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そこで,暗号方式の基本的な仕組みや,用途に合わせて暗号化が活用されていることを理解させることを目指し,シーザー・ローテーションとRSAについて,コンピュータを使わずにコンピュータの基本的な原理を学ぶ「アンプラグドメソッド」を用いた体験的な授業を行った。
・SSL等のハイブリット暗号方式を理解させる。
・ディジタル署名の目的と公開鍵,秘密鍵の役割を理解させる。
・生徒が納得して理解できるように,共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式について,表や簡単な計算で暗号化と復号を体験できるようにする。
・暗号化の仕組みを体験的に理解できるように,生徒自身に暗号化や復号を手作業で行わせる。 (1) 本時の目標
1) コンピュータウイルス対策
2) 情報の暗号化,ディジタル署名(本時 2時間)
3) 電子すかし,ファイアウォール,アクセス制御,フィルタリング,情報セキュリティポリシー
2) ワークシート(解答付き)(PDF形式)
3) 電卓
また,共通鍵暗号方式や公開鍵暗号方式の基本的な仕組みを理解させるだけでなく,両方の方式を活用したSSLの仕組みを考えさせることによって,暗号化の基本をより深く理解させることにつながった。各暗号方式のメリットやデメリットに着目させることで,それぞれの特徴を知り,SSLの仕組みに納得した生徒も多かった。
ただ,各暗号方式のメリットやデメリット,メリットを生かした組み合わせ方法の考察については,指導のねらいをうまく伝えることができなかったため,自分たちで正解を考え出すことができた生徒が少なかった。質問方法や説明方法を更に工夫することが必要である。
授業実践事例
共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式のしくみ
~体験的授業を通して理解を深める~
1 はじめに
情報化が進んだ現代では,暗号化は生活の多くの場面で利用されている。しかし,利用者がプログラムの中で行われている処理を意識することはほとんどない。そのため,共通鍵暗号方式や公開鍵暗号方式,ディジタル署名の理解に苦しむ生徒が少なくない。そこで,暗号方式の基本的な仕組みや,用途に合わせて暗号化が活用されていることを理解させることを目指し,シーザー・ローテーションとRSAについて,コンピュータを使わずにコンピュータの基本的な原理を学ぶ「アンプラグドメソッド」を用いた体験的な授業を行った。
2 単元及びの目標
(1) 科目名・単元名:社会と情報 第5章 法とセキュリティ第2節 情報セキュリティ
(2) 単元の目標
個人認証と暗号化などの技術的対策や情報セキュリティポリシーの策定など,情報セキュリティを高めるための基本を理解させる。(3) 単元の指導実施上の留意点
コンピュータにおける暗号化については,目に見えない処理が多く,処理をイメージするのが難しい。日常生活の中で利用している身近なサービスの仕組みを,実習や教材を通して理解できるように工夫する必要がある。3 本時の目標
(1) 本時の目標
・共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式の仕組みやメリット・デメリットを理解させる。・SSL等のハイブリット暗号方式を理解させる。
・ディジタル署名の目的と公開鍵,秘密鍵の役割を理解させる。
(2) 本時の指導実施上の留意点
・暗号化の詳しい仕組みを習得させることを目標とせず,一つの鍵(方法)で暗号化と復号をする共通鍵暗号方式と,暗号化と復号をそれぞれ別の鍵(方法)で行う公開鍵暗号方式の基本を理解させることを目的とする。・生徒が納得して理解できるように,共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式について,表や簡単な計算で暗号化と復号を体験できるようにする。
・暗号化の仕組みを体験的に理解できるように,生徒自身に暗号化や復号を手作業で行わせる。
4 指導内容及び教材
(1) 本時の目標
ア 指導内容
1) コンピュータウイルス対策2) 情報の暗号化,ディジタル署名(本時 2時間)
3) 電子すかし,ファイアウォール,アクセス制御,フィルタリング,情報セキュリティポリシー
イ 使用教材(配付資料等)
1) 教科書2) ワークシート(解答付き)(PDF形式)
3) 電卓
5 指導の流れ
