第47回愛知県総合教育センター研究発表会

平成19年11月20日(火)

1 はじめに
 第47回愛知県総合教育センター研究発表会を愛知県教育委員会伊藤教育長、鈴木学習教育部長他、多数の来賓の御臨席の下、県内外から600人を超える参加者を迎え、開催した。
 午前は、開会行事に続き、「誰が学力を獲得するのか−学力政策の課題−」と題して、お茶の水女子大学大学院教授の耳塚寛明先生による講演を、午後は、研究テーマごとに7部会に分かれて研究発表・研究協議を行った。また、休憩時間中には教育相談特別研修論文の内容紹介ビデオの上映を、図書資料室においては、終日にわたり教育論文の展示を行った。以下にそれらの概要を紹介する。

2 講 演 
◆演題 「誰が学力を獲得するのか−学力政策の課題−」
◆講師 お茶の水女子大学大学院教授   耳塚 寛明 先生

【講演概要】

(1) 全国学力・学習状況調査の発表を受けて
○ 地域(都道府県)格差は、昭和39年の学力テストより縮小した。
○ 学力格差が、地域の経済力では説明できない別の次元に入った。

○ 今後十分な分析と、有効な対策を示すことが必要である。
(2) 選抜・配分研究から学力の社会学へ
○ 近代化によって、身分社会からメリトクラシーの社会になった。競争の結果として社会的地位の差は生じるが、機会は平等に開かれている社会が望ましい。
(3) 誰が学力を獲得するのか(独自調査の結果から)
○ Aエリア(大都市近郊)の調査では、受験塾に通塾しているかどうかで、学力分布に大きな違いが出た。一方、Cエリア(地方小都市)の調査では、通塾などの影響は小さく、学校による差が大きかった。
○ 学力の低い学校を放置せず、格差の問題をきちんと分析して、教育施策に生かすべきである。
(4) 家庭の経済的な状況と学力
○ 保護者の調査が困難で、家庭の経済力と学力の関係は今までほとんどデータがなかった。
○ 学力の規定要因分析から、家庭の学校外教育支出の影響が大きいことが分かった。
(5) モダン型学力からポストモダン型学力へ
○ 基礎学力よりも、「生きる力」のようなポストモダン型の学力観が重視される時代になってくると、子供の学力における階層差がより大きくなると思われる。
(6) ペアレントクラシーの到来
○ 能力と努力が業績につながるメリトクラシーから、親の富と願望が選択を与えるペアレントクラシーへと移行しつつある。
○ 今の日本の社会は、所得と家庭の文化の二つに起因する学力と教育機会の格差の問題に直面している。
○ 学力格差は社会問題ではあるが、学校にもなすべきことがあると考える。


3 教育相談特別研修論文の内容紹介ビデオについて
愛知県立津島北高等学校 米本かおり教諭(平成18年度教育相談特別研修生・愛知教育大学内地留学生)
テーマ:高校生の人間関係づくりへの興味・関心を高める取組について  
 −グループ・アプローチの実践を通して−

 ビデオでは、米本教諭の実践発表の様子を上映した。

4 教育論文の展示
 平成14年度から18年度までの県教育研究論文入賞者(最優秀賞及び優秀賞)の論文を展示した。

5 研究発表・研究協議
 次の各研究について発表と協議を行った。なお、当センターの研究の詳しい内容については、ホームページ(http://www.apec.aichi-c.ed.jp/)及び、今年度末発行予定の「研究紀要第97集」(CD-ROM版)を御覧いただきたい。

◇第1部会(小中)
授業改善に関する研究
    ―確かな授業力を目指して―
【発表の概要】

 部会の最初を全体会とし、講堂で本研究3年間の内容を含めた基調提案を行い、その後、愛知教育大学准教授久野弘幸先生から「授業研究の質的向上を通して、子供の学びの質を高めるには」と題した講義を受けた。引き続き4会場に別れて、小学校2教科、中学校2教科の実践を基に、子供を見取ることの大切さや子供が主体となる単元構想、かかわり合いの授業づくりなどについて発表及び協議を行った。

