第46回愛知県総合教育センター研究発表会

平成18年11月21日(火)

1 はじめに
 第46回愛知県総合教育センター研究発表会を愛知県教育委員会伊藤教育長、寺田学習教育部長他、多数の来賓の御臨席の下、県内外から500人を超える参加者を迎え、開催した。
 午前は、開会行事に続き、「最近の教育改革と教育課程のあり方について」と題して、名古屋大学名誉教授・早稲田大学教授の安彦忠彦先生による講演を、午後は、研究テーマごとに7部会に分かれて研究発表・研究協議を行った。また、休憩時間中には教育相談特別研修論文の内容紹介ビデオの上映を、図書資料室においては、終日にわたり教育論文の展示を行った。以下にそれらの概要を紹介する。

2 講 演 
◆演題 「最近の教育改革と教育課程のあり方について」
◆講師 名古屋大学名誉教授・早稲田大学教授   安彦 忠彦 先生

【講演概要】

(1) はじめに
文部科学省は、平成18年1月に「教育改革のための重点行動計画」を発表し、「新しい時代の義務教育の創造―義務教育の構造改革―」として、今後の改革に向けての4ポイントを掲げた。一つ目は「教育目標の明確化と結果の検証による質の保証・向上」で、試行的に全国学力・学習状況調査を行う。二つ目の「教師に対する揺るぎない信頼の確立」では、教員養成や教員免許に関する制度上の改革を行う。三つ目の「地方・学校の主体性と創意工夫による教育の質の向上−学校・教育委員会の改革−」は、学習指導要領を含めて大きな地方分権への流れであり、現場のことについては、現場に近いところに権限を移そうという流れである。最後の「確固とした教育条件の整備」は従来の流れである。

(2) 教育行政の「規制緩和」の方向
@  中央集権から地方分権へ:ただし国は「水準の維持・向上」(目標と結果)に責任
 地方分権への流れの中で、教育水準の維持・向上の責任は国がもつ。したがって、指導要領による目標管理と、学力テストによる結果調査は国の責任で行う。それ以外にも、教育委員会制度の改革として、地方教育委員会に様々な権限を移す。また、地方自治体の首長の権限を拡大する。この点については、市町村長が選挙によって変わるたびに教育の仕方が変わるということが考えられ、心配である。 それから、現場主義という考え方がある。これは、教育の目標と結果とをつなぐ過程については、現場の先生、つまり学校に任せるというというものである。

A  教職員定数・学級規模の柔軟化
 この流れは既に始まっていて、学級集団と学習集団とを区別した点が特徴的である。40人学級の枠は残しておくが、学習の場面では40人ではなくて、必要に応じて細分化する。少子化により、単純計算では教員が不要になる。しかし、教職員定数と学級規模の柔軟化で、加配教員の活用が進み、地方で工夫できるようになった。

B  学校主体の教育課程編成の奨励強化
 教育課程だけではなく、教育経営や教育理念においても学校の特色を出すことができる。学校の特色というと、すぐに総合的な学習の時間などの教育課程に焦点が当てられるが、教育理念として、「この学校を芸術教育中心で経営したい」「無学年制を行いたい」「全校でティームティーチングを行いたい」といった教育の理念や経営レベルで、様々な特色を出すことも可能で、これは、教員一人一人の力量を発揮する場が増えることにつながる。

C  保護者の教育権の直接行使の承認
 学区制の柔軟化は既に行われてきたが、柔軟化ばかりが保護者の教育権の直接行使ではない。学区制を守るというのも、保護者の意思として示しうる時代になった。一面的に柔軟化ばかりが言われるが、むしろ、「学区制を強めたい」という意思表示も、保護者の権利として言えるようになってきた。
学校評議員制・学校運営協議会制の導入については、学校外部の人が学校にタッチする。外部とは、保護者以外に地域の人、産業界の人、その他の人々に評議員になっていただき、学校を運営する。基本的には、保護者に教育権があるので、これを直接に行使できるのはよいことである。

D  国家基準(学習指導要領)の大綱化(目標)
 国家基準の大綱化とは、教育の目標、結果、過程の三つの中で、目標の部分を大綱化することである。これは、昭和52年の指導要領改訂から一貫しているが、教育内容、時間数、学年配当、発展的学習、学校の自由裁量などについては、基本的に柔軟になる。現在の大綱化の流れは、現場、あるいは保護者、教員に近いところに権限が移るので、望ましいことと言える。この流れは、個々の学校レベルの教育についても、基本的には支持できる。

