創立40周年記念 第54回愛知県総合教育センター研究発表会

大会テーマ「学校の力,教師の力を高める」

平成261121日(金)10001630

創立40周年記念第54回愛知県総合教育センター研究発表会を,「学校の力,教師の力を高める」という大会テーマの下で,愛知県教育委員会岩月慎自委員長をはじめ,多数の来賓及び県内外から約400人の参加者を迎え,開催した。以下にこれらの概要を紹介する。 

1 開会行事次第

  ・開会のことば
  ・所長挨拶
  ・愛知県教育委員会挨拶
  ・来賓紹介
  ・基調提案
  ・閉会のことば

2 記念講演・鼎談

<記念講演>

◆演題 「授業の質を高めるために」

◆講師 東京大学大学院教育学研究科教授

秋田 喜代美 氏

<鼎談>

  秋田喜代美 氏  東京大学大学院教授
  柴田 好章 氏  名古屋大学大学院准教授
  杉浦慶一郎    総合教育センター所長

3 研究発表・研究協議

次の各研究について発表と協議を行った。なお,各研究の詳しい内容については,当ウェブページ「研究紀要第104集(平成27年4月1日掲載予定)を御覧ください。 

 第1部会 教師教育(テーマ部会 小中高特)
  教師を育てる教師の育成と研修の在り方に関する研究

【発表の概要】

 

 研究の最終年,「教育研究リーダー養成研修」を修了した研修員の所属する5校を研究協力校とし,研修の成果が,学校でどのように発揮されているのかを調査・分析した。この結果を基に,ミドルリーダーの姿と,育ちの過程や育ちを支える要素を明らかにすることを目的とした研究を進めた。5名の研究協力委員には,高い課題意識や,同僚とともに考え行動する姿,若手や同僚を育てつつ自らも成長し続けるなどの点が共通しており,このミドルリーダースタイルを「協働共育型ミドルリーダー」と名付けた。また,ライフヒストリーによってミドルリーダーの成長サイクルを明らかにした。パネルディスカッション,同じような立場の参加者同士のグループ協議で,ミドルリーダーの抱える課題(「協働共育型ミドルリーダー」を育てる環境や条件)の解決策について協議を行った。

 ◇第2・3・4合同部会 評価手法(テーマ部会 小中高特)
  「多様な学習成果の評価手法に関する調査研究」事業中間報告

【発表の概要】

 

文部科学省の委託により平成25年度より進めている「多様な学習成果の評価手法に関する調査研究」事業の中間報告を行った。本研究は,中央教育審議会の審議内容を踏まえ,高校生が身に付けるべき幅広い資質・能力の育成に向けて,新たな評価手法の開発を図り,様々な学習成果,活動実績の評価を推進することをねらいとしている。研究協力校は県立高校5校(英語…惟信高校,理科…一宮南高校,国語…日進西高校,地歴・公民…吉良高校,数学…蒲郡高校)とし,教科外(道徳)は小中学校について所内研究を進めている。
 はじめに,基調提案として,研究の背景や目的,手法等について説明し,ペーパーテストでは評価しにくい思考力・表現力・関心・意欲などの学力を可視化するための「パフォーマンス課題」と,それを評価するための「ルーブリック」(基準表)を作成し,その妥当性・信頼性を高めることが本研究のねらいであると解説した。
 続いて,研究協力校の委員が,それぞれの学校の取組について発表した。惟信高校はスピーキングとライティングのパフォーマンステストについて報告し,一宮南高校は,物理と化学のパフォーマンス課題(惑星の質量の導出など)の実践について報告した。日進西高校は古典の脚本化を行った例,吉良高校は先哲の思想に関する理解度を測るためにモラルジレンマ教材を用いた例,蒲郡高校はジグソー法を使って「数と式」のパフォーマンス課題に取り組んだ例を報告した。いずれもルーブリックを用いて評価を行っている。
 成果としては「言語活動への積極性が増した」「知識の習得にとどまらず,その理由を追究する姿勢が生まれた」などの意見・感想が報告され,生徒の学習意欲を喚起する取組となっていることが分かった。一方で,パフォーマンス課題の妥当性やルーブリックの信頼性を高める必要があること,評価の実施に多大な労力を要することなどが,課題として挙げられた。

