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簡易無菌培養法
※学習指導案
1 実験目的 
 バイオテクノロジー(生物工学)とは,Biology(生物学)とTechnology(工学,技術)の合成語である。「生物そのもの又は生物のもつ機能を巧みに利用する技術」がバイオテクノロジーであり,人間の生活に役立てるための努力がなされている。  
 従来から行われてきた栽培や育種,発酵も広い意味でのバイオテクノロジーであるが,現在では植物組織培養(植物の細胞や組織を容器内で培養する技術)や細胞融合(異なった細胞同士を融合させ培養する技術),遺伝子組換え(目的の遺伝子を対象とする細胞に導入する技術),バイオリアクター(微生物のもっている機能を利用して物質を変換する技術)などの新しい技術を,特にバイオテクノロジーと呼ぶことが多い。
 本実験は,バイオテクノロジーの中でも植物組織培養の基本的技術を体験する実験である。操作は普通の実験室(非無菌条件)で行い,オートクレーブ(写真1)やクリーンベンチ(写真2)のような特殊な装置は用いない。培地の滅菌には次亜塩素酸ナトリウム溶液(アンチホルミン)を添加して行い,播種後の種子及び培地の滅菌は,次亜塩素酸ナトリウム溶液(アンチホルミン)有効塩素濃度0.05%溶液をハンドスプレーで培地面に散布し,培養容器を密閉する方法で行う。その後,発芽した種子の観察,培養,鉢上げまで行い,実際にシランの苗の栽培までを実験する。これによって,植物組織培養の基本的操作技術の概要について理解させることができる。
 (この組織培養技術は,京都教育大学 梁川 正 教授の研究を利用したものである)
【参考文献】
 嶋谷円・梁川正( 2009) 「 塩素殺菌剤を用いた草花の簡便な無菌的播種育苗」 『日本農業教育学会誌40(2)』 pp.115-120

写真1 オートクレーブ 写真2 クリーンベンチ


2 実験方法
  (1)  実験準備
    ア 培地の作製
      (ア)   使用薬品:粉状園芸用配合肥料,グラニュー糖,寒天,次亜塩素酸ナトリウム溶液
      (イ)   使用器具:上皿天秤てんびん,薬包紙,薬さじ,1000mlビーカ,ガラス棒,ガスバーナ,1000mlメスシリンダ,三脚,石綿付金網,培養容器,クッキングフィルム,ビニールテープ
    イ 無菌播種
      (ア)   実験材料:シラン(写真3)の完熟種子

写真3 シラン

      (イ)   使用器具:作製した培地,薬さじ,メスシリンダ,次亜塩素酸ナトリウム溶液ハンドスプレー


    ウ シランの種子の観察
      使用器具:顕微鏡(×20以上),ピンセット,スライドガラス
    エ 鉢上げ
      使用器具:ミズゴケ,新聞紙,3号素焼き鉢,鉢のかけら

    * ラン科植物の種子の特徴
 ラン科植物の種子は,発芽に必要な栄養分をもたない。また,種子中の胚も未分化の状態で,一枚の種皮に包まれた状態で存在する。そのため,自然界ではリゾクトニア属のラン菌との共生によって発芽する。ラン科植物は,「さく」(写真4)と呼ばれる果実の中に,通常数百個から数十万個もの種子(写真5)を形成する。種子の大きさは長さ約0.5〜1.0o,幅は約0.2〜0.4oほどで非常に小さい。また,一般的な種子構造と異なり発芽に必要な栄養分を蓄えるための胚乳や子葉がないのも特徴である。
写真4 写真5

  (2)  実験の内容
    ア 培地の作製(培地を1000ml作製する場合)

      @   粉状園芸用配合肥料3g,グラニュー糖20g,寒天8gを上皿天秤てんびんで計量する。計量した粉状園芸用配合肥料3g,グラニュー糖20gを1000mlビーカ内に入れる。
      A   水を約500mlを入れ,ガラス棒でよく攪拌かくはんし溶解する。
      B   1000mlメスシリンダの中に,ビーカ内の粉状園芸用配合肥料,グラ ニュー糖を溶かした溶液を移し入れ,水を加えて1000mlにする。その後,ビーカ内に戻す。
      C   寒天8gを入れガラス棒で攪拌かくはんしながら,ガスバーナで沸騰するまで加熱する(写真6)。
                                             
写真6

      D   次亜塩素酸ナトリウム溶液を有効塩素濃度0.01%濃度になるように添加する。
      E   培養容器に等量ずつ培地を分注する(写真7)。
写真7

      F   クッキングフィルムを培養容器の口の3倍ぐらいの大きさ(ほぼ正方形)に切る。このクッキングフィルムを使用し,培養容器にフタをする。このとき隙間ができないように培養容器の表面に密着させる。クッキングフィルムの端をビニールテープで止め密閉する(写真8)。
写真8

    イ シランの簡易無菌播種(培地が冷め,固まってから行う)

      @   次亜塩素酸ナトリウム溶液で有効塩素濃度0.05%溶液を作製し,ハンドスプレーの中に入れる。次亜塩素酸ナトリウム溶液の希釈に用いる水は水道水でよい。
      A   培地のフタであるクッキングフィルムを破らないようにして取り,シランの種子を薬さじですくい取り培地上に播種する。その後,直ちに有効塩素濃度0.05%溶液をハンドスプレーで容器内に2回噴霧する(写真9)。 
  このとき,噴霧した溶液を利用して種子を培地全体に散らす。
写真9

      B   フタであるクッキングフィルムの端をビニールテープで巻き密閉する。
      C   操作後,培養容器を直射日光の当たらない明るい場所に置き培養する。

    ウ シランの種子の観察
         シランの種子は,水分と必要な養分があれば胚が分裂を始め肥大する。胚は種皮を破り外へ出るような状態になる。また,この時期に葉緑体も形成される。
  無菌培養では,1〜2週間程度で発芽する。この時期に種子の発芽状態を顕微鏡で観察する。
    エ 鉢上げ
      @   植え出し前日に,ミズゴケに十分水を与えて準備しておく。
      A   培養容器から苗をピンセットで1本ずつ丁寧に取り出し,培地をよく水洗いして落とす。
  ピンセットで根元をはさみ取り出す(下図)。

      B   苗を新聞紙の上で,大苗,中苗に選別する。(小苗は捨てる)
      C   苗を1本ずつ,根を広げるようにして根元にミズゴケをはさみ,根全体をミズゴケで巻く(下図参照)。
根元をミズゴケで
はさむ
根全体をミズゴケで
包むように巻く

      D   3号素焼き鉢の底に鉢のかけらを半分ぐらい入れ,そこに根をミズゴケで巻いた苗を大きさごとに3本ずつ寄せ植えする。
      E   鉢上げ後,適宜かん水等の管理を行う。
      F   ある程度の大きさになったら,花壇などに植えかえる。