E  国際化への対応(結果)
 国際化への対応とは、教育の結果に関するもので、学力調査やその他も関係して重要になってきている。国際学力調査、つまりOECD・PISAやTIMSSといった二つの国際的な学力調査では、日本はこれまでトップグループで成績が良かった。ところが、PISAのテストで、読解力が特に低く出た。全体としては一位グループだが、グループの中では下の方で、学力調査を行うごとにやや低下傾向だと言われている。国際的な学力調査について、文部科学省も無視できず、次の指導要領ではそのことが一番大きく前面に出てくる。
 ただ、この傾向は日本だけではない。今までほとんど関心をもっていなかった主要国が、国際学力調査をはっきり意識して、成果を上げる方向で教育政策を進めている。これは、この国際的な標準というものを無視できない時代になったと言うことであり、それだけ国際化が進んだということである。
 英語教育の小学校への導入については、国際化の観点から言えば、東アジアで小学校に英語教育を入れていないのは、日本だけになってしまった。そのことを文部科学省は非常に気にしており、小学校に英語教育を入れざるを得ないという思いが行政サイドでは強い。

(3) 今後の学校教育のあり方
@  記憶重視の学力観から思考重視の学力観への「重点移動」
 日本が先進諸国に追い付こうとした時代は、考えることよりもまず新しい知識を身に付けるという記憶に重点が置かれた。しかし、今は、考える力が求められているため、重点移動をしなければならない。ただ、記憶は記憶で重要であるから、新しい知識を身に付けるという観点ではなく、思考を支えるものとして、記憶は重要だということを認識しなければならない。
 知識・技能と思考力等をつなぐ「活用型」学習の導入については、昨年10月の『審議経過報告』で出されたものである。これが次の指導要領の一つの中心になるだろう。
 さらに、次の指導要領改訂では、時間増を考えている。記憶も一定程度重視し、かつ、考えることに重点を置けば、時間を与えないと、昔の詰め込み、記憶中心に戻ってしまう。そうなっては困る。詰め込み、記憶中心の学習のために、時間数を増やすのではないことをはっきりと申し上げておきたい。
 次の指導要領のポイントは、各教科で育てる知識・技能を活用して学習する、いわゆる「活用型の学習」である。活用型の学習が「生きる力」を育てることにつながり、これがPISAの強調している「実社会・実生活に生きる力」の育成につながる。それを「人間力」という言葉で言い換えている。これからは、そういう枠組みで指導要領がつくられていく。

A  学校五日制の趣旨の徹底
 学校五日制についてだが、なぜ五日制かということを改めて考えていただきたい。私は基本的には五日制に賛成である。土曜日にもっと外で社会体験や自然体験を積んで、自立に向け、未熟さというものを乗り越えさせる試みとして五日制が始まったわけだが、行政当局も条件整備が十分ではなかった。あるいは先生、保護者、地域の意識等に対して、アプローチが十分でなかったため、なかなか趣旨が達成されていない。改めて今の子供たちの精神的な自立、未熟さについて真剣に考えてもらいたい。

B  学校の独自性の明確化
 学校を生涯学習の枠組みの中で考える場合、子供の発達にとって重要な時期に学校が責任を負うものは何かをはっきりと意識する。そして、他の部分は、分担と協力の関係、つまり協働の関係をつくっていく。今まで、学校がすべての責任を負うという比重であったが、これからは学校でこそできるもの、学校でしかできないものに絞っていかなければならない。子供は、学校の先生だけに教育を求めているのではない。子供は、小さい頃から、保護者に教育を求めている。子供は親に求めているのに親はそれに応えない。やはり、改めて子供の気持ちを考えて、教育の専門家である先生方は、この点を保護者にはっきりと伝えていただきたい。

C 「学校教育」と「教育一般」の区別
 「学校教育」と「教育一般」を区別しなければならない。「学校教育」とは、学校でこそできるものに絞る。学校外の「教育一般」とは、人格形成、それが「教育一般」の目的である。学校は教育機関の一つであるから、人格形成も目的の一つであるが、メインの目的ではない。学校でこそやらなければならない教育は教科教育であり、学力形成が本来の目的である。

