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授業実践事例

思い出コンテンツ作成による問題解決能力の育成

~知識や技能を実践的に活用する課題を通じて~

1 はじめに

 本校では,普通科にコンピュータや情報技術について学ぶ情報活用コースを設置している。 これまでは,生徒に自己紹介カードやアニメーションなどの自己に関する作品を制作させることにより,ワープロや表計算,プレゼンテーション,画像処理などのアプリケーションソフトウェアの基本的な知識や技能を身に付けさせ,学習意欲を高めてきた。しかし,これらの知識や技能は断片的であり,統合して問題を解決する力は身に付いていなかった。また,他者とのコミュニケーションを苦手とする生徒も多く,協同して何かに取り組む経験も少なかった。
 社会生活において必要となる問題解決能力を育成するためには,思考力,判断力,表現力を育成する発展的な学習活動が求められる。そこで,これまでに学んだ情報に関する知識や技能を相互に関連づけ,問題解決能力の育成につながる課題に取り組ませたいと考えた。 

2 単元の目標

 これまでに習得してきたさまざまな情報に関する知識や技能を活用できる実践的な課題に取り組み,社会生活で必要となる問題解決能力やコミュニケーション能力を高める。

3 指導内容

 (1) 対象と期間
 情報活用コース3年生30人を対象に,「情報実習」(2単位)で9月から12月にかけて17時間の実践を行った。
 (2) 課題設定
 本校近隣の老人介護施設の利用者やその家族のための「思い出コンテンツ」を制作する。生徒3~4人でグループを編成し,各グループが一人の利用者を担当する。

図1 指導の流れ

 (3) コンテンツ制作
 コンテンツはプレゼンテーションソフトウェアで作成させる。施設利用者から喜ばれるコンテンツ制作を目標として,ユーザビリティに配慮した作品制作を重視した。制作するにあたっての条件として,表計算ソフトウェアや画像処理ソフトウェアなど,これまでに学習したアプリケーションソフトウェアを活用し,画像や音声もコンテンツに含めるよう指示した。また,これまでに学んだ情報モラルに関する知識を活用し,個人情報の保護や,著作権を侵害しないよう十分配慮して,音声や画像などを利用するように指導した。
 (4) 施設への訪問について
 施設には作品の発表を含めて4回訪問した。生徒が担当した利用者の年齢は70代~90代で,平均84歳であった。訪問時には各グループでインタビュアー,記録,写真・録音と役割分担を決めた。グループ全員でお互いに助け合いながら役割を果たすように指示した。
 (5) 評価
<関心・意欲・態度>
  ・グループの中で自己の役割を果たし,積極的に活動することができた。
<思考・判断・表現>
 ・コンテンツを制作するときにユーザビリティを十分考慮することができた。
  ・訪問や制作の過程で問題点を適切に見つけ出し,その解決策をグループで考えることができた。
<技能>
 ・これまでに学んだ技能をコンテンツ制作で適切に選択し,活用することができた。
<知識・理解>
 ・コンテンツ制作で注意すべきユーザビリティや著作権,個人情報について理解できた。

4 指導の流れ

▽1時限目

学習内容・学習活動 指導上の留意点
導入
(10分)
単元の目標と流れの理解
・この単元の目標と流れを聞き,学習活動の趣旨を理解する。

・校外の人と接するため,学校の代表としての意識をもって行動するように指導する。
展開①
(20分)
情報コンテンツ開発の概要
・実際の社会において,情報コンテンツができるまでの流れと,ユーザビリティの重要性を理解する。

・実際の社会において情報コンテンツができるまでを理解させる。特に現実の社会ではユーザの視点で考えて物が作られていることを,具体例を示して強調する。
展開②
(15分)
ユーザビリティについての検討
・高齢者を対象とした作品を制作する場合に,どのようなユーザビリティが必要かをグループで話し合う。


・各グループの意見を発表する。

・他のグループの意見を参考にして再度話し合う。

・話し合うテーマを与え,まずは,生徒一人一人に自分の意見を付箋紙に書かせ,次にグループで紙に貼りながら議論を進めるように指示する。
・発表内容に対して,必要に応じて補足説明する。
まとめ
(5分)
まとめ
・事前アンケートに回答する。
・授業日誌を書く。