 ◇第2部会 評価手法(テーマ部会 英語 高特)
   高等学校における多様な評価手法に関する研究
   教科指導の充実に関する研究(英語)

【発表の概要】

 

高等学校における「多様な学習成果の評価手法に関する調査研究」事業における外国語(英語)科の研究として,スピーキングテスト及びライティングテストの継続的な実施,及びルーブリックに基づく「外国語表現の能力」等の評価の実際について,研究協力校(惟信高校)から報告した。また,「教科指導の充実に関する研究(英語)」として,学習到達目標を明確にした単元構想及び言語活動を中心とした英語で行う授業の工夫,さらに言語活動で身に付けた力を評価して指導改善に生かす方法について,研究協力委員(豊田西高校,西尾高校,一宮興道高校)から報告した。
 いずれの研究も,生徒の英語によるコミュニケーション能力の向上を目指した外国語(英語)科の指導と評価の在り方を探るものであり,学習到達目標に対応したパフォーマンス課題とルーブリックの作成,従来の筆記試験では評価が困難であった「外国語表現の能力」や「コミュニケーションへ関心・意欲・態度」の評価方法について提案することができた。

 
 ◇
第3部会 評価手法(テーマ部会 理科 高特)
  高等学校における多様な評価手法に関する研究(理科)

【発表の概要】

 

 一宮南高等学校の理科の授業において,パフォーマンス課題による探究的な観察・実験の授業とルーブリックを用いた評価にどのように取り組んだかを,中間報告という形で発表した。平成26年8月までの研究成果の報告として,平成25年度の取組の振り返り,物理及び化学における観察・実験の授業実践の詳細,ルーブリックを用いた評価の実践状況と留意点等を報告した。

 
 ◇
第4部会 評価手法(テーマ部会 教科外,道徳 小中高)
  小中学校における多様な評価手法に関する研究(教科外,道徳)

【発表の概要】

 

研究1年目として,現行の学習指導要領や中央教育審議会等で審議されていた内容を踏まえ,道徳教育の評価の在り方の方向性について,所員による研究を進め,「道徳教育の評価場面・観点・方法一覧表」「道徳の時間における『ふり返りプリント』」などの提案を含めた一次報告を行った。名城大学の宮嶋秀光教授から「これからの道徳教育の在り方」と題して,道徳教育に対する期待の変化や,その期待に応えるための教育評価の重要性について,御講話をいただいた。その後,同じ校種の参加者がグループとなり,道徳教育の評価に取り組む上での課題について,現場の実情を踏まえて協議を行った。宮嶋教授からは,「方向目標をある程度の到達目標に変換する努力を行い,教育評価を通して指導の改善を図ることが重要である」などの助言をいただいた。


 ◇
第5部会 教科研究(数学 高特)
  数学における言語活動の充実と評価方法に関する研究

【発表の概要】

 

数学における言語活動の充実と評価方法に関して,「教科指導の充実に関する研究」「高等学校における多様な学習成果の評価手法に関する研究」という2つの研究を進めている。具体的には,パフォーマンス評価の実践研究である。基調提案として,研究の目的とパフォーマンス評価の説明をした後,7名の研究協力委員(明和高,昭和高,津島東高,武豊高,知立東高,豊橋西高,蒲郡高)による実践報告をした。パフォーマンス課題やルーブリックを作成することの難しさはあるが,生徒の主体的な活動につながり,有意義であるという報告であった。その後,質疑応答を行い,最後に筑波大学の清水美憲教授の御指導・御助言をいただいた。清水先生からは,「流行と不易」「課題と評価」「課題設定について」という3つのテーマで御指導をいただいた。項目について分析・考察した結果を報告した。


 ◇第6部会 情報教育(小中高特)
  ICTの授業活用と情報モラル指導者養成の取組

【発表の概要】

 