D  学校は「学力形成」を主、「人格形成」を副とする。ただし、後者が「究極の目的」!
 学校で育てられる能力の部分が「学力」であり、「人格形成」の一部分にすぎず、その能力を何に使うかが人格に大きくかかわってくる。能力の使い方を決めるのが人格なので、人格と学力の間が良い関係でないといけない。特に人格が望ましくないといけない。その点をきちんと押さえていただきたい。

 ヴィクトル・フランクルは、「精神の層」を「心理の層」と区別している。「身体の層」と「心理の層」は、お互いに影響し合う関係であると言っている。それに対して「精神」は独立性をもっている。「精神」の世界とかかわるのが人格である。そして、「心理」と「身体」は、知識や技能、思考力や運動能力であり、「学力」である。この視点で見ると、「精神」が「心理」と「身体」を抱え込んでいるように見える。学力を統制できる「精神」を育てなければならず、この意味で「人格の形成」は、究極の教育目標であると言える。

E 「文化活動」と「自治活動」を経験する場
 学校は、教科があるので文化活動とは言わないが、カルチャーセンターなどで行っている文化活動と同じである。「自治活動」では自治能力を育てている。いずれ市民、国民としての自治能力が必要なので、その意味では教科外の活動は非常に重要であり、究極の目標につながっていく人格形成の一部である。だから、「文化活動」と「自治活動」を望ましい関係にしておかなければならない。その意味でも「学力形成を通しての人格形成」を目指していかなければならない。あるいは、「人格形成のための学力形成」が重要である。

(4) 今後の教育課程のあり方
@  カリキュラム評価から始める!=現在実行中のカリキュラムの問題点の明確化
 話をカリキュラム評価から始めるということは、経営(カリキュラム)の問題、あるいはこれからは評価の時代になるからである。学力調査も入ってくる。教育の成果はなんらかの形で評価される。まず目の前に実践があるので、P−D−C−AというとまずCから始まる。実践が目の前に展開されているから、それに対するチェックを入れる。それで、改善すべき点に手を入れるというアクションをして、また、プランに入る。これは、昨年度講演された森隆夫先生が言われたことである。そういう目で、改めて今の学校教育全体をCから始めていただきたい。

A  教科と教科外教育との関係の見直し
 道徳や部活動という教科外の部分については、社会教育とかその他の学校外の教育機関と相互乗り入れを考える方向にある。教科外教育・部活動の分担と協力というのも、社会教育の方たちと一緒になっていろいろな形でやらなければならない。学校が学校でこそできることに絞るためには、もっと社会教育に出さなければならないし、出すべきものがたくさんあるではないかと考えていただきたい。

B  共通基礎教育の中核たる国語・算数数学の重視:「基礎学力」の育成強化
 「国民としての基礎教養を義務教育でしっかりと身に付けているか」ということについて、特に説明責任を求められて、学力調査で調べる時代になっている。改めてこの部分についての重要性を考えなければならない。国語、算数・数学、更には英語、理科の重視や時間増等の要望があり、時間を純増しないことには要求には応えられない。しかし、時間増を量的な面ばかりで見て、子供には負担とするのではなくて、質的な面と組合せて考えていただきたい。
 従来、基礎学力というのは学力の一部と考えているが、そうではなくて人格の一部でもある。基礎学力は、決して学力の一部だけでなくて、言わば人格の支えであり、人格の基礎である。人格というのは、社会性とか人間関係が基礎で、基礎学力は学力にも人格にもかかわるのだということを強調してきた。

