ,三脚,外部マイク,パソコン,プロジェクタ,ネットワークケーブル,
パソコンとビデオカメラを接続するケーブル
(2) テレビ会議システムを利用した交流活動の内容
@ あいさつ(5分)
A 自己紹介ゲーム(40分)
事前に考えておいた自己紹介を行い,その後自己紹介の中からクイズを出題させた。学戸小の児童と本校児童が交互に自己紹介した。クイズは,自己紹介が一通り終わってから行った。
B 友達ビンゴ(15分)
「好きな食べ物」をテーマにし,事前にビンゴカードを完成させておいた。発言する順番は抽選箱から引いて決めた。
C ジェスチャーゲーム(20分)
お題カードを引き,テーマに合うものをジェスチャーさせた。順番は,抽選箱から引いて決めた。
D 感想交流(10分)
V 成果と課題
(1) 成果
卒業後は同じ中学校に通うことになる学戸小学校に交流学習をお願いし,3年生同士で交流を行った。テレビ会議での交流を行う前に交流校のホームページとビデオレターを見たことで,相手校の児童の名前を覚えていた。そのため,交流活動の際,意欲的にコミュニケーションをとろうとしていた。また,今回のようにインターネットを利用した交流は初めての経験であり,スクリーン越しでの交流を楽しそうに行っていた。このような機会を通して,コンピュータの魅力に気付かせ,関心をもたせることができたと感じている。
(2) 問題点
交流を行った結果,出てきた問題点は以下のとおりである。
@ 音声が明瞭でなかったことで,予想を上回る時間がかかった。
A パソコンだけの音量では小さすぎたため,聞き返す回数が多くなった。音量を上げる手だてとして,スピーカーを使う必要があった。
B 接続中にも関わらず,自動的にログアウトしてしまい,交流中に何度か接続し直さなければならない状態になった。
C 1回の交流では,コミュニケーション能力を向上させるには不十分であった。交流する回数を増やすことが求められる。
(3) 今後の課題
@ 定期的に交流ができるように,ネットワーク環境の整備をしたり,使用機器を揃えたりする。
A 音声が明瞭に届けられる手だてを調べたり,自動ログアウトした原因を解明したりして,より円滑な交流ができるようにする。
B 綿密な交流計画を立て,コミュニケーション能力を向上させられる手だてを考え,実践する。
W 授業計画における留意点と実現される学習
この実践の場合,「伝えたいことがある」「聞きたいことがある」という必然性を生じさせながら,相手との仲間意識が芽生えるような支援をすることが重要なポイントである。例えば,顔写真つきの自己紹介カードを送り合う「私は誰でしょう?」ゲームをテレビ会議でするなど,「この相手に,こんなことを伝えたい」という気持ちを引き出していきながら,活動を進めるにしたがって,相手校の一人一人の顔が見えてくるような工夫がその具体的な手だてとして考えられよう。また,共通の目標のもとに,お互いが学び合い,高め合うような仲間意識を築くことができれば,学習者の主体的な活動として交流学習を展開することができる。また,この活動を通して,児童がコンピュータを操作する機会が増えれば,その特徴や魅力に気付き,情報機器の活用能力の向上が期待できる。
碧南市立新川中学校
碧南市では技術・家庭科の作品展が開催されていない。生徒の作品発表を行う機会があると,生徒の作品製作への意欲を高めることへつながる。そこで,碧南市の技術・家庭科のWebページを作り,その中で作品発表をすることを考えた。また,発表された作品の閲覧,製作方法や工夫点,工具の有効な使い方など電子メールを用いて交流することで,意欲的に活動したり,学習の理解を深めさせることができると考えた。
T 交流計画
5月 碧南市教育研修会技術・家庭科部会にて活動内容の提案をする。
6月 碧南市技術・家庭科のWebページを作成する。
7月 作品の募集を開始する。
9月 作品をWebページ上で閲覧できるようにする。
10月 交流の開始
U 実践報告
Webページの作品一覧を閲覧し,メールにて交流を行った。以下に,メール交換を行った2つの中学校との交信の内容の一部を紹介する。
(1) 碧南市立西端中学校との交流
新川中から西端中への質問
西端中から新川中への返信
@
作品をつくるとき,私はくぎうちで木が割れてしまいました。割れないように気を付けたことは何かありますか。
・きりで下穴をしっかりあけてから釘うちを行いました。・二人一組で作業を行い,釘うちの時は,友達に支えてもらい作業をしました。
・釘の長さは,25mmを使用しました。A
作品4ですが,棚の真ん中の板がすごく正確にまっすぐ接合されています。どのような方法で釘うちを行ったのですか。工夫したことがあるのですか。
・組み立てでは,友達に板をしっかり押さえてもらい,ずれない状態で釘を打ちました。部材の加工段階で,できるだけ正確に材料取りを行いました。