▽1時限目(共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式のしくみ)
学習内容・学習活動 | 指導上の留意点 | |
---|---|---|
導入 (5分) |
<講義>学習内容の理解 ・情報漏洩の被害の現状を知り,情報セキュリティ対策の一つとして,暗号化について学習することを理解する。 |
・国家や企業へのサイバー攻撃による情報漏洩の事例や被害を紹介し,インターネットを利用するにあたってセキュリティ対策の重要性を伝える。 |
展開 (40分) |
<講義>暗号化,復号,鍵の学習 ・平文を暗号化し,暗号化したものを復号する一連の流れを理解する。 |
・鍵については,形あるものでなく,一定の規則であることを説明する。 |
<実習>共通鍵暗号方式の実践 ①示された暗号文を解読する方法を考える。 ②あいうえおの50音表を基にシーザー・ローテーションした暗号化を理解する。 ③シーザー・ローテーションの暗号文を作成し,他の生徒に解読させる。 |
・あいうえおのひらがな50音表を使い,上下左右どの方向に文字を移動させたかという規則(鍵)によって,暗号化と復号ができることを,体験を通して理解させる。 |
|
<実習>公開鍵暗号(RSA)の実習 ①0~14の数字を一つ選び,ワークシートに従って計算する。 1.数値の0~14(15種類)から好きなものを選択する。 2.選択した数値を3乗する。 3.2で出した数を15で割り,余りをもとめる。 ②計算した余りから自分が選んだ0~14の数字が何だったか,教員から当てられる。 ③公開鍵暗号の基本的な仕組みを理解する。 |
・方法によって,うまく暗号化されない数値があることに気付かせる。 例)0や1は何乗しても変化しない。 ・余りから数値を当てて,生徒の興味関心を高める。 ・自分で選んだ0~14の数字を暗号化する一定の規則(鍵)と,それを復号する一定の規則(鍵)が違っても解読できる公開鍵暗号方式の仕組みを説明する。 |
|
<実習>共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式のメリット・デメリットの考察 ①それぞれの暗号方式のメリットとデメリットについて,自分の考えをワークシートに記入する。 ②公開鍵暗号方式のメリットとデメリットの説明を聞き,公開鍵暗号方式の安全性を理解する。 ③それぞれの暗号方式のメリットとデメリットを,ワークシートの所定の欄に記入する。 |
・暗号化と復号がより簡単な方式や,暗号化と復号する鍵を分ける理由を考えさせる。 ・南京錠を生徒に渡し,その南京錠で袋の口を閉め(公開鍵),鍵の閉まった袋を届けさせ,暗号化は誰にでもできるが,復号は不可能なことを理解させる。復号は,南京錠(公開鍵)を渡した人しか持っていない鍵(秘密鍵)でしか開かないことから,共通鍵暗号方式より安全性が高いことを理解させる。 ・共通鍵暗号方式 【メリット】暗号化・復号の処理が早くできる。 【デメリット】暗号化・復号に使用する鍵を相手に伝えなければならず,その際,鍵を盗まれる可能性があり安全性に問題がある。 ・公開鍵暗号方式 【メリット】復号に使用する鍵を相手に伝える必要がなく,安全性が高い。 【デメリット】暗号化・復号の処理に時間がかかる。 |
|
まとめ (5分) |
<講義>暗号化の仕組みの確認 |
▽2時限目(SSLのしくみとディジタル署名)
学習内容・学習活動 | 指導上の留意点 | |
---|---|---|
導入 (5分) |
<講義>生活の中で使用している暗号化 ・インターネット上で,どんな重要な情報が送受信されているか考える。 |
・暗号化は特別なものではなく,生活の中で身近に使用しており,その方法は前時に学んだ各暗号方式であることを伝える。 |
展開 (40分) |
<実習>SSLの利用を確認 ・ウェブサイト「Google」のトップページを見て,URLを確認し,SSLという暗号化方式が利用されていることを確認する。 |
・httpsから始まるURLでは,SSLという二つの暗号方式を組み合わせた暗号化を使っていることを理解させる。 |
<協議>SSL(ハイブリット暗号方式)の考察 ①共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式を使ったハイブリッドな暗号方式の仕組みを考える。 ②4人ずつのグループ(10組)に分かれ,前時の公開鍵暗号方式の説明で使用した南京錠と袋をグループごとに受け取り,また,共通鍵暗号方式で使用した各自の持っているシーザー・ローテーション表を考察で利用する。 ③それぞれの暗号方式のよさを生かすには,どう組み合わせればいいかをグループで考え,ワークシートへ回答を記入する。 ④五つのグループが集まり,各グループで考えた方法を1分間ずつ発表する。 ⑤最も適切な組み合わせ方を,五つのグループで協議する。 ⑥最も適切で分かりやすい説明をした1グループを決め,代表2グループが全体で発表する。 ⑦発表し合った5組ごとで質疑応答などをし,理解が不足している部分を補充する。 |