C  教科内容の改変:教科再編ではなく教科内容の付加による内容レベルの改変
 教科内容の改変とは、教科再編ではなくて教科内容の付加による内容レベルの改変のことである。各教科の中身が変わらなければならないだろうということである。小学校の英語はやはり教科として入ってくるのではない。免許状もないので教科担任制はとれない。だから教科としては入らない。総合の一部として入ることになるだろうが、まだどうなるかは分からない。
 それから、金融・経済教育の強化も考えられる。当分ゼロ金利状態が続き、昔の定期預金や定額貯金が復活するような状況ではない。今の子供たちはかなり厳しい状況にあるということを知っておかなければいけない。そういう意味ではむしろ、わたしたちの方がちょっと鈍感になっていると思われる。
 それから食育が重要である。小児糖尿病や子供の体の問題は非常に大きな問題で、食育・健康教育にこれから力を入れなければならない。まず、家庭の問題と思うから、家庭がまずちゃんとやる必要がある。そういう意味では保護者と協力しないといけない。
 キャリア教育も重要だと思う。親として、子供の前で仕事や職業ということについて、きちんと考えさせるということが必要だと思う。
 こういうことを教科の内容レベルで増やすことがあっても、新しい教科が出てくることはないだろう。

D  学校外学習(実生活)と学校学習の結合強化→五日制維持との関係も含む
 学校外の実生活の学習と学校学習をつなぐ必要がある。これは五日制との関係も含んでいるが、理数教育では実生活との関連付けがないということが非常に問題視されている。特に子供たちの理数離れとの関係で、生活感覚と結び付いていない点が問題になっている。理数科の先生方には、是非実生活との結び付きを強めていただきたい。
社会科・道徳教育においてはもっと市民生活の教育とか法律の教育をやるべきである。これはある意味で両方とも、習得型と探究型をつなぐ「活用型学習」を通してやるということである。
 もう一つは「宿題」だが、学校外で、家庭学習とか日常の経験という「学習習慣」を付けることが非常に重要である。国数英で各15分とあるが、これは五日制との関係で、金曜の水準を次の月曜まで維持するための宿題で、わざわざ無理にそれ以上伸ばすという発想ではない。2日間何もしないと、月曜日はずっと下のところから始めないといけなくなる。特に技能の学習はそういう性質のものである。

E  総合的学習の継続・強化
 「総合的な学習の時間」は、継続するつもりである。これは実は産業界が言い出した時間でもあったので、産業界は相変わらず非常に強くこれを求めている。趣旨は、間違っているとは思っていない。「考える力を、特に独創的で創造的な考える力を育てたい」、これは以前から教育学者も言ってきたことである。そのために、先生方の自由裁量、学校の創意工夫ということが今後も奨励されなければならないと思うし、またそういう方向である。ただ、もう少し丁寧な指導資料や足場を先生方に与えるということは考えている。総合について特に中学・高校の先生に申し上げたいのは、「横断的・総合的な学習の時間」ということで、「横断的」という言葉が入っていることを忘れないでいただきたい。必ずしも純粋の総合まで行かなくてもよいということである。もう一つの学社連携や地域・産業界との連携で、もっと学校の外の方たちに入ってきていただく。「横断的・総合的」という言葉のもつ、やや広い意味を是非押さえ、もう少し先生方がいろいろな工夫をしていただきたい。

F  授業日時数の確保:「授業・学力の質」の改善と家庭学習との連携
 授業日時数の確保については、「授業の質・学力の質」を変える、「考える」ということに重点を置くように変える。そのために家庭学習との連携も必要である。「学校五日制・家庭二日制」は、家庭での学習の重要性を示すものである。子供を学習の活動から完全に離してはいけない。だから宿題は「学習時間」であり、授業時間ではない。「学習時間」はやっぱり土日も確保した方がいい。
「個に応じた指導」というのは、御存知のように特別支援教育が入ってくるので、本当に子供たち一人一人の障害の違い、特徴の違い、長所の違い、そういう質的な把握をしなければいけない。今までの意識を変えて、本当に一人一人に意識を向けるような見方をしていただきたい。そうしないと授業は変わらないし、学力の考え方も変わっていかない。

(5) おわりに
 最後に地域・保護者との「分担と協力」による協働・共育のネットワークづくりということを申し上げたい。子供が教育を求めているのは学校の先生にだけではない。大人全部に求めているし、場合によっては友達にも求めている。そういう意味ではもっと地域の人、保護者にはっきりと「一緒にやってください」、「分担と協力をお願いしたい」ということを求める必要がある。もう一度社会の教育力が回復しなければならない。先生方は、まず、学校教育の部分については、わたしたちが責任をもつという態度をとっていただきたい。
教育の中身としては、人格的にも、個性的にも、「強い個としての日本人」を育てていただきたい。

