第43回愛知県総合教育センター研究発表会

平成15年11月21日(金)

1 はじめに

第43回愛知県総合教育センター研究発表会を平成15年11月21日(金)に開催した。 県外からも含め、約520人の参加者があり、関心の高さがうかがえた。
午前は、開会行事に続き、九州大学大学院教授の八尾坂修氏による御講演、午後は、 研究テーマごとに6部会(全8分科会)に分かれて研究発表・研究協議を行った。 その他に、教材展示と施設開放を行った。
なお、講演会については、エル・ネットによるリアルタイムのCS配信を行った。
以下にそれらの概要を紹介する。

2 講 演

◆演題「学校評価をめぐる今日的方向と展望」

◆講師 九州大学大学院教授   八尾坂修氏

【講演内容の紹介】

○ 今、なぜ学校評価が必要なのか

戦後の学校評価は、教育政策としてアメリカから輸入したものである。当時、日本では「中学校・高等学校、 学校評価の基準と手引き」という試案を出しているが、あまり浸透しなかった。
しかし、当時の考えは間違っていなかったと思われる。そこには学校評価をめぐる心得が書かれている。 つまり、学校評価は、学校の改善、先生の成長が本来のねらいであり、能力開発に生かすための評価観であることが重要であり、 「あら探し」の発想では学校評価は長続きしないと述べられている。
実は学校評価は既にどこの学校でも行われているのである。例えば、毎学期の反省も学校評価である。 では、なぜ今、設置基準で制定するのか。それは、これまでの学校評価は学校内部だけのもので、 外からはほとんど中身が分からないのが実状であった。今日、学校には地域とのかかわりが求められてきており、 学校の状況を明らかにすることで地域の協力が得られる。つまり、アカウンタビリティ(説明責任)の発想の一つである。

○ 外部評価の導入

既に50年前に、客観的な評価のために外部から意見を聞くことはよいことだという声はあった。 これからの学校の自己評価は管理職だけでなく、職員全員が参画する評価である。学校の欠点ばかり探すのではなく、 よいところも見ていく発想、そこから課題も発見されるというとらえ方である。最終的には学校の自己評価を行うことで、 先生方に「やる気」が出るものでなければいけない。
さらに、学校を点検した結果を地域に明らかにすることで協力いただき、相互の信頼関係を築くことが重要である。 それにより、学校と地域が一体になって教育にかかわっていこうとする姿勢が生まれる。
保護者は、学校についてもっと話し合い、聞く機会がほしいと感じている。学校はいろいろ伝えていると言うが、 保護者は知らないことが多い。学校運営に関する質問事項等で診断してみると、保護者が答えられない項目が結構あるものだ。
また、子供にも評価の趣旨をきちんと説明すれば、彼らなりの考えを言ってくれる。 「先生がひいきしている」といった類の情報ではなく、例えば「授業で地域の人が話をしてくれる機会があると楽しい」とか、 「障害のある子のためにエレベーターがあるといい」といった子供なりの発想が参考になることもある。
高校となると、個性豊かないろいろな学校がある。しかし、学校をランキングするのではない。 それぞれの学校が頑張っている特色ある取組が評価される。実際、やってみると有益な意見が幾つも出されている。

○ 他県の事例から

学校評価は、大きく「内部評価」と「外部評価」の二つに分けられるが、今求められているのは、 外部との関連を付けながら行う評価というとらえ方である。他県の先進的な取組を見るとPlan・Do・Seeのマネジメントサイクルの中で、 外部からの意見も取り入れている点が特徴だ。
生徒からの授業評価も始まりつつある。判断能力が出てくる中学校や高等学校の段階になると自己評価の中に、 授業についての様々な評価項目も入れるというものである。生徒にとって分かりやすい効果的な授業が行われるよう、 授業改善を図ることが目的である。

○ 目標の指標化

学校経営計画を中期経営目標、短期経営目標という視点で分析しながら評価していくとらえ方に立って、 これに関する冊子(マニュアル)を作った県もある。これまでと違うのは、目標をより具体化し、 保護者も分かる言葉で表現されていることだ。
ある小学校の例では、「学力テストの偏差値を○○点以上にする」と目標を決めている。 平均を高めるにはどう授業をしたらよいかなど、具体的な目標達成のための実施計画を立てている。
これらはあくまでもサンプルである。主体は学校だから、各学校でやれるものから取り組む方がよい。 要は誰にでも分かる目標にすることだ。中には簡単には達成できないものもあろうが、 学校が自ら課題に積極的に取り組むことで、信頼関係がより高まることは確かだ。 数値、指標的なものが目標に含まれることが当たり前になるかもしれない。

○ ビジョンをもち、アクションを起こす

学校選択制を始めた市もある。そういった地域の学校では、学校が一体になって自己点検を行い、改善の方策を考え、学校が抱える課題やよさ、頑張って取り組んでいる事柄等をいろいろな場で説明している。
目指す学校像、ビジョンを明らかにし、そこから中期経営目標を立て、短期経営目標(より具体化した目標)を示すことで共通認識を図り、自己点検、自己評価を行う。つまり、学校経営計画が学校の評価とリンクする。
要は、いかに目標を具体化して、先生方が一丸となって頑張るかを公にすることである。これは今までになかった発想であると思う。