・共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式,それぞれのメリット・デメリットを確認させる。 ・2分経過したところでアイデアを思いつかないグループがあれば,「データのやりとりは負担の少ない共通鍵で行う」「鍵も暗号化の対象である」というヒントを与える。 ・生徒の発表で,SSLの説明として不十分な部分があれば,補足して説明し,SSLの仕組みを理解させる。 |
|
<講義>SSLの確認 ・ワークシートにSSLについて学んだことを記入する。 |
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<講義>ディジタル署名の学習 ・ディジタル署名の目的と暗号化,復号に使用する鍵についての説明を聞く。 |
・公開鍵と秘密鍵を使用するが,ディジタル署名の目的が「受信者になりすましの情報ではないことを証明すること」であることを理解させる。 ・公開鍵の役割が復号,秘密鍵の役割が暗号化になることを理解させる。 |
|
まとめ (5分) |
<講義>暗号化についてのまとめ |
6 評価規準
(1) 評価規準
関心・意欲・態度 | 思考・判断・表現 | 技能 | 知識・理解 | |
---|---|---|---|---|
単元の 評価規準 |
・コンピュータウイルスやサイバー犯罪の被害に遭わないように対策を立てようとしている。 | ・情報セキュリティの脅威に対する対策を正しく判断し,対処することができる。 | ・ウイルス対策など,情報セキュリティを確保するための対策を取ることができる。 ・情報セキュリティの脅威に対して適切に対処する技術がある。 |
・情報セキュリティ技術の基本を理解している。 ・情報セキュリティポリシーの概要や意義について理解している。 |
学習活動に 即した 評価規準 |
① 暗号化の仕組みについて関心をもち,積極的に実習に取り組んでいる。 | ① 各暗号方式の特徴から判断して,用途に合わせて適切な選択ができる。 | なし | ① 暗号化の基本的な仕組みを理解している。 |
(2) 指導と評価の計画
時間 | 学習内容及び活動 (指導上の留意点) |
観点別評価内容 | 評価規準との関連 | 評価の方法 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
関心 ・ 意欲 ・ 態度 |
思考 ・ 判断 ・ 表現 |
技能 | 知識 ・ 理解 |
発表内容 | 提出物の内容 | 授業態度 | |||
1時間目 | ・各暗号方式の仕組み | ・暗号化の種類や基本的な仕組みを理解している。 | ① | ○ | |||||
2時間目 | ・ハイブリット暗号方式の仕組み | ・他の生徒と協働してSSLの仕組みを考え,説明しようとしている。 | ① | 〇 | |||||
・共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式を組み合わせたSSLの仕組みを考え,説明することができる。 | ① | ○ |
7 実践結果の考察
暗号方式の基本的な仕組みについて,講義形式の授業だけでなく,アンプラグドメソッドを活用した実習を行うことで,多くの生徒に理解させることができた。特に,シーザー・ローテーションの実習で生徒自身が暗号化の方法を考え,他の生徒になかなか解読されなかった体験は,暗号化の有効性を理解する助けになったと考えられる。また,共通鍵暗号方式や公開鍵暗号方式の基本的な仕組みを理解させるだけでなく,両方の方式を活用したSSLの仕組みを考えさせることによって,暗号化の基本をより深く理解させることにつながった。各暗号方式のメリットやデメリットに着目させることで,それぞれの特徴を知り,SSLの仕組みに納得した生徒も多かった。
ただ,各暗号方式のメリットやデメリット,メリットを生かした組み合わせ方法の考察については,指導のねらいをうまく伝えることができなかったため,自分たちで正解を考え出すことができた生徒が少なかった。質問方法や説明方法を更に工夫することが必要である。