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テレビ会議システムを利用した大学連携授業 
中学3年 理科 「生物の多様性」
江南市立西部中学校

   
 本校は,江南市の市街地より離れたところに位置し,学級数が14学級という中規模校である。本校の理科では,どの学年も積極的にICT機器を活用しており,デジタル教科書や書画カメラを日常的に活用し授業を行っている。
 理科では「本物」に触れることを大切にし,3年間を通して直接体験を多く取り入れた授業を展開している。例えば3年生では,微生物を観察したり,花粉管の伸びる様子を観察したり,DNAの抽出をしたりするなど,生物分野に力を入れて学習を進めている。
 今回は大学と連携して「生物の多様性」をテーマに講義をしていただいた。講義を担当する准教授は,細胞生物のスペシャリストであり,専門的で深い知識を生徒に提供できると考えた。

1 交流の計画

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時 期

内  容

5月

交流相手との打ち合わせ
 ※学習内容,学習時期,使用機器

6月

事前学習
 ※提供を受けた細胞生物の観察

7月

大学連携授業

2 交流の対象

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本校3年生生徒156名(4クラス)
愛知教育大学准教授

3 交流の実際

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(1)事前打ち合わせ(5月)
 当日の授業でどのような講義をしていただくのか,テレビ会議システムを活用して相談した。ここでは,テレビ会議システムの基本的な使い方や,仮想プリンター機能を中心に確認した。この機能を活用すると,文章やプレゼンテーションなどの共有が可能になる。そこで,生徒がふだん使用している教科書を画面上で共有しながら,相談を進めることができた。「細胞生物の観察を行ってから,当日を迎えてほしい」と准教授から提案があったため,事前学習として細胞生物の観察を行うことにした。

(2)事前学習(細胞生物の観察)(6月)
 准教授より提供していただいた細胞生物の試料の観察を行った。観察した細胞生物は「ゾウリムシ」「ミドリムシ」「ボルボックス」「テトラヒメナ」の4種類である。資料集では見たことがあるが,本物を自分たちの目で見ることは初めてなので,生徒にとってとてもよい刺激となった。また,「テトラヒメナ」は,資料集にも掲載されていない生物であり未知の存在だったので,生徒は高い関心を示していた。



 ボルボックス  テトラヒメナ

 生徒一人に1台の顕微鏡で,4種の細胞生物をじっくりと観察させた。一定の条件を保てば分裂している様子が観察できるという准教授のアドバイスに従って観察させた。一部の生徒は,分裂の瞬間を捉えることができ,とても感動していた。その生徒の顕微鏡にカメラを取り付け,大型モニターに映すことによって全員で確認することができた。

 
 
観察の様子(学級全体)  観察の様子(個人) 

(3)大学連携授業(7月)
 これまで学習してきた内容の総まとめという位置付けで,「生命の連続性」という題目で講義をしていただいた。准教授が作成したスライドを仮想プリンター機能で共有し,スクリーンに映し出しながら講義を受けた。図を拡大表示させたり,名称を書き込んだりしながら,細かい部分まで分かりやすく説明していただいた。遠方にいながら,その場で講義を受けているようであった。
 講義では,中学校で学習する細胞のしくみについて,詳しく解説をしていただき,有性生殖・無性生殖について触れていただいた。准教授からの問いかけに対し,生徒はカメラに向かって挙手をし,マイクを通して返答していた。講義は,中学校の学習内容を超えて,今注目されている細胞分裂に関する最先端の研究にも及んだ。その中には,事前学習で観察した「テトラヒメナ」に関する内容があり,この生物はノーベル賞を受賞した研究対象であることが知らされ,生徒たちはとても驚いていた。講義の最後には,質疑応答の時間を設け,生徒の質問に的確に答えていただいた。
〜生徒の質問〜
 ・「細胞分裂の研究を進めていけば,生物の寿命を調整することは可能ですか?」
 ・「細胞は,死んだ後はどうなるんですか?」
 ・「なぜ,核交換をするのですか?」 etc

 
仮想プリンター機能の活用の様子   講義の様子

4 交流後の感想

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一番興味深いと感じたのは,DNAから「テロメア」がなくなると細胞分裂ができなくなることです。
今まで学習した内容をさらに深く学習できたので,おもしろかった。
体の中に60兆個の細胞があることに驚きました。
微生物にもオス・メスの区別があることを改めて知り,驚いた。さらに,ゾウリムシには性が6種類あることには想像もしていないことであったのでビックリした。
細胞については1年次に構造について学習し,3年次には増殖の仕方について学習してきたが講義を聴いて自分がまだまだ知らない世界があることに気付いた。
細胞生物に目があることや口があることに驚いた。ボルボックスには目があり,光の方向に進んで光合成することはおもしろいと感じた。
今まで中学校で学習してきた内容よりも深いことが学べました。講師の先生の話は,とてもわかりやすかったです。高校生になっても,今学習している知識が大事であることが改めて理解できました。これからは,今の学習をより深めていきたいと思います。

 以上のように,生徒は新しい知識を得られたことに喜びを感じていた。また,さらに学習を深めたいというような意見も多くあり,学習意欲の向上につながった。

5 成果と課題

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<研究の成果>
 通常の教科担任による授業と,准教授による講義とでは,話の内容が同じであったとしても,生徒への伝わり方や重みが異なる。研究の第一線で活躍している准教授から学ぶからこそ,生徒にとって大きな刺激になったといえる。また,ふだんとは違う指導者から講義を受けることで,よい緊張感を保ちながら受講できたようである。
 本実践のポイントは,「事前学習」と「当日の学習」の組み合わせにあった。准教授からただ話を聞くだけであったとすれば,知識を得るだけの受け身の実践になっていたのではないか。しかし今回は,当日の講義に出てくる生物を事前に観察してから講義に臨めたので,講義を受ける構えができた状態となり,難しい内容であっても生徒には理解できるものになった。
 今回の実践では,ワイヤレスウェブカメラとワイヤレスマイクを活用した。准教授からの問いかけに対して,生徒が移動することなく答えることもでき,実際の授業形式により近づけることができた。
 テレビ会議システムの活用により,准教授に来校していただかなくても,事前打ち合わせや講義が可能であった。時間を有効に活用でき経費の削減にもつながる。今回は,大学の講義の間の時間をうまく活用して講義をしていただいた。互いに大幅な予定を変更せずに実現できたことも大きなメリットである。

<今後の課題>
 今回は,同じ内容の講義を4クラスすべてに実施していただいたので,その点では准教授にかかる負担が大きくなってしまった。一度きりの連携授業では,イベント的なものとなり,生徒にとって学習の定着や学習意欲の向上,継続とはならないと考えられる。今後は定期的な開催を計画したい。また,生物分野の大学連携だけでなく,他分野・他教科でも連携を図れることができれば相乗効果が生まれ,生徒の学習意欲がより向上することが期待できる。
 大学連携だけでなく,博物館などとの連携によっても,より専門的に学ぶ場を生徒に提供できると思われる。

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