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テレビ会議システムを活用した医療療育センターの施設内学級との交流
愛知県立岡崎特別支援学校
 

  岡崎特別支援学校は,主に肢体に障害のある児童生徒が通う学校である。これまでは,『第二青い鳥学園(肢体不自由児と重症心身障害児者を対象とする病院・福祉施設)』と併設されていたため,身体の運動機能を回復させるために入院・療養している児童生徒が,病院の自室から登校できる環境にあった。しかし平成28年度に,『第二青い鳥学園』が本校から10q以上離れた場所に『愛知県三河青い鳥医療療育センター(以下,センター)』として新築移設されることとなったため,入院・療養する児童生徒が自室から通学できない状況となり,センターの施設内学級「あおい学級」で授業を受けることとなった。
 そこで,本校と「あおい学級」の児童生徒の結びつきを継続させ,関わりが深化・拡大していくことを期待し,テレビ会議システムを活用した交流実践に取り組むことにした。また,このテレビ会議システムを利用した「あおい学級」との交流が本校のスタンダードとなるように,教員への啓発や研修にも取り組んだ。多くの教員が実践しやすいように,テレビ会議システムの活用方法や問題発生時の対応方法などを活用マニュアルとしてまとめ,職員全体に広めていけるよう準備した。

1 交流の計画

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時 期 内  容 

5月

校内の接続テスト及び担当教員の研修
「あおい学級」との接続テスト

小学部テレビ会議交流1

6月

小学部テレビ会議交流2
高等部テレビ会議交流1(岡崎東高等学校との交流学習打ち合わせ)

7月

小学部テレビ会議交流3
中学部テレビ会議交流1
,2

 9月 小学部テレビ会議交流4
 これ以降,適宜交流を進めていく

2 交流の対象

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岡崎特別支援学校 小学部児童7名,中学生徒6名,高等部生徒7名
センター施設内「あおい学級」児童生徒4名

岡崎東高等学校 生徒3名 (※人数は,会議に参加した児童生徒数の最大数)

3 交流の実際

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(1)小学部テレビ会議交流1
 第1回のテレビ会議交流では,準備された機器に対する興味・関心の高まりや画面越しの友達に会えたうれしさもあってにぎやかな交流となった。初めてのテレビ会議交流を体験した児童たちは,話しかけてすぐに返答が戻ってこないこと(タイムラグがあること)から,ふだんのように話すことができず,多少の戸惑いを感じることとなった。また,通信回線の影響で映像が止まってしまうこともあり,話しかけながら手を振り,相手の反応を確認しようとする姿も見られた。
 機材は,あおい学級側(交流児童2名)も学校側(交流児童7名)もタブレット端末を使用した。学校側ではタブレット端末を大型テレビにつなぎ,相手の映像がはっきりと見られるようにした。さらに,カメラに全体の様子が映るように半円状の配席にした(写真1)。初めは,タブレット端末をテレビ台の上に固定したが,7名の児童の表情がほとんど映らなかったため,教員がタブレット端末を持ち,児童の表情を映すようにした(写真2)。これで学校側の児童の表情は映すことができたが,児童の視線がタブレット端末ではなく,テレビの方を向いてしまうこととなった。

   
写真1 テレビ台の上に固定したタブレット端末
写真2 タブレット端末を手に持つ教師
(2)小学部テレビ会議交流2
 
第2回のテレビ会議交流では,タブレット端末はテレビ台の上に戻し,前席の児童の間から後席の児童の顔が見えるように配席を改善した(写真3)。こうしたことで,児童全員が画面に収まり,表情も映るようになった。また,教師がタブレット端末を持つ必要がなくなったため,児童の介助に回ることができるようになった(写真4)。児童の視線がテレビの方を向いてしまうことへの対策として,人気のキャラクターの目の部分をくり抜いてタブレット端末のカメラ部に貼り付けるという工夫をした(写真5)。それによって,「タブレット端末を見てお話しをしよう」という言葉かけが「(キャラクター名)を見て話そう!」という言葉かけに変わり,児童のモチベーションを高めながら視線をタブレット端末に向かせることができた。
 
一方,テレビ台の上に固定したタブレット端末はマイクの機能も担っているため,大型テレビから出力される音声を拾ってしまい,時々ハウリングを起こしてしまう結果となった。タブレット端末には手軽さがあるものの,音声の扱いにも工夫が必要であることが分かった。
 授業を担当する教師は,より交流を活発にするために,声だけでなく文字や絵を一緒に提示しながら会話できるフリップなどを準備していた(写真6)。


