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ISSに滞在している宇宙飛行士の若田光一さんとの交流
−ARISS中央小コンタクト−
豊明市立中央小学校

   平成23年,平成24年とタイのバンコク日本人学校との交流で,タイ語の授業実践を行った。海外との交流は,現在のインターネット環境で十分可能なことが実証されたので,更に子どもたちの興味・関心を引き,夢や希望を与えられるような取り組みとして国際宇宙ステーション(以下ISSという)との交信を検討した。
 平成24年度末から,宇宙飛行士の若田光一さんがISSで長期滞在することとなり,平成26年3月からは,日本人初のISSの船長を務めている。
 アメリカ航空宇宙局(以下NASAという)のプロジェクトとして,ARISSスクールコンタクトというプロジェクトが存在する。このプロジェクトは,ISSの宇宙飛行士と交信することで,世界の子どもたちに宇宙や科学に興味をもってもらい,将来の科学技術発展の芽生えをつくるきっかけにするという,夢のあるプロジェクトである。
 本交流は,アマチュア無線設備を利用して,ISSが本校上空を通過する数分間の交流である。


1 交流の計画

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時 期

内  容

5月

5/23  豊明ARISS第1回会議を開催する。
7月 7/12  NASAあてに,ARISSスクールコンタクト・プロジェクトの申込申請を行う。
9月 9/28  NASAより,ARISSスクールコンタクトの実施許諾がある。

10月

10/8  豊明ARISS第2回会議を開催する。
10/10 豊明市教育委員会へ後援申請を出す。
10/23 ARISS中央小コンタクト・プロジェクトチームを発足する。

11月

11/5  第1回ARISS中央小コンタクト・プロジェクト会議を開催する。
11/5  事前学習・英語学習・各種研修会の全体計画を立案する。
11/6  「JAXA研修」の講師依頼をする。
11/14 第2回ARISS中央小コンタクト・プロジェクト会議を開催する。
11/20 PTAへの協力依頼,地域への広報活動を行う。

12月

12/2  全校児童に,ARISS中央小コンタクトについての説明を行う。
     児童の交信チャレンジャーとサポーターを募集する。
12/5  5,6年生に向けに,日本アマチュア無線連盟(以下JARLという)愛知県支     部長から具体的な説明を受ける。
12/9  募集を締め切る。(34人の応募)
12/11 20人の交信チャレンジャーとサポーターを決定する。
12/12 質問内容を20項目決定し,英訳する。
12/17 質問内容をNASAに通知する。
12/19 第1回英語研修を実施する。
1月 1/8   第2回英語研修を実施する。
1/18  JARLによる電波探索研修,及び第3回英語研修を実施する。
     無線設備(パラボラアンテナ等)を屋上に設置する。
1/26  交信リハーサル行う。
    2月  2/7   会場準備設営をする。
2/9   18:00にISSの若田光一さんとの無線交信を行う。

2 交流の対象

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 本校5,6年生の選抜された20人の児童とISS滞在中の宇宙飛行士若田光一さんとの交流

3 交流の実際

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(1)NASAから許可が下りるまで(5月〜9月)

 本校校長より,NASAの教育プログラム一環で,ISSとの交信ができることを教わり,豊明ARISS第1回会議をJARL東海地方本部幹事長とJARL愛知県支部長を招いて開催した。実施した場合のスケジュール,当日の物品,各種研修や事前研修実施の方法などを確認した。
 その後,NASAあてに英文で,ARISSスクールコンタクト・プロジェクトの申込申請を正式に行い,許可が下りるまで待つこととなった。
 9月28日にNASAより正式な許可が下り,実施に向けた本格的なプロジェクトが動き出した。

(2)校内プロジェクトチームの活動(10月〜1月)