B
本立てがぐらぐらしないためのポイントは何ですか。また,裏板の材質は何ですか。調達方法も教えてください。
・裏板や背板をしっかりとつけることで,本立てのぐらつきはかなり解消されます。裏板の材質は,アガチスの一枚板を使用したので,他の部材と同じアガチスです。もし裏板ならベニヤを使うのもよいと思います。
C
作品1さんへ質問します。上のところに取っ手のようなものがついた板がありますが,何に使うものですか。何を使って加工したのですか。何か塗装はしましたか。
・手で持つことも可能ですが,本来は壁掛けにもなるように穴を開けました。加工方法は,まずきりで穴を開け,糸鋸を使い,切りました。あとは,やすりで仕上げました。
・塗装はしていません。#240の紙やすりで仕上げました。D
作品2を作った方への質問ですが,どのように組み立てたらスライドさせることができるのですか。木が細くなりますが,強度的には大丈夫ですか。
・スライドする仕組みは,設計図を送りますので,見てください。
・入れるものが,本であり机の上に置く形で使用するので,この細さでも十分に強度はあります。
(2) 碧南市立東中学校との交流
東中から新川中への質問
新川中から東中への返信
@
作品1のキーホルダーですが,字のくりぬき方法はどのようにしたのか教えてください。
・実際に行った方法は,ドリルでφ3の穴をあけ,鉄工やすりで削りました。
・ドリルで穴をあけた後,糸のこを使うこともできます。A
とてもつやつやしていますが,材料は何ですか。また,どのように加工するとつやがでるのですか。教えてください。
・材料は,真ちゅうです。・表面の加工は,#180紙やすり→#1000やすり→コンパウンドで磨きました。ていねいに磨くと鏡のようになり,顔も映ります。
B
チェーンの取り付け方法を教えてください。
・リベットで止めました。リベット止めは,φ2.6の穴をあけ,リベットを通し,ハンマーでたたきながら,形を整えながら,取り付けました。
V 成果と今後の課題
Webページで生徒の優秀作品を閲覧できるようにした。優秀作品に選ばれたい,自分の作品を掲載させたいと意欲をもつ生徒も出てきた。また,作品を閲覧してみて,分からないことや疑問に思ったことを電子メールで質問することで,自発的な交流活動を行う機会にもなった。
今年度は,Webページを立ち上げるところから始めたので,作品掲載までに時間がかかり過ぎた。また,作品の出品数も少なかった。今後は,出品数を増やし,計画的・効果的に交流を進めていきたい。
W 授業計画における留意点と実現される学習
ここまで挙げてきたような学習を実現するには,交流する教師間の綿密な連携が不可欠であることを痛感した。交流テーマについての話合いや,交流期間を通した大まかな学習の流れを共有するのはもちろんのこと,日ごろから,学習者のメールや掲示板上の書き込みから学習者の実態を交えて情報共有しておくことで,交流を意識した指導(言葉足らずな表現への的確なアドバイス,積極的な情報交換をする生徒への称賛など)をすることができる。テレビ会議では,お互いの時間帯の調整や機器のテストなど,教師間でセッティングする事項も多くなるが,より重要なのは,相手を意識して伝える話し方や聞き方,分かるまで聞き返すことや思いを受け止めること,文章表現に気を付けること,相手の個人情報を保護することなどである。つまり,学習者にどのような力,態度を育てようとしているのかを共有しておくことが極めて重要である。
今後,更に交流のテーマに対する理解を深めていくためには,お互いの「差異」を活かした比較,討論も有効であると考えている。地域や学校文化の違い,あるいは発表の仕方,調べる手段の選び方の違いは,お互いの立場を理解し,多面的に問題を考える場面を設定できる。交流を続けているうちに,教師自身も想定していなかった差異を発見し,そこから新しい交流が展開することもある。思わぬところから学習が発展していくことも,学校間交流の効果として積極的に活かしていきたい。
5 研究のまとめと今後の課題
本研究では,参加交流学習を通して,これら情報活用能力の育成に関してどのような可能性があるかを考察してきた。その際,交流型,参加型,共同学習型の3つの学習形態から,実践がどのように計画され,どのような学びが起きているのかを明らかにし,「参加・交流学習によって,どのような学習が実現されるのか」という全体像を描くことを目標にしてきた。その結果,以下のような成果と課題を見出すことができた。
@ 交流型では,児童生徒のコミュニケーションに対する興味関心と適切なメディア選択,さらに,メディアごとに求められるスキルの向上に取り組むことで,各々の指導場面での教師の具体的な手だてを示すことができる。