「ICT授業活用」と「情報モラル指導者養成の取組」の2つについて発表を行った。
 ICT授業活用では,平成24年度から4名の研究協力委員によりタブレット端末(iPad及び Windows8.1)を活用した授業実践を行い,タブレット端末の特長や効果的な活用法について協議を重ねてきた。研究協力委員(津島高,岡崎東高,みあい特別支援,一宮特別支援)から授業実践報告が紹介され,各学校において児童生徒の学びがICTによって活性化した様子が動画でも紹介された。また,タブレット端末の特長とICT活用例の紹介,ICT活用のまとめなどをタブレット端末の操作実演を交えながら発表した。併せてタブレット端末を展示し,参加者に操作を体験してもらうコーナーも設けた。
 情報モラル指導者養成の取組では,今年度開講された特設講座「情報モラル指導者養成講座」について報告された。初めに,情報モラル教育の重要性が示され,本講座の目的が説明された。次に今年度実施した講座の内容説明,受講者のアンケート結果の紹介等の中間報告を行った。また会場内に,特設講座ならびに受講者の学校で実施されたワークショップ形式の研修会の様子とその時に作成されたポスターを展示した。

4 教育相談特別研修論文の内容紹介ビデオについて

○愛知県立尾西高等学校 神谷 祐美 教諭

テーマ「高校生における教師への援助要請行動  −信頼感の観点から−」

 本研究では,高校生の教師に対する信頼感と教師への援助要請行動の関連を検討した。高校生123名を対象に調査し,欠損値が認められなかった118名を分析に使用した。その結果,(1)教師に対する信頼感の高低に関わらず,進路・学習領域においては教師による援助に対して高い期待感を抱いていること,(2)教師による否定的な応答が,援助要請行動における生徒の気持ちと関係していることが明らかになった。以上の結果より,進路・学習領域において,しっかりと援助しつつ,生徒が抱える心理的な悩みも同時に見立てながら,予防的介入の必要性も検討することの重要性が示唆された。 

○愛知県立半田商業高等学校 松尾 拓之 教諭 

テーマ「道徳教育におけるソーシャル・スキル・トレーニング実践に関する一考察

                −道徳性と自尊感情の関連性の検証を通して−」

 個人がもつ規範意識を含めた道徳性は,自尊感情と相関関係があるのではないか。また,対人関係能力向上を目標として実施するソーシャル・スキル・トレーニングによって,道徳性・自尊感情双方にポジティブな影響を及ぼすのではないか。以上2点の検証を行った。結果,道徳性と自尊感情との間に直接的な相関は見られなかった。しかし,この両者には,その共通項となりうるソーシャル・スキルの存在を把握することができた。このソーシャル・スキルの背景にあるのは,個人の中にある他者意識及び他者から得られる自分へのプラスの評価を土台とした自己有用感だと考えられる。 

 ○愛知県立吉良高等学校 井上 正人 教諭

テーマ「孤立した生徒への理解と支援」

孤立した生徒が抱える問題の一つとして,社会性の弱さを挙げることができる。社会性の弱さは心の総体的な活力の乏しさに由来するものであり,成育の過程において自我の発達が阻害されたことが原因であると考える。それ故,孤立した生徒の社会性を回復させ,孤立を解消することは容易ではない。
そこで,孤立した生徒に対しては,社会性を身に付けられるような支援や友達をつくるための支援と並行して,心の活力が乏しいままでも自己を社会との関わりの中で発揮できるような支援・見守りが必要である。生徒がもつ社会性以外の様々な資質の中には,社会との関わりに生かせるものがある。そのことに生徒自身と教師がともに気付くことで,生徒の社会性を補うことができる。

5 愛知県教育史編さん事業による刊行物の展示

本事業で刊行・完成した「本文編」「資料編」「年表」「資料目録」全巻を展示した。

6 県入選教育論文の展示

第1回から第47回までの県教育研究論文入賞者(最優秀賞と優秀賞)の論文を展示した。