▽2時限目

学習内容・学習活動 指導上の留意点
導入
(5分)
・本時の学習内容を知る。
展開①
(30分)
情報モラルの復習
・個人情報や肖像権,著作権について復習する。

・作品制作にあたって,個人情報や著作物を取り扱うことを確認させ,取り扱いに配慮が必要なことに気付かせる。
展開②
(10分)
訪問時の役割分担の検討
・各グループで施設訪問時の役割を決める。
    

・高齢者から話を聞くにはどのような配慮が必要か,各係の業務とともに説明する。グループのメンバーの適性を考えて役割を決めるように促す。
まとめ
(5分)
まとめ
・授業日誌を書く。     

・活動内容と感想を書かせる。

▽3時限目

学習内容・学習活動 指導上の留意点
導入
(5分)
・本時の学習内容を知る。
展開①
(40分)
訪問1回目に向けた準備
・訪問1回目で利用者と話す内容や質問を考える。

・担当する利用者のコンテンツを考えるため,利用者が生まれ育った時代背景も調べさせる。
まとめ
(5分)
まとめ
・授業日誌を書く。     

・活動内容と感想を書かせる。

▽4時限目

学習内容・学習活動 指導上の留意点
導入
(5分)
・本時の学習内容を知る。
展開①
(40分)
施設の訪問
・自己紹介をする。
・今回の取組を説明する。
・コンテンツ作成に向けて,担当する利用者と話し,情報を集める。



・利用者とコミュニケーションがとれていないグループに対して,適宜支援する。
まとめ
(5分)
まとめ
・授業日誌を書く。     

・活動内容と感想を書かせる。

▽5~7時限目

学習内容・学習活動 指導上の留意点
導入
(5分)
・本時の学習内容を知る。
展開①
(40分)
コンテンツ制作と訪問2回目の準備
・コンテンツの構成や内容をグループで話し合う。
・現時点での問題点やその解決策を話し合う。

・コンテンツの構成や内容を考えさせるとともに,次の訪問時の利用者への質問を考えさせる。
・ユーザビリティを考慮して,スライド,動画,画像など,情報機器をいかに効果的に活用するべきかを考えさせる。
・前の訪問時の問題点を挙げさせ,どうしたら改善できるかを話し合わせる。
・作業や話し合いが進まないグループは,適宜支援する。
まとめ
(5分)
まとめ
・授業日誌を書く。     

・活動内容と感想を書かせる。

▽8時限目

学習内容・学習活動 指導上の留意点
導入
(5分)
・本時の学習内容を知る。
展開①
(40分)
施設への訪問
・利用者に質問し,コンテンツ制作に向けた情報を集める。


・必要に応じて,写真撮影を行う。

・利用者と適切にコミュニケーションがとれていないグループに対して,適宜支援する。
・肖像権に配慮することを伝えさせる。      
まとめ
(5分)
まとめ
・授業日誌を書く。     

・活動内容と感想を書かせる。

▽9~12時限目

学習内容・学習活動 指導上の留意点
導入
(5分)
・本時の学習内容を知る。
展開①
(40分)
コンテンツ制作と訪問3回目の準備
・構成や内容を考え,コンテンツを制作する。
・現時点での問題点を洗い出し,解決策を話し合う。

・ユーザビリティを考慮して,スライド,動画,画像など,情報機器をいかに効果的に活用するべきかを考えさせる。
・コンテンツの構成や内容を考えさせるとともに,次の訪問時に聞く質問を考えさせる。
・より喜んでもらうように,利用者の視点で考えて作品を制作するように助言する。
・毎時間,各グループのコンテンツの制作状況を確認し,アドバイスする。
まとめ
(5分)
まとめ
・授業日誌を書く。     

・活動内容と感想を書かせる。

▽13時限目

学習内容・学習活動 指導上の留意点
導入
(5分)
・本時の学習内容を知る。
展開①
(40分)
施設への訪問
・コンテンツ制作に必要な情報を聞く。

・利用者と適切にコミュニケーションがとれていないグループに対して,適宜支援する。
まとめ
(5分)
まとめ
・授業日誌を書く。     

・活動内容と感想を書かせる。

▽14~15時限目

学習内容・学習活動 指導上の留意点
導入
(5分)
・本時の学習内容を知る。
展開①
(40分)
コンテンツの制作
・コンテンツ制作を行う。

・毎時間,各グループのコンテンツ制作状況を確認し,アドバイスする。
まとめ
(5分)
まとめ
・授業日誌を書く。     

・活動内容と感想を書かせる。

▽16時限目

学習内容・学習活動 指導上の留意点
導入
(5分)
・本時の学習内容を知る。
展開①
(40分)
クラス内で作品発表と相互評価
・グループごとに作成したコンテンツの発表をする。

