インターネットビデオ通話を利用した
視覚障がい
者との交流
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豊田市立井上小学校 |
小学3年生の総合的な学習の時間において,福祉について学ぶ授業に取り組んだ。 大人たちに大切に守られ,育まれている児童は幸せである。しかし,その幸せは日常のことであるだけに,ふだん意識することは難しい。幸せは,自分の努力だけでなく,家族や学校,地域を含む社会全体の助けによってもたらされているのである。福祉とは,そのような幸せが全ての人々にもたらされるようにする取組である。 本校では,盲導犬育成のための募金活動に20年以上取り組んでいる。毎月11日を「ワンワンデー」として,学年ごとの持ち回りで募金を行っている。2月には1年のまとめとして,盲導犬ユーザーや盲導犬協会の職員を招き,募金の寄贈式を行っている。 そこで,この取組を生かして,福祉について深く理解し,実践する力を育てたいと考えた。児童には,自分を社会の一員として捉え,健常者も障害者も共生できる社会をつくるために,主体的に活動する意識をもたせたい。 そのために,本単元では,障害や障害者の生活について調べたり体験したりする活動に加えて,障害者やその関係者との交流を学習活動の中心とする。交流を通して多くの人たちの思いや願いに触れ,よりよい社会にするために自分たちに何ができるかを考え,主体的に行動する実践力を育てたい。 |
時 期 |
学 習 内 容 |
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10月 |
総合的な学習の時間において,福祉についての学習を始める |
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11月 |
福祉についての学習を進める 交流する視覚障害者及び退職した本校の元教員との打ち合わせをする |
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12月 |
上記の2名を本校に講師として招き,直接会って交流する インターネットビデオ通話を用いて,交流を続ける |
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1月 |
紹介を受け,他の障害者たちとも交流する 学習したことをまとめ,発表する |
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・3年生児童89名 |
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(1)直接交流を通した学習 インターネット交流を通した学習をする前に,視覚障害をもつ盲導犬ユーザーと,本校の盲導犬募金活動の創設者である退職した元教員を講師として教室に招き,直接会って学習を進めた。インターネット交流がいかに便利とは言え,実際に会った方がより深い学習が期待できる。今回の場合,視覚障害者と元教員が旧知の仲であることから,直接会って交流することができた。<写真1>
授業は,2名の講師の話を聞いたり,クイズに答えたり,アイマスクを用いた視覚障害体験をしたりしながら進めていった。児童は事前に調べ学習に取り組んでいた。しかし,視覚障害者が話す実際の経験談や,長年福祉教育に情熱を注いだ元教員の含蓄のある話は,調べ学習だけでは得られない大きな刺激を児童に与えた。授業の間,児童は感嘆の声を何度も上げた。授業後に書いた児童の感想には次のようなことが書かれていた。 「私たちは車道は危ないから歩道を歩くようにしているけど,視覚障害者は歩道でも怖いことがあるなんて,想像したら私も怖くなりました。何とかしなくちゃと思いました。」 「○○さんは目が見えないのに料理ができるなんてすごいなと思いました。工夫が大事なんだと思いました。いろいろな工夫を僕もしたいです。」 「町をもっとよくできることが分かりました。みんなが安心できるように,私もがんばりたいです。」 この交流によって,児童は福祉を自分に関わる課題として捉えるようになった。福祉は,どこかの誰かが,困っている誰かのためにしてあげることではなく,自分を含む「みんな(社会全体)」が「みんな(社会全体)」のためにすることだと考えるようになった。
2名の講師からはまだまだ学びたいことがあったが,何度も学校に来てもらうことはできない。そこで,インターネットビデオ通話を利用し,交流を通した学習を続けた。<写真2>
直接交流の後に,児童は学んだことをじっくり振り返って考えたことで,新たな感想や疑問,提案などが生まれた。それらを2名の講師に伝えた。<写真3>
2名の講師は相手が小学生とは思えない真摯な態度で話を聞き,ときには児童の質問をメモに取って返事を考えてくださった。児童はもともと真剣な気持ちで交流に臨んでいたが,そのような講師の態度に触発されて更に意欲を高め,次から次へと挙手をして講師に質問をした。その児童はもとより,周りの児童も講師の言葉を一言も漏らすまいと必死にメモを取りながら話を聞いた。
後日,講師の知人を紹介していただき,更に交流を重ねながら学習を続けた。<写真5>
交流した講師には,それぞれの事情がある。ある方は生まれつきで目が見えなく,またある方は定年退職後に目が見えなくなった。それぞれの思いや願いをもつ複数の方と交流することにより,児童は多くの発見をし,そのたびに思いを新たにした。 |
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・僕は,目の見えない人や困っている人はいないかな,と思って探したことが何度もあります。見つけたら声をかけてみたいです。でも,もしかしたら僕は勇気が出なくて声をかけられないかもしれません。そんなときは独り言のふりをして信号や横断歩道のことを教えてあげたいです。これからもっと強くなって人の役に立ちたいと思います。 ・僕がボランティアをしてみて分かったことは,自分が簡単だと思っていることでも,相手がうれしければ僕は役に立っているということです。だからこれからは難しいこともやるけど,それが無理だったら簡単なことでもとにかくたくさんやろうと思いました。 ・私はこの前,電車の中でおばあさんに席を譲ってあげました。ドキドキして,声をかけるまでに何時間もかかったような気がします。譲った後のおばあさんの笑顔が忘れられません。私もすごくうれしかったです。最近,自分はだんだん人に優しくなってきたと思います。『ふだんの く
らしの しあわせ』をみんなで大切にしていきたいです。 |
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<実践の成果> 視覚障害者と交流することは,一般的に考えて難しい。来てもらうにしても,会いに行くにしても,互いの時間や移動手段が問題となる。何度も会う,何人とも会うとなれば,大きな負担を強いられるだろう。しかし,インターネットビデオを活用することにより,複数人との複数回の交流を実現できた。 「会いたいのに会えない。」 インターネットとは,そんな両者を結び付けてくれるものと言えるだろう。 今回の実践による多くの交流によって,児童は調べ学習だけでは得られない多くのことに気付き,それらのことについて深く考えた。学習後の児童の感想や,実際にボランティア活動に取り組む様子などから,福祉を他人事と考える児童は一人もいないであろうと確信している。 これからも,時間や距離の制約を乗り越える学習活動を目指し,インターネットの活用を追究したい。
言うまでもないが,直接会って交流することに比べれば,インターネット交流は心理的にも距離感がある。また,人によってはカメラを向けられると緊張してしまうこともあるため,インターネット交流では少しぎこちない交流になってしまった。それは,何度も交流することによって改善できることであるが,今回の実践では約90名の3年生児童全員が集まっての交流であった。一人一人が顔と顔を合わせて会話をする機会が限られたため,最後までぎこちなさが残ってしまった。今後は,適切な人数での交流を行って互いの距離感を縮め,より温かい心と心の交流ができるようにしたい。 |