   
 写真3 全員の顔が映るように改善した配席 写真4 児童の介助に回れるようになった教師
   
   
 写真5 カメラ部がキャラクターの目になるように貼り付けたもの  写真6 絵や文字を見せながら効果的に伝える様子
 (3)中学部テレビ会議交流1,2
 
中学部では,昨年度まで一緒に学習していた仲間とのテレビ会議交流を行った。入院・療養していた生徒が退院することになり,最後の思い出づくりの意味をこめたテレビ会議交流となった。生徒たちはお互いにメッセージを伝え,修学旅行の話題などで盛り上がり,久しぶりに会う友達との会話を楽しんだ。
 機器は,パソコンとウェブカメラ,有線マイクを使用した。大型テレビにウェブカメラを設置したので,生徒の視線は自然なものとなった。また,有線マイクを用いることでハウリングを防ぎ,交流相手に誰が話をしているのかを明確に伝えることもできた(写真7)。
 第2回のテレビ会議交流では,テレビ会議上でレクリエーション(爆弾ゲーム)と記念撮影を行った。爆弾ゲームは,曲に合わせてぬいぐるみを隣の友達に渡し,曲が止まったときにぬいぐるみを持っている生徒が質問に答えるという内容であった。テレビ会議上でそのレクリエーションを行う方法が画期的であった。学校側とあおい学級側で同じぬいぐるみを準備し,学校側からスタートして最後の生徒がテレビ画面を見ながら画面の外にぬいぐるみを出し,見えなくなるように渡すふりをするのである。それを見たあおい学級側は,準備していたぬいぐるみを出す(回し始める)という方法であった。曲のタイムラグがあったので,同じ場所でゲームをしているほどのスムーズさこそ出なかったが,生徒たちの笑顔はすぐそばで楽しんでいるかのようだった。
 記念撮影は,双方の画面サイズを同じ大きさにして左右に並べ,その画面をカメラで撮影したり,パソコンのプリントスクリーン機能を活用して画像として保存したりした。これまでは,このように集合写真を撮ることは難しい環境であったが,テレビ会議システムの機能を活用することで,生徒たちの思い出に残るアイデアあふれる取組を実現できた(写真8)。
 タブレット端末は,カメラ・マイク・モニターの三役を担うことができ,万能でかつ手軽に活用することができる。しかし,交流内容や交流人数によってはパソコンを選択することが効果的な場合があることに気付くことができた(写真9)。


   
写真7 有線マイクを使って話をしている生徒 写真8 思い出に残った合同記念撮影
 
   
写真9 交流内容・交流人数に応じた機器選択  

4 教師への啓発

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 本研究により,テレビ会議交流の有効性と可能性を実感している。アイデア次第ではさまざまな交流方法に発展していくのではないかと思う。しかし,そもそもテレビ会議に限らず,情報機器を用いた授業に対してハードルの高さを感じている教師は少なくない。何が準備に必要で,それをどのように接続し操作すれば,テレビ会議ができるのかといった手順等を明確にする必要性を感じた。そこで,テレビ会議交流に挑戦する教師をサポートしながら,接続方法が意外に容易であること等を広く伝えていった(現在,使用しているテレビ会議システムは,タブレット端末だけで完結できるため,非常に手軽に授業に取り入れることができる)。
 これまで積み上げてきた実践の成果と反省を生かし,テレビ会議交流に挑戦する教師が,適切に機器を選択したり,映像や音声の調整がうまくできるようにマニュアル化を進めている(資料1)。また,機器や無線LAN等に不具合があった場合の対処法についてもマニュアルにまとめている。

   
 資料1 テレビ会議の活用マニュアル

5 成果と課題

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<研究の成果と課題>
 
これまで学校に併設されていた第二青い鳥学園が移設されたことをきっかけに,テレビ会議交流を積極的に実施するようになってきた。画面越しにゲームを行うなど児童生徒自身が交流内容を考えたり,担当教師がアイデアを出したりと,交流の内容や形態が充実してきていることを実感している。今後も,あおい学級とテレビ会議交流を継続し,児童生徒同士のつながりを継続させ,ともに学ぶ機会の増加につなげたい。
 テレビ会議交流に当たっては,手軽に使用できるところからタブレット端末の活用を進めてきた。しかし,交流人数によってはタブレット端末の画面では小さいため,パソコンと大型テレビの活用が必要であることも分かってきた。また,テレビの音声をタブレット端末のマイクが拾うことでハウリングを起してしまうという苦い経験もした。こうした経験から,交流内容や交流人数によっては,パソコンを選択した方がよい場合もあることが分かった。タブレット端末やパソコンを活用するメリット・デメリットを明確にし,それぞれのメリットをテレビ会議交流で生かせるようにする必要があるだろう。また今後,テレビ会議交流を拡大していくためには,教師がテレビ会議に対して感じている苦手意識を払拭していくことも必要だと感じている。本研究においてマニュアル化したものを,ユニバーサルデザインの概念に基づいて図や写真を用いて更に整理し,多くの教師に利用してもらえるような読みやすいものにしていくことを継続したい。ひいては
,このことが本校のICT教育が発展する一助になることを願っている。

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