・他のグループの作品を評価する。
   

・ユーザビリティ,ページ構成などで工夫した点とその理由も発表させる
・相互評価の高い作品を制作したグループは,施設の方々の前で発表させることを伝える。
まとめ
(5分)
まとめ
・授業日誌を書く。     

・活動内容と感想を書かせる。

▽17時限目

学習内容・学習活動 指導上の留意点
導入
(5分)
・本時の学習内容を知る。
展開①
(40分)
施設へ訪問し作品発表
・代表グループが全体の前で発表する。
・各グループが,担当した利用者にコンテンツを発表する。
・コンテンツを印刷したものを利用者に渡す。      

・施設の利用者に分かりやすい話し方(声量・速度など)を心がけるように指導する。      
まとめ
(5分)
まとめ
・授業日誌を書く。
・この単元の学習活動についてのアンケートに回答する。

・活動内容と感想を書かせる。

5 実践結果の考察

 (1) 課題設定について
 最初に,課題の概要を生徒に説明したとき,校外に出向き,高齢者から話を聞いて思い出コンテンツを制作することに対して,「高齢者の話を聞くのは大変」「対外的な活動は緊張する」などと不安を訴える生徒が多くいた。また,今回生徒たちが担当した利用者が高齢者だったこともあり,訪問時の聞き取りが予想以上に困難だった。しかし,利用者と接して,コミュニケーションを繰り返し,相手の立場に立って作品を考えることで,やりがいを見いだし,意欲的に取り組む生徒が徐々に増えた。そして,作品を発表した際に利用者に感謝されたことで,「作品制作は苦労したけれど,とても喜んでもらえたのでやってよかったと思った」というように,多くの生徒が今回の課題に満足していると事後アンケートで回答した。このことから,学校外の人と交流してグループでコンテンツを制作するという課題を設定したことにより,学校の代表としての責任感をもたせることができ,単なる自己のための作品制作ではなく,他の人のために行動することの大切さと,感謝されることの喜びに気付かせることができた。

 (2) 問題解決能力とコミュニケーション能力の向上について
 今回の思い出コンテンツの制作は高齢者を対象としており,ユーザビリティを高めて利用者に満足してもらえるコンテンツを制作することを目標とした。PDCAサイクルを活用し試行錯誤するとともに,グループ同士で検証し合った。その結果,どのグループもコンテンツを印刷して渡したり,文字の大きさを大きくしたり,グラフや表を挿入して見やすくしたり,画像が見やすくなるように編集したりして,作品のユーザビリティを高める工夫をする経験を通して,問題解決能力が高まったと考えられる。
 また,付箋紙に自分の意見や考えを書かせてから話し合いを進めさせることは,議論を活発にするのに有効であった。付箋紙を用いることで意見を出しやすくなったようである。事後のアンケートでも,「話し合いに積極的に参加できたか」の問いに対して約80%の生徒が積極的に話し合いに参加したと回答しており,付箋紙を使った話し合いの効果が高く,言語活動を充実させることができた。

6 おわりに

 問題解決能力を評価するためには,筆記試験による知識理解の評価だけではなく,多様な評価手法を用いることが必要である。今回は,授業日誌を書かせ,考えや意見の変容を評価しようとしたが,記入する時間を十分にとれず,課題が残った。授業日誌に具体的な記入項目を設定したり,自分の意見や他の人の意見などを書けるようなワークシートを作成したりすると,評価規準が明確になるとともに,ポートフォリオとして生徒が自分の学習活動を振り返り,修正しながら学習を進めることにつながると考えられる。知識や技術を実践的に活用する力や問題解決能力育成のための課題の設定,指導方法,評価方法について,これからも研究を続け,効果的に指導を行うことができるようにしたい。