1 はじめに 環境学習の一貫として,製材時の廃材を利用した炭焼きを進めている。生産した炭で,中学生との体験交流をしたり,自校内での調理に活用したりと,地産地消ならぬ自産自消を目標としている。 2 方法 (1)炭焼き方法の確立 一般的な炭焼きというのは,炭を焼くのに2〜3日もかかり,夜間の火の管理等,学校での取組としては不向きであった。そこで,火入れから火消しまでを1日で行うことができる炭焼き法の確立を目指し,4年前から取り組んだ。この半切りしたドラム缶を用いて短時間で炭を焼く方法が確立すれば,実習での取組が大変容易になる。当初は様々な失敗,試行錯誤を繰り返しながら,窯の温度と空気量を絞る窯口の操作タイミングを把握するための実験を繰り返した。 (2)炭焼き手順の標準化 炭焼きを普及させることにより,一般市民の森林環境への理解も深まり,環境への貢献につながると考え,炭焼きの手順の標準化に取り組んだ(図1)。何度も炭焼きを繰り返し,少しずつ炭焼きのタイミングをつかんでいった。数回にわたって行った炭焼き実験のデータを分析した結果,7〜8時間での製炭が可能となった。その結果を基に炭焼きの標準書を作成し,希望者に配布した。標準化に当たっては何回もデータを取り,温度上昇のばらつきの要因を分析するという作業を繰り返した。 (3)製炭時間の短縮化 続いて,炭焼き時間の短縮をねらった実験を行った。1日でできるとは言え手軽な炭焼きとしては,製炭時間の7〜8時間は,まだまだ長い。そこで,作業に掛かる負担を軽く,製炭時間の短縮化を目指して,温度や炭材の詰め方等を操作し,燃焼効率の改善を試みた。その結果,5〜6時間で炭を焼けるようになり,製炭時間の短縮を実現した。また,できるだけ安定した炭焼きの環境を設定する必要を感じ,次のような改善を試みた。天候,時期といった影響をできるだけ受けないように,窯に屋根を架ける防雨効果で,窯土の状態をほぼ一定にした(図3)。加えて,製炭時の窯の密閉作業を簡素化した。板材を利用して土留めをしやすくすることにより,使用する土の量を大幅に減らすことができ,また,作業時間も短縮できると考えた(図4)。これまでは大量の土で密閉作業を行っていたが,板材を利用することにより土の量も少なくて済み,作業も楽になった。これらの実験を通して,標準書の改訂版を完成させることができた(図2)。 (4)製炭時間の短縮化 製炭時間の短縮に成功し,製炭手順も確立したものとなってきたため,これまであまり研究されることのなかった製炭時の排煙について,その対策の研究を行った。 ア 実験1 炭は顕微鏡で構造を見ると,穴が無数に開いた微細な多孔質構造を有しており,内部の表面が滑らかではないため,微量な化学成分が引っ掛かりやすい構造となっている。そのため気体等の吸着性が非常に良く,冷蔵庫の中で脱臭剤として使われている。これらを踏まえ「炭に煙の分子を吸着させ,煙の量を低減させることはできないだろうか?」と考え,簡単な装置を製作して煙突の排煙口に取り付けた(図5)。 箱の内部には炭が3段に取り付けてあり,煙突から出た煙は,この箱を通り排出される。煙が炭に吸着され,煙が減るのではないかと考えたが,結果として箱を設置した2号窯の煙の量と,従来どおりの煙突から排出される,1号窯の煙の量に違いは感じられなかった。しかし,排出される煙の勢いは明らかに違うということが分かった。 イ 実験2 箱の上部にフィルターを設置し,フィルターへの煙の付着具合を見る実験を行った。1号窯,2号窯,条件を同じにし,1号窯にも炭棚を設けない空洞の箱を取り付け,その上部に2号窯と同じくフィルターを取り付けた。左右同じ条件下でのフィルターへの煙の付着具合を比べることができた(図6)。 1号窯では,箱内に障害物となる物が無く,煙が勢いよく直接フィルターに当たったため黒色になった(図7)。2号窯では,箱内の3段の炭棚が障害物となり煙の勢いを抑え,煙の当たる量が少なかったため薄茶色になった(図8)。 ウ 実験3 肉眼で観察する限り,2つの窯から出る煙の量に違いは感じられなかった。2号窯で使用した箱内の炭も観察したが,煙を吸着した形跡は確認でできなかった。したがって,今回の一連の実験は煙の量が減るものではなく,排煙対策に適さないと結論付けた。 そこで,車の触媒装置,ゴミ処理場の高温処理による減煙からヒントを得て,排出される煙を煙突の中で再燃焼させることにより煙が減らせるのではないかと考えた。机上で透明な耐熱ガラスの中に煙を充満させ(図9),その中にバーナーで火を送ると瞬時にガラス内の煙は見えなくなった(図10)。炎がガラス内で燃焼したのか,バーナーの勢いで煙がガラスの外に排出されたのかはっきりしないが,消煙実験に期待をもたせる結果であった。 エ 実験4 実際に窯を使って実験を行った。煙が勢いよく排出されている煙突に穴を開け,バーナーの炎を直接投入を試みた(図11)。火力の弱いバーナーでは煙が少し薄くなる程度だったが,火力の強いバーナーを投入すると瞬時に煙は消えた。このことから,煙を再燃焼させると煙が消えることが明らかになった。 3 今後の展開 製炭時の排煙対策については,バーナーを用いない方法で,煙の再燃焼装置を考案したい。具体的には,最初の実験で使用した木箱を不燃材料で製作し,その中で炭を燃焼させることにより,減煙化する方法の実験に取り組み,実用化を図る。成功すれば,バーナー燃料のコストの問題を解決することができる。その結果,短時間で焼け,しかも煙の少ない理想的な炭焼きスタイルを確立することができる。さらに,広範囲の場所で,より多くの人が炭焼きに取り組むことが可能となる。そして,排煙対策の実用化を目指すことで,都市部の人達も,山村を訪れて気軽に炭焼きに挑戦できる施設づくりへの貢献も可能となる。さらに,炭材に間伐材を用いることで,森林環境保全活動の一環となる。炭焼きの普及による山村の活性化,里山環境の向上を目指したい。 |
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