52回愛知県総合教育センター研究発表会

大会テーマ「力のある教師をどう育てるか」

平成241130日(金)10001610

1 はじめに

52回愛知県総合教育センター研究発表会を,「力のある教師をどう育てるか」という大会テーマの下で,愛知県教育委員会野村道朗教育長をはじめ,多数の来賓及び県内外から約500人の参加者を迎え,開催した。午前は,開会行事に続き,「力のある教師をどう育てるか」と題して,神奈川大学特別招聘教授・中央教育審議会委員の安彦忠彦氏による基調講演及びパネルディスカッションを行った。午後は,テーマ部会を含めた6部会の研究発表・研究協議を行った。また,図書資料室にて優秀教育論文の展示,本館2階フロアでは愛知県教育史の展示を行い,休憩時間中には,教育相談特別研修論文の内容紹介ビデオの上映も行った。以下にこれらの概要を紹介する。 

2 基調講演・パネルディスカッション

<基調講演>

◆演題 「力のある教師をどう育てるか」

◆講師 神奈川大学特別招聘教授・中央教育審議会委員

安彦 忠彦 氏

<パネルディスカッション>

◆パネリスト

  安彦 忠彦 氏  神奈川大学特別招聘教授

  柴田 好章 氏  名古屋大学准教授

  村  良弘 氏  江南市立古知野南小学校長

  杉浦慶一郎    当センター所長

  (司会:小塩卓哉 当センター研究部長) 

3 教育相談特別研修論文の内容紹介ビデオについて

●愛知県立緑丘商業高等学校  村上 聡 教諭

テーマ:自己効力感を高める地域連携活動に関する一研究

 地域連携活動は,教科で学んだ幅広い知識を実際の社会で体験的に 学び直す機会を得ることができる教育活動である。本研究では自己効力感の低い生徒が,地域連携活動を通して,自己効力感を高めることができたか,アルバート・バンデューラの提唱した自己効力感を高める4つのキーワードに沿って検証した。その結果,地域連携活動は生徒の自己効力感を高める一助となることが実証された。 

●愛知県立西春高等学校  得永 優子 教諭 

テーマ:「高1クライシス」に関する研究

     〜不登校・不適応6事例を「ボンド理論」からの分析を通して〜

 「高1クライシス」と呼ばれる高校1年生での学校不適応は,心理的には,それまでの自己像が入学した高校では受け入れられないために起こる「優等生の息切れ型」と考えられる例がある。同時に,社会学的に不登校をとらえた「ボンド理論」から考えると,わずかなことによって切れてしまうほどもろい学校と生徒とのつながり方が明らかになる。教師としては現代社会の中で生徒が置かれている状況をよく理解した上で,生徒が学校へとつながろうとする力を支えること,また,生徒が助けを求められる環境を整えることが大切であると考えた。 

 ●愛知県立丹羽高等学校  佐々木 早苗 教諭

テーマ:高等学校の教育活動におけるコラージュ作り体験の実践

    〜予防的・開発的教育相談を視野に入れて〜

多面的・共感的理解の一アプローチとしてコラージュ作り体験を高校生に実施し,予防的・開発的教育相談としての有効性を探った。その結果,コラージュ作品には生徒の内的世界が表現され,生徒は作品を客観的に眺めることによって自己への理解を深め,さらにシェアリングによって,相手の思いや個性に気付き,他者理解も促進することが分かった。また,コラージュ作り体験は,生徒と教師のコミュニケーションを促進し,教師間ではコラージュ作品を基にした意見交換が行われ,生徒をより深く理解する効果をもたらした。コラージュ作り体験が,予防的・開発的教育相談の一技法として,高校生の人格成長への援助に有効で
ることが示唆された。

●愛知県立鶴城丘高等学校  高津 麻井 教諭

テーマ:教師の教育臨床的な関わりの可能性と課題

    〜教育相談実践事例の検討を通して〜

 本研究では,適応上の問題を抱えた子どもの心の動きを的確に把握し,子どもとその家族に必要なケアを講じるための手だてとして,教師の教育臨床的な関わりの可能性を探った。教育相談で対応した,生徒指導上困難な実践事例を取り上げ,教育臨床的観点から検討した。その結果,子どもとその家族の支援には,可能な限り専門相談機関と連携し,多角的な視点を取り入れながら,教師が主体性をもって問題に取り組むことで,子どもの変容を促す効果を高められることが分かった。さらに,生涯発達心理学の専門的知識を深めること,教師の心の安定を図るためのセルフヘルプとしてフォーカシングを活用することを検討した。

  ビデオでは,4名の教諭の実践発表の様子を上映した。

4 愛知県教育史の展示

愛知県教育史編さん事業で刊行・完成した「本文編」「資料編」「年表」「資料目録」全巻を展示した。

5 教育論文の展示

平成19年度から23年度までの県教育研究論文入賞者(最優秀賞及び優秀賞)の論文を展示した。

6 研究発表・研究協議

次の各研究について発表と協議を行った。なお,当センターの研究の詳しい内容については,当ウェブページを御覧いただきたい。 

 第1部会(幼小中高特)

  生きる力をはぐくむESD実践カリキュラムの開発に関する研究

【発表の概要】

 

 学校におけるESDの円滑な導入方法を確立することを目指した。その実現には,国立教育政策研究所のESD研究の最終まとめで提案された「ESDの視点を生かした授業づくり」の視点表による単元へのESDの視点導入やESDカレンダーによる総合的な学習の時間を中心とした年間計画の作成などが効果的であることが実践を通して分かった。更に大切なポイントは,ESDを一から始めるのではなく,既にある教育活動にESDの視点を入れていくということである。そのことは,ESD導入による教員の多忙感や抵抗感を和らげるだけでなく,統一性のなかった教科,総合的な学習の時間,特別活動などを有機的につないでいく作用があるそのポイントを押さえることにより,学校全体が活性化され,児童生徒の学びを深め,新たな学びに対する意欲を高めていくことも分かった。