3 教育相談特別研修論文の内容紹介ビデオについて
愛知県立佐織工業高等学校 伊藤 政治教諭(平成17年度教育相談特別研修生・愛知教育大学内地留学生)
テーマ:線描画投影法を活用した教育相談的アプローチの有効性  
 −「バウムテスト」及び「星と波テスト」の統計的調査を中心に−

 ビデオでは、伊藤教諭の実践発表の様子を上映した。
 CS(エル・ネット)により配信している。

4 教育論文の展示
 平成13年度から17年度までの県教育研究論文入賞者(最優秀賞及び優秀賞)の論文を展示した。

5 研究発表・研究協議
 次の各研究について発表と協議を行った。なお、当センターの研究の詳しい内容については、ホームページ(http://www.apec.aichi-c.ed.jp/)及び、今年度末発行予定の「研究紀要第96集」(CD-ROM版)をご覧いただきたい。

◇第1部会(小中)
授業改善に関する研究
    ―子供理解と授業づくりを通して―
【発表の概要】

 部会の最初を全体会とし、講堂で愛知教育大学助教授の久野弘幸先生から、「子供の事実から学ぶ校内研修と授業分析」と題した講義を受けた。その後、本研究の基調提案を行った。引き続き3会場に別れ、小学校3教科、中学校2教科の実践を基に、子供が主体となる単元構想やかかわり合いの授業づくりについて、中間発表を行った。

 ★1A分科会の概要
 小学校理科では、「豊かな発想をかかわり合いの中で真理に変える授業−小4年理科『もののかさと力』の実践を通して−」と題して、実践発表を行った。提案の主な内容は、かかわり合うための体感を重視した共通体験や、たっぷりと自由試行させる場面を設定した単元構想、よりよい話合い活動へつなげるためのグループ活動、意図的指名、描画による表現、座席表の活用等についてである。こうした提案に対して、子供相互がかかわり合う理科の授業づくりについて協議が行われた。
 小学校国語科では、「伝え合う力を高める国語科学習の創造−小6年国語科『発見!私たちの地球』の実践を通して−」と題して、実践発表を行った。提案の主な内容は、「意欲化(自然の大切さを知らせるビデオを作ろう)→説明文教材からの学び→表現トレーニング→ビデオづくり」という段階を踏んだ、子供の意欲を引き出す単元構想、子供たちで進める話合いの授業、教材文から学んだ表現を定着させるトレーニング等である。こうした提案に対して、生きて働く国語力育成に向けた指導の在り方について協議が行われた。

 ★1B分科会の概要
 小学校図画工作科では、「思いをはぐくみ、表現力を高める授業づくり−小5年図画工作科『顔・かお・カオ』『アート?アート!』の実践を通して−」と題して、実践発表を行った。提案の主な内容は、ビデオ映像と多くの作品を基に実践を説明しながら、2つの手だてである「INPUT」と「意見交換」を意図的・計画的に取り入れたことについてである。こうした提案に対して、子供の見取りの重要性の再確認や「INPUT」の意義、在り方について協議が行われた。

 ★1C分科会の概要
 中学校社会科では、「かかわり合いを通して思考を深める社会科の授業−中3年社会科『安楽死は認めるべきか』の実践を通して−」と題して、実践発表を行った。提案の主な内容は、「かかわり合いの場」を設定した単元構想、相互指名やディベート的手法を用いた授業の様子、その授業記録と授業後の感想等の分析により授業改善の方向を模索したことについてである。こうした提案に対して、単元構想における工夫や教材の扱い方を中心に協議が行われた。
 中学校数学科では、「自分の考えを他者にわかりやすく伝えることができる生徒の育成−中3年数学『平方根』の実践を通して−」と題して、実践発表を行った。提案の主な内容は、本研究の2年目の改善点やかかわり合いにつなげる見取り、「数学的活動」を通して「かかわり合い」を仕組んだ授業構想、見取りを生かしたグループ構成及び座席表、振り返りカード等である。こうした提案に対して、実践における具体的な手だての内容が協議の中心となった。

