USBデバイスサーバの効果的な利用法

1 はじめに

 校内には様々なパソコンの周辺機器があります。例えば,職員室内ではネットワークプリンタはどのパソコンからも印刷ができますが,スキャナやラベルライタ,イメージカードリーダ,USB接続のネットワーク非対応の複合機などはそれぞれの機器をパソコンに接続してからでないと使えません。そこで,USBデバイスサーバを利用して,周辺機器がどのパソコンからも利用できる環境をつくり,校務を円滑に行うための方法を検討・提案します。

2 USBデバイスサーバとは

 USBデバイスサーバは,USBポートを持つ様々なUSB機器をネットワークに接続できるようにするものです。USBの仮想延長ケーブルにより,USBの全機能を,複数のユーザでネットワークを介して使用できます(図1)。
 なお,USBデバイスサーバは,プリントサーバのようにLPRやIPPなどの標準的な印刷プロトコルを用いて通信を行うのではなく,仮想的にパソコン上に作られるUSBポートを通じて印刷を行いますので,あたかもローカルのUSBポートにUSB機器が接続されたように見えます。したがって,プリンタの場合,双方向通信により,プリンタに標準で付属しているプリンタドライバやステータスモニタ等がそのまま利用できます。さらに,プリンタ複合機のスキャナ機能なども,USB接続時と同様に使用できます。
 ただし,接続できるUSB機器の台数制限や,同時に複数の利用者が利用できない場合があるなどの制約がありますから,機器の性能を確認し,導入の目的にあっているか検討する必要があります。

 
図1 USBデバイスサーバの接続イメージ


3 USBデバイスサーバの特徴

 (1)設置場所に依存しない
 図2の場合,各周辺機器をパソコンの近くに持ってきてUSB接続をしなくてはなりません。また,複数のパソコンで各周辺機器を使用する場合には,ユーザが毎回繋ぎ直す必要があります。さらに,USBケーブルの長さは,最長5Mが基本であり,パソコンと周辺機器の配置によっては,USBケーブルが届かないということもあります。
 そこで,USBデバイスサーバを利用すれば,図3のように周辺機器のつなぎ替えは不要となり,ネットワークに接続しているユーザであれば,どの周辺機器も使用できるようになります。また,LANケーブルや無線LANを用いるため,USBケーブルよりは離れた位置にある機器どうしをつなぐことも可能になります。


図2 通常のUSB機器の使用例

図3 USBデバイスサーバ使用時


 (2)経済性
 USBデバイスサーバを使用すると,限られた数の周辺機器をネットワークに接続している多くのユーザが利用できるため,周辺機器への投資コストを削減することができます。例えば,ネットワークプリンタなど,ネットワーク対応製品が多く販売されていますが,買い替えるためにはコストがかかります。そこで,USBデバイスサーバを利用し,現在使用しているUSB機器をネットワークを介して利用することで,少しでも経費を削減することが可能となります。

 (3)プリントサーバ機能を持った製品もある
 USBデバイスサーバの中には,プリントサーバ機能を持つ製品もあります。プリントサーバ機能を持ったものは,一般的に使われているRawモード,LPR,IPP印刷に対応し,複数のパソコンからの同時印刷が可能になります。職員室では,複数の教員で1台のプリンタを共有することも多いため,この機能を持ったものがよいと考えられます。
※Windows Vista/Windows 7からの印刷は,LPR(バイトカウント有効)を使用してください。LPR(バイトカウント無効)及びRAW印刷では,OS仕様との相性により,正しく動作しない場合があります。


 (4)ギガビットイーサネットに対応した製品もある
 USBデバイスサーバは当初,データ転送の連続的かつリアルタイム性を必要とするWebカメラやUSBスピーカなどのUSB機器などのアイソクロナスモードを使用する機器は使用できませんでした。しかし,最近では高速データ転送を実現可能とするギガビットイーサネットに対応している製品も出回るようになり,アイソクロナスモードで動作する機器もネットワーク環境で利用することができるようになりました。

4 校務の効率化に関する実践例

 ここでは職員室にあるUSB機器をUSBデバイスサーバに接続し,複数のパソコンから利用できることを確認します。なお,この研究では,I・O DATA社製のUSBデバイスサーバ(ETG-DS/US)を使用します。また,USBハブは,ELECOM社製セルフパワーUSBハブ(ACアダプタが付属しているもの)を使用します(図4)。

図4 使用したUSBデバイスサーバ

 (1)現状の職員室のネットワーク
 図5のように,現状では,プリントサーバ付プリンタ以外はUSB接続機器であり,使用時に移動をさせています。ここに,USBデバイスサーバを導入し,表1のようにすることで,職員室内で機器を移動することなく使用できるようにします。



