開所30周年記念

第44回愛知県総合教育センター研究発表会

平成16年11月26日(金)

1 はじめに

開所30周年記念・第44回愛知県総合教育センター研究発表会を加藤(勤)県教育委員、 伊藤県教育長他、多数の来賓の御臨席のもと、県内外から500人を超える参加者を迎え、 平成16年11月26日(金)に開催した。
午前は、開会行事に続き、早稲田大学教育学部助教授の本田恵子氏による講演会を、 午後は、研究テーマごとに7部会(全8分科会)に分かれて研究発表・研究協議を行った。 図書資料室では優秀教育論文の展示も行った。
なお、講演会については、エル・ネットによりリアルタイムでCS(通信衛星)による配信を行った。 また、一部の部会についてはCS配信のための録画撮りを行った。
以下にそれらの概要を紹介する。

2 講 演

◆演題「キレやすい子の理解と対応」

―キレにくい子を育てるアンガーマネージメント教育のあり方―

◆講師 早稲田大学教育学部助教授 本田恵子氏

【講演内容の紹介】

(1) なぜキレるのか

ストレス耐性のなさ、共感性の発達のつまずきから心のバランスが崩れて起こる。

(2) 今の子供は右脳型

今の子供は右脳型(感性で理解・ランダム思考)であり、左脳型(言語で理解・論理的思考)、 すなわち、講義中心の授業ばかりでは授業崩壊が起きかねない。 ディスカッション、読書、ビデオ視聴等による作業中心の授業を導入することで、ある程度の改善ができる。 左脳を鍛えようとして、説諭・説明を繰り返すだけでは意図は伝わらない。 「くどい」「うるさい」といった反応が返ってくるだけである。

(3) 心のバランス

ストレスと上手につきあえる人間は、自分が今どんな気持ちなのか(悲しい、怒れる、くやしい等)、 それがだれに対する気持ちなのか(両親、友達、先生等)、 どの程度の気持ちなのかといった自分の気持ちや考えが分かっている。
キレやすい子はこれができず、いろいろな感情が一緒くたになってしまい、区別がつかなくなる。 自分の行為で割れたガラスの音ではっと気付いたりする。 このような子に対しては、生理的欲求(腹が減った、トイレに行きたい、眠い等)から 社会的な活動への欲求(安心したい、友達になりたい、認められたい等)、 さらに、自己実現欲求(自分らしい特技を身に付けたい、自信を付けたい等)へと、 欲求の三段階を生理的なものから順に満たしていく息の長い指導が必要である。

(4) 「ストレスをコントロールできない」こと

@ 気持ちを抑え込む

「迷惑をかけてはいけない」、「我慢しなくては」という気持ちがたまっていき、 「よい子」が息切れし、ついにキレるというパターンが多い。
「怒る」ことは人間の自然な感情であること、相手に意図がきちんと伝わる怒り方が大切であることを知らせ、 感情の正しい出し方を教えてやれば、感情を抑圧する子は減っていく。

A さける

テストの日は欠席したり、先生と話さなければならない状況になると帰ってしまったりする。自尊心の低下から「だめだ」と思いこみやすいので、成功する体験をさせたり、本人が解けるやりかたを教えてやったりすることが効果的である。「君は本当はできる子だ」と認めてやることが大切である。

B 代わりのことをする

親が自分の悩みを聞いてくれないことでストレスがたまり、その怒りは親と同世代の担任や女性教師に向かうことが多い。 特に40歳から50歳の先生が「被害者」になりやすい。
例えば、子供が教師に向かって「ババア!」と言ったときは「私はババアじゃない、○○先生ですよ」と立場をはっきり伝える。 その上で「君の考え、先生はこう思うけど」と冷静に話し掛けることで落ち着かせる。 ただ、この年齢層の教師は自身も仕事上のストレスを抱えていることが多く、 問題化しやすいケースもあるので周囲の配慮も必要である。
子供自身がぶつかっていきたい相手(親)が正面切って向かってきてくれないから代わりの相手を捜しているのであり、 教師は「この子は自分の力を誇示したいんだな」「自信がほしいんだな」という具合にその心理を冷静に読み取る必要がある。
家のどこを、または何に当たったり、何を壊したりしているか、そこにはヒントが必ずある。家庭における観察などを通して、 状況を聞き出すことが大切である。要するに、日常的な「キレる行為」が何の代償行為かを見抜くことである。