◇第2部会(小中高特)
学校評価の在り方に関する研究
【発表の概要】
 学校評価の在り方について、基調提案で文部科学省が策定した「義務教育諸学校における学校評価ガイドライン」を参考にして、学校評価の概要と運用上の課題を述べ、その後、事例報告という形式で、研究協力校が平成17年度から平成18年度前半までに、それぞれの実情に応じて運用した学校評価への取組を発表した。特に、新しい概念の「外部評価」導入・「外部評価委員会」設置への取組、評価重点項目の設定方法、「自己評価書」の試案、評価結果の公表等について、研究協力校での創意工夫を発表した。研究協議では、アンケートの取り方など具体的な手法にかかわるものから、外部評価委員と学校評議員との関係という外部評価の本質にかかわるものまで、多岐にわたり質疑や意見が述べられた。

◇第3部会(高特)
 地理歴史科、公民科における「思考力・判断力」を育成する学習指導と評価の在り方に関する研究
【発表の概要】
 知育偏重の学力観から、思考力や判断力などを重視する学力観への転換が求められている現在の教育課程において、県内地理歴史科、公民科教員に対して行った、「思考力・判断力」の育成についての意識や工夫に関するアンケートの結果分析を踏まえながら、地理歴史科及び公民科において育成すべき「思考力・判断力」を考察した。その考察を基にして、主題学習や課題追究学習を取り入れた授業以外の、平素の授業における「思考力・判断力」を育成する学習指導の工夫及び、それを評価する手法について、授業を実践し、その成果を分析し、新たな課題を明らかにした。

◇第4部会(小中高特)

「食育」に視点を据えた児童生徒の在り方に関する研究 

【発表の概要】
 食は豊かな人間性をはぐくみ、豊かな社会づくりにつながるという理念を基に、食育基本法をはじめ、食や健康に関する様々な答申を踏まえた上で、小・中・高等学校で効果的に食育を進めるために、食を扱う主要な教科である家庭科を軸にした児童生徒の指導の在り方についての中間報告を行った。続いての研究協議では、校内における食育の推進体制の在り方、調理技術の定着の方法、家庭への啓発の必要性と方法、小・中・高等学校の連携の重要性等について、活発な質疑応答や意見交換が行われた。

◇第5部会(幼小中高特)
豊かな心の育成を目指す指導の在り方に関する研究
【発表の概要】
 規範意識に関する全県的な実態調査と文献調査とに基づく基調報告に引き続き、研究協力校8校が実践発表を行った。実践内容は、豊かな心を育成する上で前提になる「自己有用感」を高めるため、「言葉」と「体験」を重視する必要があるという観点に基づき、国内外で先行実践されているプログラム(VLF、ヴァーチューズ・プロジェクト、デス・エデュケーション)を各校の取組の中に位置付け、異校種交流の視点も取り入れて行われた。

◇第6部会(小中高特)
キャリア教育推進に関する調査研究
【発表の概要】
 「キャリア教育の推進に向けて」と題した基調提案の後、「キャリア教育に関するアンケート結果概要」の報告及び「職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み」の解説を行った。さらに、小学校・中学校・高等学校における「キャリア教育実践事例」を発表し、その後、質疑応答と研究協議を行った。

◇第7部会(小中特)
特別支援教育コーディネーター養成に関する研究
【発表の概要】
 障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた指導や支援を行うために、特別支援教育コーディネーターの果たす役割は極めて大きい。その業務は、校内支援体制の構築や外部機関とのネットワークづくり、職員研修の充実等、多岐にわたる。当センター相談部で作成した「コーディネーターの養成と校内支援体制構築に関するチャート」を活用して取り組んだ4校の研究協力校(小学校3校、中学校1校)の実践事例の発表を通して、校内支援体制の構築を効果的に行う方策について、「校内支援体制」「個別の教育支援計画」に関する内容を中心に、質疑応答及び研究協議を行った。

6 おわりに
 数々の教育課題がある中で、安彦先生の「最近の教育改革と教育課程のあり方について」の御講演は、大変好評を得た。「教育行政の規制緩和の方向」「今後の学校教育のあり方」「今後の教育課程のあり方」という柱立てで参加者からは、「大変分かりやすく、今日的な動向を話していただけた」「これからの教育の方向性を理解することができた」「学校の独自性の明確化が大切であると感じた」「もう少し時間をかけて聞きたかった」等の感想が寄せられた。
 また、午後の研究発表・研究協議においても、多くの先生方より有益な御意見をいただいた。今後の研究に十分に生かしていきたい。