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そこで,答えが一つではない問題に対して,自分の考えたことを論理的にまとめ表現する技法を学習させることが必要であると考えた。具体的には,アイデアの創出,分類分け,取捨選択,優先順位付け,要約等を紙に書かせる手法を取り入れた。これにより,自分がどのような手順で何を考えているかを把握させ,論理的な思考力の育成を目指した。
イ 具体的な問題解決の手法(本時 1時間)
エクセル1…1枚の紙に,アイデアの創出,分類分け,取捨選択,優先順位付けを各工程に分けて順番に
行って考えをまとめる技法である。これによって,候補を絞り込むことができる。
ロジック3…要約,具体化を各工程に分けて順番に行って論理的な伝達をする技法である。これを基にすると
発表の際のプレゼンテーション資料の作成が容易になる。
授業後のアンケートでは,「エクセル1で行うアイデアの創出,分析,整理を紙に書くことで,目的に対して何を選択したらよいか考えをまとめやすくなった」と答えた生徒が予想より多かった。考え方の内容や順序を示すことで,情報を効率的に整理したり,分析したりする力を身に付けさせることに効果があったと考えられる。また,「決められたルールに従って,思考する内容や順序,情報を絞り込む根拠を記入することで,論理的な発表ができると実感した」と答えた生徒も予想より多かった。候補を出し,そこから取捨選択するための条件を書かせることで,目的との整合性を考えるようになり,客観的で論理的な表現につながったと考えられる。
しかし,更に深い思考ができるようになるには,繰り返し取り組ませる必要がある。何度も思考することで,自分にとって有益であることを実感させる必要がある。今回の学習によって情報の授業以外の場面でもエクセル1やロジック3を使用できるようにさせたいと考えていたが,事後アンケートをとったところ,図1,図2のような「よく使う」「まあまあ使う」と答えた生徒が少ないという結果となった。使用する有効性よりも紙に何度も書いていく手間の方が注目され,別の場面でも使用したいと考える生徒が少なかった。しかし,その後「中学生に学校をどう紹介するか」という課題を与え,作品制作を行う際にエクセル1やロジック3を使用したところ,図3のように有効性を感じた生徒が増加した。生徒にとって身近な問題を段階的に難しくしながら,授業で何度も使用することで有効性を高めることができる。そのために,長期的で継続的な課題の設定を検討していきたい。
図1 図2
図3
授業実践事例
思考を「見える化」して情報を論理的に整理・分析する力の育成
~紙1枚にまとめる技術を通して~
1 はじめに
近年,社会の激しい変化が予想されるようになり,今後は未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力の育成が重要になると言われている。しかし,現在多くの生徒は妥当性のある根拠を基に,物事を順序立てて考えていくことを苦手としている。そこで,答えが一つではない問題に対して,自分の考えたことを論理的にまとめ表現する技法を学習させることが必要であると考えた。具体的には,アイデアの創出,分類分け,取捨選択,優先順位付け,要約等を紙に書かせる手法を取り入れた。これにより,自分がどのような手順で何を考えているかを把握させ,論理的な思考力の育成を目指した。
2 単元及び目標
(1) 科目名・単元名
社会と情報 情報社会と問題解決(問題の整理・分析)(2) 単元のとらえ方
問題解決の実践を通して,論理的に自分の考えを表現できるよう学習を進める。また,主体的に取り組めるように,生徒にとって身近な問題を取り上げる。(3) 単元の目標
目的を達成するために情報を効率的な順序で整理,分析し,論理的に表現することができる。(4) 単元の指導実施上の留意点
思考の方法や順序を身に付けさせることを優先する。いつ何を思考するかによって,根拠を基に順序立てた考え方ができることを実感させる。実習の際には,細分化した工程のそれぞれの意味を理解させ,いつ何を思考しているかを意識させる。3 指導内容及び教材
(1) 指導内容
ア 問題解決の手順,手法イ 具体的な問題解決の手法(本時 1時間)
エクセル1…1枚の紙に,アイデアの創出,分類分け,取捨選択,優先順位付けを各工程に分けて順番に
行って考えをまとめる技法である。これによって,候補を絞り込むことができる。
ロジック3…要約,具体化を各工程に分けて順番に行って論理的な伝達をする技法である。これを基にすると
発表の際のプレゼンテーション資料の作成が容易になる。
(2) 使用教材(配付資料等)
ア プリント4 指導の流れ
▽1時限目(エクセル1,ロジック3の学習)
学習内容・学習活動 | 指導上の留意点 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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導入 (5分) |
・情報の処理手順 何かを決定する際に頭の中では,情報の収集,整理・分析が行われていることを理解する。 |
頭の中では一つの答えが突然出てくるのではなく,幾つもの候補を挙げ,その中から何が最適か分類分け・取捨選択・優先順位の決定・要約が行われていることを伝える。 |