(5) ストレスに強い心を育てるには

@ 基本的生活環境の整備

家庭、学校、地域における「居場所づくり」が大切である。「居場所」がない(所属感がない)子供は、 犯罪率等も高く、暴走族やプチ家出族等に入りやすい。家庭における安定した親子関係、とりわけ母子関係の構築も必要である。

A 進路開拓・将来像の育成

例えば、コンピュータ実習、資格取得のための実践英語のような資格試験にかかわる授業の出席率は概して高い。 将来の自分にとって、社会へ出て行くためにはどんな勉強が必要かを意識させ、職業観の育成を図ることが大切である。

B 学習環境の整備

アメリカでは以前から軽度発達障害をもつ子のための「特別支援教育」の充実を図ってきたが、 現在は、これに加えて基礎学力の定着と社会性の育成を図る「啓発教育」への流れが著しい。 いじめの予防教育、ストレスマネジメント、アンガーマネジメント等が普通教科の授業に組み込まれている。

(6) キレたときの具体的な対応

「身体」で向かってくる子は、こちらも逃げずに身体ごと受けとめてやること。 こういう子はむしろ人間関係がつくれるタイプである。 一方、「物」を投げつけたり、長い物を振り回したりする子は、自分を武装しなければ「怖くてたまらない」という心理が働いている。 この場合は、決して相手の「安心空間」を侵してはならない。 こちらが何も手に持っていないことを示すために両手をぶらつかせ、無関係な「観衆」はその場から排除し、落ち着かせて冷静に話しかける。 力ずくで取り押さえることは、プライドを傷つけますます興奮させる結果になる。 特に小学校低学年などで、二人がけんかしている場合は、とにかく二人を離して指導する。 一緒に座らせて説諭しても効果はあまり期待できない。
指導のポイントは、本人にとって不快な存在をとりあえず除き、左脳の活性化をいかに図るかである。 これができれば、自分の気持ちを自分で伝えることができるようになる。このテクニックはどんな年齢層でも使うことができる。

(7) 発達上の問題がある児童生徒への対応

幼稚園と小学校のような異校種間の情報提携は重要である。複数のADHD児がいることを知らずにクラス編成を行い、 結果的に同様な児童が集まったクラスを経験の浅い教員が担当したことで、学級崩壊を誘発した例もある。

@ ADHD児への対応

あれもこれもと示すのは無理であり、ストレスを感じさせない程度の情報量に限定する。注意力の持続は困難なので時間も限定した方がよい。
例えば、教科書を1冊与えるよりも、(あちこちめくって気が散るだけ)3問程度の問題数のプリントを配り、 終わったら次のプリントを取りに来させるやり方が効果的である。

A 動作性LD児への対応

理屈で分かっていても身体がついていかない。例えば体育の時間に跳び箱に激突したりするのはこのタイプである。 暴れ出した場合は、子供に対面し、鏡のような関係で同じ動作をさせることで落ち着かせる。 「はい、手を降ろして」、「しゃがんで」とゆっくり話し掛けながら体を動かせば、その通りまねをする。言葉での説諭等はまず効果はない。

B 言語性LD児への対応

他人の言葉を逐語的にとらえがちで、トラブルの原因やいじめの対象になりやすい。 言葉の発達が遅れているので、周囲の本人をよく理解している人が言葉を翻訳して伝えてやる配慮が必要である。 (「○○君は、今〜がやりたいと言っているんだよ」のように)

C アスペルガー症候群の子への対応

左脳は発達しているが、右脳とのつながりに問題があるか、右脳自体の発達が遅れていることが考えられる。 場面理解が困難なことが多く、一方通行のコミュニケーションになりがちである。 「どこが面白いんだ」といった言動でその場をしらけさせたり、相手の言葉を文字通りにとらえてしまう傾向があるので配慮が必要である。

(8) アンガーマネジメントの流れ(学校全体のシステムに組み入れたプランニングで)

@ 啓発教育(学級会や教科での教育として)

「怒り」の理解、「いじめ」「暴力」とは何か、上手な断り方、危機対応、行動規範の設定、全校組織づくり、他

A 危機介入(発生現場での対応として)

アジテーション時の対応、いじめを受けている児童生徒、発見した児童生徒、及び教員全体それぞれの対応方法の共通理解

B 個別対応プログラム(加害生徒、被害生徒への個別指導として)