 ★1A分科会の概要

 小学校理科では、「豊かな体験を基にかかわり合う中で、自然の規則性を追究する授業−小4年理科『もののかさと力』の実践を通して−」と題して、実践発表を行った。提案の主な内容は、子供の多面的な見取りを基に、体感や体験を重視した複線型の単元を構成し、子供が主体的に追究できる学習やかかわり合いの在り方等についてである。こうした提案に対して、グループ活動時の約束事や教材・教具の工夫の在り方等について協議が行われた。

 ★1B分科会の概要
 小学校図画工作科では、「思いをはぐくみ、表現力を高める授業づくり−小5年図画工作科『顔・かお・カオ』の実践を通して−」と題して、実践発表を行った。提案の主な内容は、ビデオ映像と多くの子供の作品を基に、手だての「INPUT」と「意見交換」を意図的・計画的に取り入れたことについてである。こうした提案に対して、子供の見取りの重要性やかかわり合い、「INPUT」の意義、またそれらの在り方等について協議が行われた。

 ★1C分科会の概要
 中学校社会科では、「かかわり合いを通して思考を深める社会の授業−中3年社会科『日本の平和主義について考える』の実践を通して−」と題して、実践発表を行った。提案の主な内容は、かかわり合いを深めるための単元構想や話し合わせ方の工夫、生徒の授業感想の活用の仕方についてである。こうした提案に対して、一人調べの時間の確保や座席表を生かした教師支援、かかわり合える学習集団の育成等について協議が行われた。


 ★1D分科会の概要
 中学校数学科では、「かかわり合いの中で自分の考えを深めることのできる生徒の育成−中2年数学科『図形の調べ方』、中3年数学科『平方根』の実践を通して−」と題して、実践発表を行った。提案の主な内容は、3年間を通して、授業改善に取り組んできた視点である@自分の考えをもたせること、A自分の言葉で相手に伝えること、Bかかわり合いを通して考えを再検討・深化することについてである。こうした提案に対して、数学的活動の重要性や見取りを生かした班編成等について協議が行われた。


◇第2部会(小中高特)
学校評価の在り方に関する研究
【発表の概要】
 学校評価の在り方について、基調提案では、文部科学省が策定した「義務教育諸学校における学校評価ガイドライン」及び「学校評価の在り方と今後の推進方策について 第一次報告」(学校評価の推進に関する調査研究協力者会議)を参考にして、最近の法改正の動向も踏まえながら、学校評価の概要と運用上の課題を述べた。その後、実践報告という形式で、研究協力校が平成17年度から平成19年度前半までに、各学校の実情に応じて運用した学校評価への取組を発表した。特に、本年度は、前年度の学校評価システムを分析し、その運用上の問題点をどのように改善すべきかを研究したので、その取組の経過に重点を置いて発表した。内容としては、新しい概念の「学校関係者評価」の導入・「学校関係者評価(外部評価)委員会」設置への取組、評価重点項目の設定方法、「自己評価書」、評価結果の公表等について、研究協力校での創意工夫を発表した。パネルディスカッションでは、4テーマ(B分科会は3テーマ)について、「展開シート」を使ったり、参加者への挙手によるアンケートも取り入れたりしたため、活発な討論となった。

◇第3部会(高特)
高等学校理科における読解力の育成に関する研究
【発表の概要】
 平成16年12月に「生徒の学習到達度調査」(PISA2003)の結果が公表され、我が国の子供たちの「読解力」の得点が、OECD平均程度まで低下しているなどの課題が示された。そこで、高等学校理科における読解力の実態調査を教員、生徒を対象に行い、結果を基に読解力向上を目指した指導法を開発し、検証した。実態調査から、論理的な思考や表現を苦手だと思う生徒が多数を占めること、それに対応する教員の指導も満足ではないことが分かった。文部科学省から出された読解力向上に関する指導資料を参考に、生徒の高い思考意欲や活動意欲をうまく生かした各学校の実態に合った読解力の育成を目指す実践を行った。実践の結果、全ての実践において、読解力向上に関して効果があった。