 正式決定後,豊明ARISS第2回会議を開催し,豊明市や市教育委員会に後援申請を行い,校内におけるARISS中央小コンタクト・プロジェクトチームを発足した。
 校内プロジェクトチームは,全体企画部・環境部・英語研修部の3班構成で,本番まで準備を進めることになった。
 全体企画部では,交信をする児童(チャレンジャー)の選出と各種研修の日程調整を行った。児童には,臨時集会を開催し全体概要の説明を行い,保護者には「ARISSだより」を発行し情報提供した。応募総数34人の児童から抽選で20名の児童を選出し,本番まで各種研修会に参加することとした。また,当日質問する内容を英文で作成し,NASAに許可をもらう手続きをとった。
 環境部では,校内にARISSコーナーを設置し,宇宙の興味・関心を引くような展示物の作製を行った。また,当日体育館に展示するISSの20分の1の模型を作製すること,国立科学博物館からの隕石の借用,PTA・おやじの会の協力を得て,展示パネルの作製など,本格的に環境整備に動き出した。
 英語研修部では,ALTの英語教師による英語研修を行うことにした。研修内容は,当日の交信内容の質問を英文で覚え,発音の練習を中心に行った。途中,保護者向けの発表会を交えて,全11回実施した。交信本番で若田光一宇宙飛行士との交信の可能性も出てきたので,並行して日本語で質問する練習も実施した。

(3)各種研修会の実施(12月〜1月)

 JAXA研修と題して,宇宙と国際宇宙ステーションでの生活などを,宇宙航空研究開発機構(以下JAXAという)から講師を招き,5,6年生の児童を対象に実施をした。児童たちは,ISSの大きさや宇宙飛行士になるまでの道のり,無重力状態の環境の中で生活することがどんなことかを学ぶことができ,たいへん興味をもって参加することができていた。
 電波探索研修と題して,無線交信するにあたって,無線設備の取り扱い方や電波に関する基礎知識を身に付ける研修を行った。電波に関する基礎知識の中では,発信器を校内の10箇所に隠して,受信機で発信器を探索する研修を行った。児童たちは,電波の強弱から発信器を探し当てることができ,電波研修の成果を十分に得ることができた。

(4)交信本番(2月)

 交信本番1週間前に,NASAより正式な通知があり,交信日時が決定した。

  1 交信日時 平成26年2月9日(日) 午後5時22分
  2 交信相手 宇宙飛行士 若田光一さん(第38/39次長期滞在クルー)
                      第39次にはコマンダー(船長)を務める
  3 識別番号(中央小学校用コールサイン) 8N2TCES
                 (1/28に総務省東海総合通信局から免許付与)
  4 交信児童 20名  5年生:9人(男7,女2)
             6年生:11人(男3,女8)
  5 質問内容

01 ISSではどんな実験をしているんですか
02 ISSから見える1番きれいな景色は何ですか
03 ISSからオーロラは見えますか
04 ISSの生活で自由時間はありますか
05 ISSで生活をしていて一番大変なことは何ですか
06 広い宇宙の中で行ってみたいところはありますか
07 いつになったら宇宙に住めるようになると思いますか
08 宇宙では背が伸びると聞きましたが本当ですか
09 ISSから見る星はきれいですか
10 ISSは1日に何回地球を回りますか
11 宇宙酔いになったことはありますか
12 地球以外に人や動物はいると思いますか
13 ISSから見る地球はどんな景色ですか
14 ISSで病気になったらどうするのですか
15 ISSから見る月は丸く見えますか
16 ロケット打ち上げの時,気持ち悪くないですか
17 ISSではどうやって寝ているのでしょうか
18 ISSで出たごみはどうしているのですか
19 ISSでは何を食べているのですか
20 ISSでの食糧・空気・水は何日分ありますか

  約10分間の交信で,20人中12名の児童が交信することができた。若田光一宇宙飛行士
 から鮮明な声で応答があったときには,会場がどよめき,興奮に包まれた。

4 交流の様子と交流前後の変化

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 写真1 JAXAによる研修  写真2 英語研修
   
 写真3 電波探索研修 写真4  ISSを狙うアンテナ
   
 写真5 ARISSコーナー  写真6 ISSの模型
   
写真7 交信本番   写真8 会場の様子

◇交信前の意見と交流を終えての感想
 〜交信前の応募用紙,報道機関への取材のインタビューから〜


 <交信前>
 
交信前の応募用紙の決意作文からは,宇宙に興味をもち,一生に一度のチャンスであろう宇宙飛行士と交信できることへの期待を十分に感じることができた。また,無線に興味はあるが,免許をもっている児童は全くおらず,ISSに滞在している 宇宙飛行士ときちんと交信できるかという不安も感じられた。
 英語での交信を条件に応募を働きかけたところ,英語への不安な気持ちをもっている児童も多くいた。英語への不安感は,英語研修を受講する意欲につながり,児童が研修に意欲的に取り組もうとする決意も伝わってきた。