 
 ◇
第2部会(小中高特)

   発達の段階に応じたキャリア教育の在り方に関する研究

【発表の概要】

 

 平成23年1月に出された中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」を受け,児童生徒が社会的・職業的自立できる力を育成するキャリア教育の研究を進めてきた。 最初に,愛知教育大学の高綱睦美先生より「キャリア教育導入の経緯とその必要性」というテーマで講話をいただき,それを受け,基礎的・汎用的能力のうち,「人間関係形成・社会形成能力」「キャリアプランニング能力」の2つの力の向上を図ることを中心とした取組についての基調提案を行い,本研究の指針を示した。その後,小学校部会と中学校・高等学校部会に分かれ,研究協力委員による実践発表を行った。協議のまとめとしての高綱先生の講話では,キャリア教育の推進方法について,小学校,中学校,高等学校,それぞれの発達段階ごとに示されたと同時に,推進に向けて「学校間の協力」「保護者との協力」「地域との連携」「教師自身のキャリア形成」が大切であるというお話をいただいた。

 
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第3部会(高特)

 

高等学校情報科の教科指導の充実に関する研究

〜新学習指導要領の趣旨を踏まえた実習授業の在り方〜

【発表の概要】

 

 新学習指導要領で求められている「思考力・判断力・表現力等の育成」のために,調べる,まとめる,発表する,話し合う,討論するなどの学習活動を取り入れた実習を提案した。まず,従来行われてきた実習をどのように工夫・改善するとよいかをまとめて研究発表を行った。さらに,実習のテーマとして「実習を通して身に付ける情報モラル指導」と「アンプラグドメソッドによる普通教室での実習」について取り上げ,具体的な指導計画や実習事例及びその効果についての研究発表と研究協力委員の所属校における授業実践の事例発表を行った。

 
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第4部会(高特)

 

高等学校国語科における指導の充実に関する研究                

〜生徒が能動的に学ぶ授業を目指して〜 

【発表の概要】

 

新学習指導要領の実施に当たり,単元を貫く柱として位置付けが改められた言語活動について,効果的な実践方法を探ることを目的として研究を重ねてきた。また,評価の在り方についても,評価規準の設定を中心に研究を進めてきた。愛知県総合教育センター研究紀要第100集,101集においては,「国語総合」を中心として評価規準を例示し,指導と一体化した妥当性,信頼性のある評価を実現しうる授業改善について検討した。これを受けて今回,実践事例の発表を通して,言語活動を位置付けた効果的な授業の在り方と,評価規準とともに評価方法や評価時期も考慮した具体的な評価の在り方を提案した。
 研究発表を通して,言語活動が生徒の言語能力を高めることと同時に,そのためには,指導者が学習者の学習履歴と現時点における言語能力や興味・関心等を把握すること,評価方法の十分な検討が必要なことが明らかとなった。


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第5部会(高特)

 

コミュニケーション能力を育成する外国語科指導の在り方に関する研究

〜単元構想の工夫と言語活動の充実〜

【発表の概要】

 

新高等学校学習指導要領の趣旨を踏まえて,生徒の英語によるコミュニケーション能力を育成することを目的とした単元構想と言語活動の在り方を探るために,次の項目について分析・考察した結果を報告した。
 @ 言語活動に対する生徒の意識について
 A 単元構想の様式とCAN−DOリストの作成方法について
 B 単元構想を基にした授業実践による生徒の変容について
 学習到達目標を明確にして,生徒が英語を使用しやすいようにペア・ワークやグループ・ワークを設定したり,Q−Aやワークシートを工夫したりすることにより,英問英答による内容理解ができることや,自己表現活動において生徒の意欲が高まることなどが分かった。今後も生徒の実態に応じて自己表現を促すための工夫をしていくことが必要であることが示された。


 ◇第6部会(小中高特):テーマ部会

 

実践的指導力の向上を図る教職員研修の在り方に関する研究

【発表の概要】

 

第6部会は,本年度の大会テーマ「力のある教師をどう育てるか」を受けて,テーマ部会として設定した部会である。午前中の,安彦忠彦氏の基調講演及びパネルディスカッションの内容と,本年度から実施している「教育研究リーダー養成研修」の概要を基に,実践的指導力の向上を図るこれからの教職員研修の在り方について研究協議を行った。研究協議では,指導主事,管理職,指導的立場の教諭という立場で,ミドルリーダーの育成について,「必要と思われる資質」「力を伸ばす方法」「その課題」の観点から,付箋紙ワークショップ形式で御協議いただいた。各グループでの発表では,各々の立場から意見が出され,最後の全体協議の時間に,更にミドルリーダーの育成について協議を深めることができた。

 

7 おわりに

平成24年8月に,中央教育審議会が「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策」について答申し,「力のある教師をどう育てるか」というテーマでの基調講演及びパネルディスカッションには,多くの先生方の関心が集まり,例年以上の参加者を得ることができた。「私たちは専門職であることに自負と自信をもって学校教育における実践を担いたいという思いがわき,心が熱くなりました」等,参加者の思いが込もった数多くの感想が寄せられた。また,午後の研究発表・研究協議においては,部会ごとに,グループ・ワークや研究協議を取り入れるなどの発表形式を工夫した取組が好評であった。今後もセンターの研究活動が現場の先生方にとっての指針となるよう,研究を進めていきたい。