◇第4部会(幼小中高特)

食育に視点を据えた児童生徒の在り方に関する研究 

【発表の概要】
 小・中・高等学校で効果的に食育を進めるために、食を扱う主な教科である家庭科を軸にした児童生徒の指導の在り方について、最終年次のまとめの発表を行った。成果として、発達段階に応じた取組により、「心」「体」「食文化」の面から児童生徒の食に関する実践力を高めることができたこと、学校における食育の理解と校内の教職員の連携及び保護者への啓発を促すことができたことを報告した。続いての研究協議会では、保護者の食への関心を高める手だてや食育を推進していく上で求められる家庭科の在り方について話し合われた。

◇第5部会(小中高)
キャリア教育推進に関する調査研究
【発表の概要】
 今日的課題であるキャリア教育について、学校教育活動全体から児童生徒の「生きる力」の育成をとらえなおし、キャリア教育の在り方と推進のための方策を研究した。特に、今年度は、「職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み」での実践事例発表、学校間の連携を図る方策、教員の意識改革を目指す校内研修の在り方、また、高等学校普通科での体系的な指導計画等について具体的な提言を行い、キャリアカウンセリングの演習、研究協議を行った。最後に県教育委員会高等学校教育課主査 国枝 裕 氏から御指導をいただいた。

◇第6部会(幼小中高特)
心の発達の支援に関する研究
【発表の概要】
 第T期「予防・開発的教育相談の在り方に関する研究」(平成12〜14年度)、第U期「予防・開発的教育相談の推進に関する研究」(平成15〜16年度)に続く第V期の研究である。児童生徒の発達段階に応じ、発達課題の達成を考慮したグループ・アプローチの効果的な活用により「心の発達の支援」を目指した研究の成果を発表した。小学校、中学校、高等学校におけるそれぞれの時期の発達課題を明確にし、児童生徒の実態に合ったグループ・アプローチの実践発表に多くの参加者が強い関心を示した。その後の研究協議では、事例を基に児童生徒の実施時の状況等についての質問が出されるなど、グループ・アプローチの活用に向けて活発に意見交換が行われた。

◇第7部会(高特)
ICT利用に関する研究
【発表の概要】
 「わかる授業」「魅力ある授業」の実現のため、教員のICT活用指導力の向上が求められている状況を、文部科学省が行っている事業・調査などから紹介した。その後、「ICT能力向上講座」「県立学校情報教育推進巡回講座」等を通して、学校の先生方から提案された活用法の中から、教科ごとにパソコン、プロジェクタ、インターネットなどのICT活用により教育効果の上がる授業場面の報告を行った。また、電子黒板の効果的な利用方法についても実演を交えて具体的に紹介し、最後に、質疑応答と研究協議を行った。

6 おわりに
 全国学力・学習状況調査の結果が公表され、耳塚先生の「誰が学力を獲得するのか−学力政策の課題−」というテーマの講演には、多くの先生方の関心が集まり、例年以上の参加者を得ることができた。参加者からは、「データ分析に基づき、子供の学力と家庭的な背景との相関などが述べられ、興味深かった」「社会の在り方が子供一人一人の生き方に影響を与える怖さを感じた」「学校教育の在り方を考える上で重要な示唆をいただいた」等の感想が寄せられた。
 また、午後の研究発表・研究協議においては、部会ごとに発表形式を工夫して取り組み、多くの先生方より「よくまとめられ、分かりやすかった」「参考になるところが非常に多かった」「最近の課題についての発表で貴重だった」等の有益な御意見をいただいた。