第41回愛知県総合教育センター研究発表会報告
これからの学校教育の在り方を探る
研究部経営研究室

1 は じ め に

 第41回愛知県総合教育センター研究発表会を平成13年11月30日(金)に開催しました。当日の参加者は620人余を数え,関心の高さがうかがえました。

 午前は開会行事と千葉大学教育学部助教授の諸富祥彦先生による御講演,午後は研究テーマごとに7部会(全13分科会)に分かれて研究発表・研究協議を行いました。

 また,昼の休憩時間には,教材の展示と施設の開放を行いました。

 以下にそれらの概要を紹介します。

2 講 演

 ◆演題 「自分を好きになる子を育てる」
 ◆講師 千葉大学教育学部助教授 諸富祥彦氏

 「皆さん立ってください。目を閉じて胸に手を当てて,自分の心とお話をするところから始めましょう」という導入(グループエンカウンターのエクササイズ)で講演は始まりました。以下,簡単に内容を紹介します。 

【講演内容】

(1) 子供が変わった
 「自分を好きになる子を育てる」こんなことを20年前に言ったら批判されただろう。しかし,今は,自己肯定感が乏しく,自分を好きな子供が少ない。とにかく,子供が変わった。
(2) 子供がどう変わってきたか
 三つの時代区分で考えると子供の変化と親の変化が見えてくる。
高度成長の時代
(まじめガンバリズムの時代)
 昭和53年 
自己実現の時代
(自己中心主義の時代)
 平成 3年 
空しさの時代
(脱力主義の時代)

 脱力主義の時代の象徴としては,「女子高校生のルーズソックス」「男子高校生のだぶだぶズボン」などが挙げられる。こういった時代の文化は,その時代を代表するタレントや漫画を見ると分かりやすい。

 日本の子供は「普通」になりたい。「普通」の基準はだれが定めているかというと,子供文化をつくり出すマスコミである。ドラマ,漫画,バラエティー番組を学ばないと子供たちの「普通」の基準が見えてこない。脱力の時代で言えば,「クレヨンしんちゃん」「ちびまるこちゃん」。「クレヨンしんちゃん」を「普通」とインプットされた子供は,脱力せざるを得ない。

 昭和53年以前のガンバリズムの時代では,「巨人の星」「アタックbP」。歌詞から分かるように,男は「ど根性」,女は「忍耐」の時代。

学力低下問題 

 今の学生は確かに勉強しない。してもしなくてもそう違わないと,子供のうちから実感している。それが意欲を低下させている。こんな時代の中では,まず脱力主義が広がるのが当然である。

 意欲を高めるには体験が不可欠であるから,私は「総合的な学習の時間」というのは大賛成。総合的な学習の時間に外に出させて体験を積ませる。学校の中でもグループエンカウンターなど体験重視で子供たちの意欲を上昇させることができる。

子供に落ち着きがない

 原因はいろいろあるが,文化そのものが落ち着かなくなっている。昔はゆっくりとしたマンネリズムの世界で,このことが心の安定に一役かっていた。今は,テレビでも強い刺激にさらされ続ける。学校でも次から次へと刺激を与えすぎではないか。これで落ち着きのない子供に育っている。退屈に耐えられず強い刺激に慣らされていることが,学級崩壊に進む原因かなと思ったりする。

自己中心主義の時代

 42、3歳から上の親は学校に協力的だったという先生が多い。一方,三十代以降の親は学校に非協力的な人が増えているという。学校へのクレームも増え,教師のやる気を削いでいる。それが自己中心主義世代の親たち。

対応の難しい親への対応

 忍耐できない親が増えている。クレームをつけてくる親への対応を間違え,こじらせることが多い。理不尽なことを言う相手に正論で説得しようとしても無理。理屈は通らない。 

来校した場合の対応としては,
@ まず,部屋にお通ししてお茶を出す
A 「プラス1の原則」で対応する
 相手が一人なら担任と学年主任で,両親で来校したらさらに管理職が入って,というように。
B 話をよく聞く
 聞くことに徹して,説得しない。関係をつくることが大切。関係ができて,いいなと思ったら最後にお願いする。