○ 教師の「協働性」

最終的に落ち着くところは教師の「協働性」である。これからは、単に校長、教頭等の管理職が行う評価ではなく、職員全員が参画意識をもって取り組む学校の自己点検、自己評価でなければならない。
「協働性」には、三つの視点があると考える。一つは「同僚性」。管理職も含んだ意味の「同僚性」で、互いに意見を出し合い、プロセスの中で吸い上げる発想、互いに受容的な歩み寄りの評価観である。
二つ目は「革新的なとらえ方」。短期経営目標は革新的と感じられるものである。現状では、もし先生方の学校でこの方針を打ち出せば保護者は驚くだろう。 しかし、これまでの抽象的な目標と比べ、悪くなったと思われることは絶対ないであろう。これは、学校の前向きな行動を示すものである。
三つ目は「自律性」。最終的な実行主体は学校である。各学校の実情に応じてできることからいろいろな試みに挑戦していくのがこれからの学校評価観と思う。
最後は、学校評価に基づく結果から、学校としてアクションを起こすかどうかである。これまでも評価はなされていたが、その評価が改善にどうつながっていったのかが明確でなかった。 学校がどのようなアクションを起こしどんな改善を実現しようとするのか。それこそが県民が学校に期待していることだと思う。

3 教材展示、施設開放

以下の内容で教材展示、施設開放を行った。特に、今回は特殊教育関係の教材と施設について、 特殊教育相談研究室の所員による説明や機器のデモンストレーションを行い好評であった。
【教材展示】
【施設開放】

4 研究発表・研究協議

次の各研究について発表と協議を行った。なお、当センターの研究の詳しい内容については、当センターホームページ、 及び、今年度末発行予定の「研究紀要第93集」(CD-ROM版)をご覧いただきたい。

○ 評価規準・評価方法等の開発に関する研究

【概要】
当センターからの基調提案の後、A分科会(小学校 国語、社会、算数、理科)、B分科会(小学校 生活、音楽、図工、体育、家庭)、C分科会(中学校 国語、数学、技術・家庭)の3分科会に分かれ、 各教科において授業実践してきた「指導と評価の一体化を目指した実践研究」について、その研究成果及び課題等を口頭発表し、研究協議を行った。

○ 高等学校国語科における評価規準、評価方法等の在り方に関する研究

【概要】
指導と評価の改善・充実のためには、観点別の評価規準・評価方法等を設定した年間学習指導計画を作成し、これに沿った授業を工夫することが肝要である。 そこで、当センター研究会で作成した国語科年間学習指導計画を紹介し、諸課題を明らかにするとともに、具体的に各領域における指導と評価の実践例を発表し、研究協議を行った。

○ 高等学校数学科における評価規準、評価方法等の在り方に関する研究

【概要】
目標に準拠した観点別評価を実践する上で、従来の方法では難しいと思われる「関心・意欲・態度」「数学的な見方や考え方」という情意面の評価を、 生徒の「振り返り」「自己評価」を取り入れて行ったり、各学校でも整備が必要となる「観点別の評価基準に沿った評定への総括」を試みたりするなど、今抱えている諸課題に対応する視点を提案し、研究協議を行った。

○ 先端技術等を導入した実験・実習の在り方に関する研究

【概要】
産業界で必要とされるより高度な知識や技術・技能の急速な進展に主体的に対応できる生徒の育成を目指して、様々な先端的な技術(バイオテクノロジー、 地球環境保全技術等)を導入した実験・実習の在り方を提案するとともに、全ての学科で応用できる実践例を紹介し、研究協議を行った。

○ 教育相談における軽度発達障害児の理解と支援に関する研究

【概要】
軽度発達障害児の基礎研究及び教育相談を踏まえて、通常の学級に在籍する軽度発達障害児の理解と支援の在り方、 教育上の諸問題の解決や担任の支援を検討する校内支援委員会の在り方について研究した成果を基調提案した。また、研究協力校における校内支援委員会の活動実践について報告を受け、研究協議を行った。

○ 校内LANの活用に関する研究

【概要】
愛知エースネット及び愛知エースネット活用促進協力者会について概要を紹介するとともに、「Windows 2000 Server によるクライアント管理」 及び「PC-UNIX によるファイルサーバ構築」の研究発表と校内LANで活用可能なフリーソフトウェアの紹介を行い、研究協議を行った。

5 おわりに

八尾坂先生の御講演は参加者にとって発想の転換が求められる内容であった。「管理職だけでなく全ての教職員で」「地域・保護者・児童生徒を評価者として」 「学校改善、児童生徒及び教師の成長を図る視点で」等の学校評価観は大変分かりやすく、大いに参考になるものであった。
また、「各学校で、できることから」「指標等を入れた具体的な目標を」といったヒントや多くの具体例の入った資料も、「自分たちの学校でもできそうだ、 やっていきたい」という思いを参加された先生方にもたせていただいた。
午後の研究発表・研究協議においては、多くの先生方より有益な御意見をいただいた。今後の研究に生かしていきたいと考えている。