トップへ 地図へ 作品へ 人物へ リンクへ


本多兄弟文庫(豊田市中央図書館内)

本多兄弟文庫

施設概要

 本多兄弟文庫は、豊田市出身の実業家で文化人の本多静雄氏と、その弟で文芸評論家の本多秋五氏より寄贈された資料を収蔵・展示した文庫で、平成10年(1998)に開設されたものである。
 兄の静雄氏は実業界で活躍し、陶磁器や民芸品の収集・研究家としても知られている。弟の秋五氏は、戦後日本を代表する文芸評論家の一人で、ロシア文学、戦後文学の研究で有名である。
 秋五氏のコレクションは図書、雑誌、印刷物(新聞切り抜き、切り刷り、会報など)、自筆原稿、書簡など合わせて約68,800点に及び、個人の文学者のコレクションとしては日本でも有数の規模のものであり、文学館にも匹敵するほどの大きな規模である。

 本多秋五(ほんだしゅうご)

 明治41年(190822日~平成13年(2001)1月13日。愛知県立第五中学(現 瑞陵高校)卒業。第八高等学校入学。八高では平野謙、藤枝静男と知り合う。東京帝国大学文学部国文学科を卒業。戦前は、プロレタリア科学研究所、逓信省等に勤務する一方、森外論、転向文学論、トルストイの『戦争と平和』論などの文学研究を続けた。
 昭和21年(1946)、平野謙、埴谷雄高、荒正人、佐々木基一、小田切秀雄、山室静と雑誌「近代文学」を創刊した。戦後最も早く活動を始めたグループである。本多による創刊号巻頭論文「芸術 歴史 人間」は、雑誌「近代文学」の基本姿勢ともいうべきものである。戦後は小林秀雄研究、宮本百合子研究に取り組み、宮本が若いころに影響を受けた白樺派の研究に進む。昭和33年(1958)からは『物語戦後文学史』に仕事の力点が移された。同書は豊富で的確な資料を使い、独自の作家・作品論としてまとめられている。戦後文学の全体像、その批評的側面について整理するために読んでおきたい書である。
 また平成2年(1990)には『志賀直哉(上)(下)』(岩波新書)を著している。志賀直哉の「自我」の成り立ちを主軸として展開されている作家・作品論である。

本多秋五略歴
展示図書

国語科授業の施設利用例

 本多兄弟文庫は豊田市中央図書館3階に設置されていて、自由に訪れることができる。職員の方に説明を聞くことは可能だが、文庫の隣は開架書棚、閲覧スペースであり、大きな声で話すことはできない。
 同文庫は静雄、秋五両氏の経歴を紹介するコーナーと蔵書紹介のコーナーとに分かれている。一般には知られていない写真もパネルで展示されていて、それぞれの交友関係がよく理解できる。展示図書には多くの作家からの署名入り寄贈図書が紹介されている。三島由紀夫、志賀直哉、小川国夫、開高健、その他にも戦後文学を彩った作家の寄贈を受けている。作家や評論家がだれと交友を持ち、それぞれがどのような仕事をしたかを知ることができるため、戦後日本文学の一断面を証言する貴重な資料と言える。展示された資料以外にも貴重本は多いが、書庫に収められている。

本多秋五コーナー 蔵書紹介

 同文庫は図書館内の施設ということもあり、資料収集、調査には最適の環境と言える。学習者にとっては情報探索の実践の場として活動を行うことができる。例えば沖縄や広島の修学旅行に関連させて「戦争・戦後」というテーマのもとに、「戦後文学について調べよう」という単元を設定し、パネル資料や図書資料で調査する、司書の方にインタビューする、AVコーナーで文学作品を映像化したものを調べる、などの活動が考えられる。収集した情報は総合的な学習などでのプレゼンテーションへとつなげたい。
 本多秋五にとって戦後文学とは正面からぶつかり、向き合ってきた存在であった。同様に我々にとっても戦後文学は重要なテーマと言えないだろうか。昭和20年の終戦以後も、世界各国で引き起こされてきた戦争を思えば、広い意味で我々も「戦後」はたびたび経験してきたものと言える。本多秋五を切り口として「『戦争』後の文学」について考えるのも面白い。

【参考】本多兄弟文庫ホームページ