一方,子供をどうするか。
@ 自己肯定感を育てる
 グループエンカウンターを定期的に行う方法もあるが,大切なのはポジティブな学級経営。担任がいつも子供のよいところを探して「やったー,拍手」のような温かい雰囲気のある学級にすること。逆に,先生が悪いところばかり探していると子供同士もお互い悪いところばかりを見付けて,いさかいが多くなる。自分に対しても,悪いところばかりに目がいって,自分を好きになれなくなってしまう。
A 人間関係力を育てる
 今の子供はピアプレッシャー(みんな一緒でなくてはという同調圧力)に苦しんでいる。グループからはずれないようにと気を使っている。できることは,グループエンカウンター。新学期のスタートが勝負。しかし,いつかグループはできるから,やはり,いやなことは「いや」と言える人間関係力をもった子供を育てるしかない。今の子供に不足しているのがこの人間関係力である。こういった能力を育てるのがアサーショントレーニング。困ったときに,どんな風に伝えるかをやって見せ,ロールプレイでやってもらう。そこまでして人間関係力を育てる必要があると思う。

3 教 材 展 示
・ 平成12年度「愛知県自作視聴覚教材コンクール」優秀作品
・ 発声発語訓練システム
・ ハンディキャップ支援装置(キネックス)
・ 点字ディスプレイ及び点字プリンタ
・ 教育研究論文

4 施 設 開 放
・ 図書資料室 
・ ソフトウエアライブラリ
・ 教育情報棟(第3実習室)
・ 特殊教育棟(検査室,行動室,実習室)

5 研究発表・研究協議

○ 小・中学校「総合的な学習の時間」に関する研究

【概要】「総合的な学習の時間」に関する指導内容・指導方法及び運営上の諸問題についての研究を行い,各学校が創意工夫を生かした実践を行うための支援をすることを目的としている。小学校3分科会,中学校2分科会の計5分科会に分かれ,センターからの基調提案,各学校の実践発表の後,様々な内容について協議した。

○ 県立学校「総合的な学習の時間」に関する研究

【概要】県立学校における「総合的な学習の時間」に関する指導方法及び実施上の諸問題について研究を深め,各学校において円滑に実施されるよう支援することを目的としている。県立高等学校関係と県立盲・聾・養護学校関係の2分科会に分かれ,実践事例を通して研究協議を行った。

○ 高等学校国語科指導の充実に関する研究

【概要】コンピュータや情報通信ネットワークを利用した国語科の授業の可能性や有効性について研究を深め,各学校での実践上の参考とし,国語科の授業の更なる活性化を目指すことを目的としている。実践発表の後,研究協議とパート別演習などを行った。

○ 新しい家庭科に向けて二つの提案

【概要】 新しい家庭科は二つの柱から成り立っている。一つは小〜高等学校まですべての子供が学ぶ普通教育としての「家庭」であり,もう一つは将来のスペシャリストを目指す専門教育としての「家庭」である。これら二つの家庭科の在り方について研究した内容を報告した。

○ 予防・開発的教育相談の在り方に関する研究

【概要】予防・開発的教育相談の手法として構成的グループエンカウンターの実践を試み,その実践例を収集するとともに留意点をまとめ,各校種に適したエクササイズを開発することを目的としている。基調提案と実践発表の後,研究協議を行った。

○ 教育相談における言語・コミュニケーション障害の理解と支援に関する研究

【概要】言語あるいは人とのコミュニケーションに問題を抱える子供に対する望ましい教育相談の在り方を追究するとともに,所属する学校との連携を図り,保護者支援や学習支援の在り方について研究を深めることを目的としている。基調提案と実践発表の後,研究協議を行った。

○ 情報教育の現状と課題 情報教育推進のための調査研究

【概要】「教育の情報化」の過渡期における現状と課題を把握し,今後の情報教育推進のための一つの方向性を示すとともに,各学校での取組の支援となることをねらいとして研究を進めている。前半の全体会の後,「愛知エースネットの取組」と「新設教科『情報』の指導法に関する研究」の二つの分科会に分かれて,それぞれのテーマに沿って研究協議を行った。

6 お わ り に

 諸富祥彦先生の講演では,自己肯定感を失っている子供への指導の在り方や,難しくなっている人間関係力の育て方などを具体的に示していただきました。また,各研究発表部会における研究協議の場では,多くの先生方から御意見をいただきました。これらの貴重な御教示や御意見を今後の研究に生かしていきたいと思います。




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