 <交信後>
 交信後,20人の児童が全員,会場に来た人たちの前で今の気持ちを素直に伝え,記念撮影後には,テレビや新聞・ラジオなどの報道機関からの取材を受け,以下のような感想を述べていた。

  「貴重な経験ができてうれしい。若田さんの声を聞いて優しい人だと思った」
  「若田さんの声が本当に聞こえてうれしかった。宇宙に行ってみたいと思った」
  「貴重な経験ができて,とてもうれしかったです」
  「若田さんはイメージどおりの優しい人だった」
  「宇宙からの若田さんの声が聞こえてよかった」
  「宇宙に興味をもつことができました」
  「無線の操作は難しいそうだけど,無線に挑戦してみたいです」
  「若田さんから,『宇宙に住めると思いますよ』と応えてもらったので,早く住んでみたいです」

 全ての児童が,満足感・達成感を味わうことができた。また,宇宙に興味・関心をもち,将来,宇宙へのあこがれをもって成長してくれることを期待している。
   

 成果と感想

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   本研究1年目は,タイのバンコク日本人学校のタイ語教師からタイ語を教えてもらう授業を実施した。2年目は,同じタイ語の先生にタイのことを教えてもらおうとタイのことについての質問を投げかける形式の授業を行った。2年間は,インターネットの教育的利用という観点で,十分に成果を上げることができたと感じている。
 本年度,研究3年目となり,子どもたちに夢を与え,ロマンを感じさせることができる題材として,ISSとの交信に取り組んだ。ISSとの交信を授業で行うのは現実的では無いが,教育的利用の新たな取り組みの一つとして本研究を進めた。
 今までのさまざまな取組を通して,3年間の成果と課題をまとめておきたい。

<研究の成果>
 本研究3年目で,宇宙飛行士とのコンタクトが可能なことを知り,校長先生をはじめ,教育委員会や無線協会などさまざまな方々の力を借りることにより交信することができ
た。インターネットの教育的利用という観点では,インターネット回線を利用していないので,本研究の趣旨から外れる部分はあるかもしれない。だが,アマチュア無線設備は,公共の通信機器や携帯電話が利用できなくなったときに,防災用として多くの命を救い,活躍したことは,阪神淡路大震災や東日本大震災で実証済みである。現在,アマチュア無線で,デジタル通信が可能な無線機も出てきており,画像を送信することが技術的に可能ではある。ただ,無線従事者の免許が必要なことや画質がインターネット回線よりは劣る点から,気軽に利用できる通信手段とは言えない。
 本研究では,インターネット回線を利用しないで,交信ができることを実証した点で成果が十分に得られたと言える。また,宇宙飛行士と直接話ができたことは,子どもたちに宇宙に興味をもたせる動機付けになった。また,交信相手が日本人宇宙飛行士の若田光一さんであったことで,身近に宇宙を感じることができたようであった。さらに,交信相手が日本人宇宙飛行士でなかった場合に備え,英語の研修に力を入れて取り組むことができたことは,本研究の目的以外の成果があったと感じている。
 いずれにしても,アマチュア無線を通しての取組は,インターネット回線同様に,大きな教育的効果があり,今後の実践の参考事例になる意義のあるものと感じることができた。

<研究を終えての感想>
  研究1,2年目のタイのバンコク日本人学校との交流では,バンコクとの時差が2時間のため,比較的取り組みやすい外国の学校として交流をお願いした。しかしながら,相手校と本校との各行事の時期的違いや,時差の関係から実施するまでに多くの障害が存在したのでたいへん苦労した。しかし,インターネットを通じてタイ人の先生からタイ語を学んだり,タイの風習や文化を教えてもらったりすることは,子どもたちの興味・関心を引き,大変有意義な取組と言える。そして,研究3年目で,ISSの宇宙飛行士と交信できたことも,前述したように教育的効果は大きいものだと感じた。

 以上,3年間の研究を振り返り,さまざまな取組の中で,幾つもの障害を乗り越え実践できたことは教師としても得るものが大きかった。また子どもたちが,本当に楽しく授業に取り組んだり,交信できたことは,何にも代え難いものであったと感じている。教室の中で授業を実践するだけでなく,インターネットを利用することで,教育的視野が広がり,世界中の人たちとつながることができる点で,今後の学校教育の在り方を考えることができる研究となったと言える。


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