図5 現在の職員室のネットワーク簡略図



表1 USBデバイスサーバ導入後の職員室内にある周辺機器リスト
 ネットワーク対応レーザプリンタ   従来のネットワークプリンタとして使用
 (USBデバイスサーバを使用しない)
 レーザプリンタに直接接続されたスキャナ(コピー用)  USBハブを介してUSBデバイスサーバに接続
 USB接続のラベルライタ  USBハブを介してUSBデバイスサーバに接続 
 USB接続のスキャナ  USBハブを介してUSBデバイスサーバに接続 
 USB接続のインクジェットプリンタ  USBハブを介さずにUSBデバイスサーバに接続 
※USB接続のインクジェットプリンタをUSBハブを介さずに直接USBデバイスサーバに接続する理由は,USBデバイスサーバがもつプリントサーバ機能を使って,このプリンタを稼働させるからです。

 (2)USBデバイスサーバの設定
 市販されているUSBデバイスサーバは,家庭で簡単に使用できるように,DHCPサーバからIPアドレスを自動的に取得する設定になっています。しかし,多くの学校ではDHCPサーバを使用せずに,固定IPアドレスでネットワークを運用しています。したがって,USBデバイスサーバを直接校内LANに接続しても利用できません。
 そこで,以下のようにUSBデバイスサーバに固定IPアドレスを割り振ることで,学校でも使用できるようにします。
※メーカによっては,付属CDを使って簡単にIPアドレスを設定をすることもできます。

  ア パソコン側の設定
 研究で使用した製品は,DHCPがなくIPアドレスが自動取得できない場合は,APIPA機能が働いて「169.254.xx.xx.」というIPアドレスが自動的に割り当てられます。
※「xx.xx.」の部分は環境によって変わります。

 そこで,一時的にパソコンのIPアドレスをこのネットワークに接続できるようにアドレスを変更します。なお,現在使用しているIPアドレス等はメモを取っておいてください。この作業が終わったら元に戻します。

(例)
 IPアドレス  169.254.10.111  ※10.111は任意のアドレス
 サブネットマスク  255.255.  0.  0
 デフォルトゲートウェイ  169.254.  0.  1
        


図6 パソコン側のIPアドレス設定画面


 次に,このUSBデバイスサーバのIPアドレスを取得します。付属のユーティリティソフトから検索する方法もありますが,ここでは,コマンドプロンプトを使用します。
 コマンドプロンプトを立ち上げ,「ping 169.254.255.255」を打ちます。このアドレスはブロードキャストアドレスといい,ネットワーク上に接続されているすべての機器に対してデータを送信する(この場合だとすべての機器に対してpingを送る)という意味です。
 すると,図7のように,「Reply from 169.254.208.109」.と出てきます。これは,169.254.208.109.のIPアドレスを持つ機器から応答があったという意味になります。これが,現在のUSBデバイスサーバのアドレスになります。
※ このIPアドレスは自動で割り当てられるため,接続をし直す度にIPアドレスが変化します。
※ IPアドレスが検索できない場合は,ファイアウォール等が原因となっていることがあります。


図7 コマンドプロンプト画面 


  イ USBデバイスサーバ側の設定
 次に,USBデバイスサーバに固定IPアドレスを設定します。このとき,IPアドレスが競合しないように,事前にネットワーク内で使われていないIPアドレスを調べておく必要があります。
 ブラウザでUSBデバイスサーバの現在のIPアドレスアドレス「http://169.254.208.109」に接続すると,図8のようなログイン画面が表示されるので,ユーザ名とパスワードを入れ,ログインします。
※検索したアドレスで接続できない場合は,以下の手順にて,例外に検索したアドレスを入力してください。
   「インターネットオプション」→「接続タブ」→「LANの設定」→「詳細設定」→「例外」 



図8 USBデバイスサーバへのログイン画面(169.254.208.109に接続した場合)


 ログインをすると図9のようなネットワーク設定画面が表示されますので,固定するIPアドレス,サブネットマスク,デフォルトゲートウェイを設定します。また,DHCPによる自動設定を無効化するため,DHCP/BOOTPを「ENABLE」から「DISABLE」に設定をします。なお,デフォルトゲートウェイを設定しておけば,ネットワークが異なる環境からもUSBデバイスサーバに接続してある機器を使用することができます。
※今回は「192.168.12.220」にIPアドレスを設定をします。



図9 ネットワーク設定画面


 これで,USBデバイスサーバに固定IPアドレスが振られました。確認のため,パソコンのIPアドレスを元の状態に戻した後,コマンドプロンプトにてping命令を打ち,設定をしたIPアドレスに通信できるかどうかを調べます。このとき,使用しているパソコンのIPアドレスが「192.168.12.xx」(USBデバイスサーバと同じネットワーク)になっていないと通信ができません。
 図10のようにアドレスから返答があれば正常に設定ができていることが分かります。