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展開1 (17分) |
○エクセル1の作成 作成する上での注意点を聞く。 ・①「準備」 緑ペンで横向きA5サイズの用紙に均一な8マスの格子を記入する。 ・②「目的」の記入 緑ペンで左上のマスに『友達に最適なプレゼントを選ぶ』と記入する。
・③「候補」 目的から連想するキーワードを青ペンを使って,1分間で空白のマスに記入する。
・④「分析」 記入した候補を一つに絞る。その際は,候補から外す理由を候補の下に赤ペンで記入する。
・候補を消去する理由を他の生徒と比較する。 |
作成上のルールを守らせることを重視する。 手順とその意味を理解しながら取り組むことが大切であることを伝える。 工程ごとにペンの色を替え,意味が違うことを理解させる。 手で書くことで(頭の中の)考えを視覚情報として捉える意図があることを伝える。 どんな場面でも瞬時に使えるように定規等を使用させない。 内容によって候補がたくさん挙がる場合は,A4サイズの大きさにして,16マス,32マスと増やして記入してもよいことを伝える。 自分で課題を設定する際は,「何をしたくて考えをまとめるのか」という目的を最初にはっきりさせることを伝える。 思いつくままにキーワードを記入させる。 全てのマスを埋めることができるよう「プレゼント」というキーワードだけを意識させ,適切な回答かどうかは考えないように伝える。 制限時間に達したら空白のマスがあっても終了させ,時間を決めて効率的にアイデアを創出することを理解させる。 この段階で自分の頭の中にある目的を達成するための候補が紙に書かれたことを伝える。 16マスで2分,32マスで5分程度の時間設定が適切であることを伝える。 候補から外す理由は,誰もが納得できる客観的なものにすることを意識させる。 ③「候補」の工程とは異なり,じっくり考察することが大切であることを意識させる。 候補から外す理由は,同じ理由でもよいことを伝える。ただし,深く考えさせるために多用は避けさせる。 この段階で自分の頭の中にある目的を達成するための候補がどのような理由で絞られたか,明確にできることを伝える。 他者の作品を閲覧し,次のエクセル1の作成時の参考にさせる。 |
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展開2 (8分) |
・⑤「派生」 新たにエクセル1の8枠を作成し,左上のマス(目的)に①~④で一つに絞った候補○○を使い,「○○の魅力を紹介する」と記入する。
・⑥「分析」の応用(候補の絞り込み) ③,④の工程を行う。その際,候補を三つに絞る。
・⑦「分析」の応用(優先順位付け) 絞った候補三つに優先順位を付け,その理由を記入する。
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絞り込んだ情報を更に派生させ,情報を広げていくことを理解させる。 絞り込む情報は必ずしも一つではな く,目的に合わせて複数でもよいことを伝える。 絞った候補から順位付けするときには,誰もが納得できる客観的な理由になるように意識させる。 |
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展開3 (15分) |
○ロジック3の作成 ・①「準備」 緑ペンで指定した枠を記入する。 ・②「目的」 左上のマス(目的)にこれから説明する「○○が友達に最適なプレゼントである理由」と記入する。目的を記入した隣のマスに「1P」と記入する。
・③「要約」 二つ目のエクセル1で絞った三つの候補を基に,紹介する内容を20文字以内の文章にまとめ,赤ペンで1Pの下のマスに記入する。
・④「派生」 緑ペンでQ1~Q3の枠に二つ目のエクセル1で絞った三つの候補を優先順に記入する。次に青ペンで各Qの周りの枠三つ に,記入した候補に対して,隣の席の人へ説明するためのキーワードを記入する。
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ロジック3は,隣の人に自分の考えた工程を整理して論理的に発表するツールであることを伝える。 エクセル1と同様にどんな場面でも瞬時に使えるように定規等を使用させない。 上から2行目の左から2番目の縦線は書かないことを注意する。 1Pは1phraseの略語で,「ひと言」という意味であることを伝える。 1Pの表記については,下のマスにその内容を記入することを指示しているだけであることを言及する。 絞った候補を三つとも使うのではな く,その優先順位を踏まえて要約させ る。 最も相手に伝えたいことは何かを考えさせる。 分かりやすく伝達するために「伝えたい理由(Why)」「何ができるか(What)」「どのように生かせるか,期待できるか(How)」が基本となることを伝え,各Qの周りの三つに記入させる。 Why,What,Howでキーワードが出ない生徒には,エクセル1のように連想するキーワードを記入するよう指示し,マスを埋めることを優先させる。 なお、参考文献では「Q1What?」「Q2Why?」「Q3How?」のように書く形となっているが、本実践ではQ1からQ3の周りに記載するキーワードをWhat,Why,Howの形で書かせる。 |