背景の理解、ストレス原因の分析、セルフエスティーム(自尊心)の増進、友人のつくり方等のソーシャルスキルの育成、対立原因の理解と解消

3 優秀教育論文の展示

平成11年度から15年度までの県教育研究論文入賞者(最優秀賞及び優秀賞)の論文を展示した。

4 研究発表・研究協議

次の各研究について発表と協議を行った。なお、当センターの研究の詳しい内容については、 ホームページ(http://www.apec.aichi-c.ed.jp/)、及び、今年度末発行予定の「研究紀要第94集」(CD-ROM版)をご覧いただきたい。

◇第1部会(小中特)

評価規準、評価方法等の開発に関する研究

―学習指導の改善に向けた小学校の取組―

【発表の概要】
過去3年間の研究経過を含めた基調提案の後、「小学校における評価結果を受けた指導や支援の工夫改善」及び 「小学校における指導形態に応じた評価方法の工夫改善」を視点とした4つの実践(国語科・体育科・理科・算数科)が発表された。 その後、質疑応答と研究協議を行った。

◇第2部会(全校種)

教科以外の教育活動の在り方と評価に関する研究

―学校評価につながる総合的な学習の時間や特別活動の評価はどうあるべきか―

【発表の概要】
全体での基調提案の後、A(小中学校)、B(県立学校)の2分科会に分かれて 「総合的な学習の時間」や「特別活動」等の教科以外の教育活動の指導と評価の在り方、 また、それらの教育活動に対する自己評価・自己点検、外部評価の在り方についての実践報告を行った。 その後、質疑応答及び研究協議を行った。
なお、基調提案と実践報告についてはCS配信のための録画撮りを行った。

◇第3部会(高特)

新学習指導要領のねらいとする理科教育の在り方に関する研究

―理科における「確かな学力」育成のために―

【発表の概要】
理科における「確かな学力」の育成についての基調提案の後、「これからの『目標に準拠した評価』について」、「観点別評価の事例」、「化学における授業実践」、「生物における授業実践と興味・関心の評価について」の研究実践について報告が行われた。その後、質疑応答及び研究協議を行った。

◇第4部会(高)

高等学校外国語(英語)科における評価規準、評価方法等の在り方に関する研究

―高等学校外国語(英語)科における観点別評価の具体例とその実践例―

【発表の概要】
「指導と評価の改善を目指して」と題した基調提案の後、資料「評価の基礎知識」を用いて評価改善の経緯・用語・実践試案・参考資料の解説を行った。さらに、高等学校5校から英語の各科目における「観点別評価」の実践事例の発表があり、その後、質疑応答と研究協議を行った。なお、この部会では発表・協議の多くが英語を使って行われた。

◇第5部会(全校種)

少子化に対応した家庭科教育の在り方に関する研究

―人とかかわりながら、主体的に生きる児童生徒の育成を目指して―

【発表の概要】
少子化の時代に対応した家庭科の役割と家庭科教育の在り方について提案を行った後、4校(小学校・中学校・高等学校普通科・高等学校専門学科)の実践が発表された。続いて研究協議が行われ、最後に助言者より「幼稚園の立場から見た保育体験実習について」と題して小・中・高等学校と幼稚園・保育園との交流学習について助言があった。

◇第6部会(全校種)

予防・開発的教育相談の推進に関する研究

―行事をいかすグループ・アプローチの取組を中心として―

【発表の概要】
構成的グループ・エンカウンターの短い実習を行った後、「行事をいかすグループ・アプローチの取組」について基調提案を行った。その後、行事を核とした年間計画に基づき、朝夕の会や学級会活動、道徳、特別活動、総合的な学習の時間等、多様な場面での実践研究が小学校2校、中学校1校、高等学校1校から報告された。続いて質疑応答・研究協議を行った。

◇第7部会(全校種)

フリーソフトウェアの教育利用に関する研究

―CDだけで使えるフリーソフトウェアの活用―

【発表の概要】
「KNOPPIXの教育利用」「APEC-KNOPPIXの具体的な活用例」「コンピュータ管理面で利用できるソフトウェア」の3つの発表の後、質疑応答が行われ、その後、研究協議を行った。参加者には体験用マニュアルとCDが配布されており、「KNOPPIXの体験」としてKgeoとThe Gimpの体験実習及び自由操作を行った。
なお、発表についてはCS配信のための録画撮りを行った。

5 おわりに

本田先生の御講演は学校関係者にとって大変関心の高い内容だった。事後アンケートを見ると、「具体的で分かりやすく、大いに参考になった」「生徒の対応や相談に生かしていきたい」といった感想が多く、参加者にとって満足度の高い講演となったことが伺えた。
また、午後の研究発表・研究協議においても、多くの先生方より有益な御意見をいただいた。今後の研究に生かしていきたい。