図10 コマンドプロンプトを使用した通信チェック



 (3)USBデバイスサーバ接続後の職員室のネットワーク
 図11のように,職員室内のネットワーク内にある全てのパソコンからUSB接続機器を使用できる環境が整いました。なお,これらのUSB機器を使用するためには,付属のソフト(ユーティリティ)をインストールする必要があります。ユーティリティソフトのインストールおよび設定については,各メーカごとに異なるため,割愛します。なお,Windowsファイアウォールの除外リスト設定をする場合があります。

図11 USBデバイスサーバ接続後の周辺機器接続図

  ア USBデバイスサーバ経由でUSB機器を使う
 USBデバイスサーバ経由でUSB機器を使用する場合は,まず,USBデバイスサーバにUSB機器を接続します。次にユーティリティソフトを起動します。このとき, 図12のように,「あなたが使用中です」と表示されている場合は,そのUSB機器は使用できますが,「他の人が使用中です」と表示されている場合は使用できません。使用する場合は,あたかもローカルに接続してあるUSB機器のように使用することができます。
※使用時には各USB機器のドライバがインストールされている必要があります。



図12 ユーティリティソフト管理画面

  イ 切断要求をする
 図12のように,「他の人が使用中です」と表示されている場合,相手へ切断要求を出すことができます。切断要求を出すと図13の画面が出てくるので,相手が切断を承諾をすれば,「あなたが使用中です」に変わります。
 また,図14は相手から自分のパソコンに切断要求が来た場合の画面です。切断をする場合は「はい」をクリックします。


図13 自分から相手への切断要求


図14 相手から自分への切断要求


  ウ プリントサーバ機能を使用する
 プリントサーバ機能を使用すれば,複数のパソコンからの同時印刷も可能になります。設定は,図15のように,使用するプリンタのアイコンの上で右クリックをし,「プロパティ」を選択します。
 次に,図16のように「自動接続を有効にする」にチェックを入れ,「印刷を行うときのみ自動的に接続を行う」を選択します。


図15 プリントサーバの設定1


図16 プリンタサーバの設定2

5 教育に利用できる実践例

 今日では工業や理科分野における制御や計測などもパソコンを用いて行われることが多くなってきました。そのため,従来のようにRS232C接続やGP-IB接続によるものに加え,USB接続でパソコンと通信できる制御機器や計測機器も世の中に出回ってきています。RS232C接続やGP-IB接続によるものは,USB変換コネクタにより,USB機器として利用することもできます。しかし,このような機器は高額であり,生徒一人一台分ないことが現状です。授業や実習でも一台の機器をパソコン数台で物理的にUSBケーブルを差し替えて使用することもあります。
 このような場合,物理的に機器の接続を変えるのではなく,USBデバイスサーバを利用すれば,配線の手間も最小限に減らすこともできます。さらに,無線LANを利用すれば,無線LANのエリア内であれば,遠隔操作なども可能になると考えられます。
※USB変換コネクタを利用する場合は,別途ドライバのインストールが必要な場合もあります。

(例)
 USB接続可能なモデリングマシン(プロッタ)
 USB接続可能なプログラマブルコントローラ
 USB接続可能な計測機器
 

6 考察

 バスパワーで動作するUSB機器であれば,使用したいときにそのまま利用できますが,プリンタやラベルライタなどは機器がある場所まで電源スイッチを入れに行く必要があります。しかし,機器を移動して使用することを考えれば,USBデバイスサーバを利用してUSB機器を据え置きの状態で使用した方が効率的だと考えられます。今回の研究を経て,職員室内の誰でもUSB機器が使える環境になったため,効率よく業務ができるようになりました。

7 使用上の注意点

 (1)USBハブの種類と接続台数
  ・ USBデバイスサーバに接続するUSBハブはバスパワー(ACアダプタが付属していないもの)ではなく,セルフパワー(ACアダプタが付属しているもの)のハブを使用します。
  ・ 一般的には,USBの接続可能数は15台です。
  ・ USBハブも1台としてカウントされます。
  ・ 複数のUSBデバイスとして認識される場合は,接続できる台数は減少します。
  ・ USBハブの多段接続はできません。
  ・ バスパワーでの電源が供給できる機器の数は1台のみです。(メーカによって異なる場合があります。)


 (2)USB機器のドライバについて
 USBデバイスサーバを使用してUSB機器を使用する場合,パソコン本体に直接USB機器を接続するときと同様に,各機器のドライバをインストールする必要があります。


8 おわりに

 職員室内でUSBデバイスサーバを使えば,限られたUSB機器を動かすことなく共有して利用することができるため,校務の効率化を図ることができます。組織的に校務の情報化を推進する為に是非ご活用ください。

参考

 I・Oデータ ETG−DS/US製品ページ (http://www.iodata.jp/product/network/option/etg-dsus/