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まとめ (5分) |
〇ロジック3の作成「発表」 ・隣の座席の生徒に,作成した「ロジック3」を基に1分間スピーチする。 〇まとめ ・「エクセル1」「ロジック3」を今後,有効活用するための説明を聞く。 |
用紙に記入してある文章,キーワードを指さしながらスピーチをさせる。 聞く側は,伝えたいことが明確で,内容,順序が分かりやすいかという点を意識して聞くように促す。 さまざまな場面で活用し,反復して回数を重ねることで,難しい問題に対する思考力が高まっていくことを伝える。 |
5 評価
(1) 単元の評価規準
関心・意欲・態度 | 思考・判断・表現 | 技能 | 知識・理解 | |
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単元の 評価規準 |
・率先して問題解決に取り組もうとしている。 ・情報の整理,分析をするための各種方法を積極的に習得しようとしている。 |
・問題を明確化して解決への手順を示すことができる。 ・目標に近づくための適切な意思決定ができる。 |
・問題解決のための手段を選択できる。 ・検索エンジンやアンケートを利用して必要な情報を収集できる。 |
・問題解決の手順と解決するための工夫を理解している。 ・問題解決のための情報収集やアイデア収集・分類の手法を理解している。 |
学習活動に 即した 評価規準 |
・「エクセル1」「ロジック3」の作成に意欲的に取り組もうとしてい る。 |
・候補の絞り込みや優先順位付けする理由を客観的で論理的に表現することができる。 | ・「エクセル1」の作成手順を理解し,扱うことができる。 ・「ロジック3」の作成手順を理解し,扱うことができる。 |
・なし |
(2) 指導と評価の計画
時間 | 学習内容及び活動 (指導上の留意点) |
観点別評価内容 | 評価の観点関連 | 評価の方法 | |||||
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関心 ・ 意欲 ・ 態度 |
思考 ・ 判断 ・ 表現 |
技能 | 知識 ・ 理解 |
発表内容 | 提出物の内容 | 授業態度 | |||
1時限目 | エクセル1,ロジック3の学習 | ||||||||
・授業全体 | ・「エクセル1」「ロジック3」の作成に意欲的に取り組もうとしている。 | ○ | ○ | ||||||
・「エクセル1」の作成 | ・「エクセル1」の作成手順を理解し,扱うことができる。 | ○ | ○ | ||||||
・候補の絞り込みや優先順位付けする理由が客観的で論理的に表現できる。 | ○ | ○ | |||||||
・「ロジック3」の作成 | ・「ロジック3」の作成手順を理解し,扱うことができる。 | ○ | ○ |
6 実践結果の考察
生徒はエクセル1,ロジック3の作成に苦労しながらも「友人への最適なプレゼントを選ぶ」という身近なテーマにしたことで意欲的に取り組んだ。生徒から「最初はみんな同じテーマでやっているのに後半になるにつれて人によって段々と違う内容になっていくのがおもしろかった」という声があった。また,記入された用紙が徐々に個々の考え方によって変化していく過程で「頭の中でやっていることを紙の上に表すと複雑でたくさんのことを瞬時にやっていることに気付いた」「自分が何を伝えたいか分かりやすかった」という声もあった。どのような工程で何を考え,自分が何を伝えたいのかということが明確になっていくことに楽しさを感じているように見えた。授業後のアンケートでは,「エクセル1で行うアイデアの創出,分析,整理を紙に書くことで,目的に対して何を選択したらよいか考えをまとめやすくなった」と答えた生徒が予想より多かった。考え方の内容や順序を示すことで,情報を効率的に整理したり,分析したりする力を身に付けさせることに効果があったと考えられる。また,「決められたルールに従って,思考する内容や順序,情報を絞り込む根拠を記入することで,論理的な発表ができると実感した」と答えた生徒も予想より多かった。候補を出し,そこから取捨選択するための条件を書かせることで,目的との整合性を考えるようになり,客観的で論理的な表現につながったと考えられる。
しかし,更に深い思考ができるようになるには,繰り返し取り組ませる必要がある。何度も思考することで,自分にとって有益であることを実感させる必要がある。今回の学習によって情報の授業以外の場面でもエクセル1やロジック3を使用できるようにさせたいと考えていたが,事後アンケートをとったところ,図1,図2のような「よく使う」「まあまあ使う」と答えた生徒が少ないという結果となった。使用する有効性よりも紙に何度も書いていく手間の方が注目され,別の場面でも使用したいと考える生徒が少なかった。しかし,その後「中学生に学校をどう紹介するか」という課題を与え,作品制作を行う際にエクセル1やロジック3を使用したところ,図3のように有効性を感じた生徒が増加した。生徒にとって身近な問題を段階的に難しくしながら,授業で何度も使用することで有効性を高めることができる。そのために,長期的で継続的な課題の設定を検討していきたい。
図1 図2
図3