A 参加型については,これを指導する教師の役割を強調したい。授業実践場面での学級集団,個々の学習グループ,相手校など,さまざまなグループの組み合わせによって,児童生徒相互の関係をどのようにコーディネートするか,その方法を明らかにしていかなければならない。
B 共同学習型では,学校間交流を組み入れたカリキュラムを計画する視点と,より明確な学習内容を,時系列で計画して実践していく必要がある。さらに,共通の目標を設定することで,交流を深めることもできる。例えば,学習の成果を共同のWebページにまとめるような課題を設定すれば,お互いの調べた内容を再度見直す機会になる。さらに,全体の構成を話し合う,役割分担を決める,スケジュールを調整するといった,協同作業を実行する「運営力」を育てることにもつながる。
これら交流活動の型ごとに,どのようなカリキュラムの展開が可能なのかを明らかにするためには,より多様な交流実践に対して踏み込んだ分析を,今後も継続的に行わなければならない。
ところで,学校間の交流学習の多くは,総合的な学習を充実・発展させる手段として用いられている。その学校の特徴や地域性を活かした学習を展開することで,その学校,その学級にしかない学習成果が得られるからである。そして,他の地域の学校とその成果を交換して共有することは,地域を超えた広がりに目を開かせるだけでなく,自らの地域をより深く追究する動機付けにもなる。また,その過程において,必然的にさまざまな情報メディアを活用することになり,情報を収集,吟味,編集し,他校の児童生徒に分かってもらえるように表現を工夫する活動は,情報活用のプロセスそのものである。さらに,ネットワーク上で他校の見知らぬ児童生徒と出会い,関係づくりをしていく過程は,まさに情報社会に参画していくための情報モラルやコミュニケーション力が求められる場面でもある。このような学習形態を取り入れることによる効果が期待できる学習活動については,誰もが積極的に活用できるようなノウハウの集積,教育方法としての知見の一般化が求められている。
6 おわりに
平成21年3月,文部科学省から「教育の情報化に関する手引」が公表され,その中で情報教育が目標とする情報活用能力は,以下に示す3つの要素からなり,これらをバランスよく育成することが目指されている。
・情報活用の実践力
・情報の科学的な理解
・情報社会に参画する態度
こうした情報教育の目標は,情報活用能力の育成を通じて,子供たちが生涯を通して,社会の様々な変化に主体的に対応できるための基礎・基本の習得を目指しており,このことは「生きる力」の重要な要素であることは言うまでもない。また,情報教育において情報モラル等を扱うことによって育成する「情報社会に参画する態度」は,「豊かな心」に密接に関係しており,「生きる力」の育成の上でも,情報教育が非常に重要な役割を担っている。「知識基盤社会」の時代にあって,こうした「生きる力」の要素としての「情報活用能力」の重要性は一層高まっているといえる。今後,整備の進む情報環境における新しい教育方法として,学校間を結んだ交流学習が期待され,多くの実践が積み重ねられることを期待する。
<参考文献>
○文部科学省 初等中等教育局
「新しい学習指導要領について」(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/index.htm)
「教育の情報化に関する手引」(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1259413.htm)
「情報教育の目標,学習指導要領における改善内容」
(http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2009/12/01/1222245.pdf)
○中央教育審議会
「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」(答申)
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/index.htm)
○中川一史『交流学習と子どもの学び』(2004年,高陵社書店)
○永野和男『図説 教師と学校のインターネット〈3〉―情報発信・交流学習の意義とネチケット教育』(1999年,オデッセウス)
○稲垣 忠『学校間交流学習のための授業設計モデルの開発』日本教育工学会論文誌 Japan journal of educatiONal technology 30(2)pp.103-111 (2006年,日本教育工学会)
○堀田龍也『情報通信ネットワークを利用した交流学習を継続させている教師が学習指導上意図している点』日本教育工学雑誌 Japan journal of educatiONal technology 26(4) pp.325-335 (2003年,日本教育工学会)