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カメラ付き携帯電話の特性を生かしたデジタル水質調査
1 目的
 今日の携帯電話は、メール機能をはじめ、デジタルカメラが内蔵されているものが一般的である。しかし、このカメラは、人や風景などを写す一般のフィルムカメラやデジタルカメラと同じ使い方でしか利用されておらず、一日の使用もほとんどないのが現状である。そこで、この内蔵カメラを有効利用して、従来の直接的な観測方法ではなく、間接的な方法で水質調査を行うための実験を試みる。
 この実験には、精度のよい水質観測機器は数百万円もするため、いかに安く、正確な水質観測ができないかという背景がある。



2 携帯電話のカメラを利用した水質調査方法
 はじめに、携帯電話のカメラで撮影した海面画像を、分光反射特性により、水質項目別に画像解析をする。解析結果から、各水質項目を推測するためのモデル式を算出する。推測モデル式と水質実測値との検証を行い、精度を確認する。
(1) シートルース(海域データ測定)
 数十回にわたり、観測機器などを用いて水質を測定し、同時に、携帯電話のカメラで海面を撮影する。水質調査項目は、ここでは海洋調査用としてクロロフィル-a、透明度、塩分濃度、ph、濁度、CODを想定する。
図1 透明度の測定 図2 水質観測機器による測定
図3 COD測定 図4 携帯電話カメラによる海面撮影

(2)各バンドごとのデジタル数値の算出
 撮影したデータは、コンピュータで画像解析し、赤色光域(以下「Rバンド」と記す)、緑色光域(以下「Gバンド」と記す)、青色光域(以下「Bバンド」と記す)、さらに赤外線レンズを装着しての近赤外線域(以下「IRバンド」と記す)の4つの波長帯に分解変換して、各バンドごとのデジタル値を求める。
図5 各バンドに分解変換した画像とデジタル数値

 また、測定時の天候等は、毎回一定ではないため、デジタル値に対し反射率の補正を行う必要がある。補正式は、ここでは下記のとおりである。

(3)海面画像の解析
 求めた各バンドごとのデジタル値から、各バンド間 の演算値をベースに、水質実測値をパラメータとして相関図を求める。ベースになる演算値は、分光反射特性を分析・考察した上で、各バンド間の演算方法を決定する。ここでは、クロロフィル-aグラフに関しては、人工衛星データ解析でも使用される植生指標を算出するためのNDVI式をベースにし、透明度グラフと濁度グラフに関しては、反射光の色分析に適した三色係数をベースにする。塩分濃度グラフに関しては、真水と沿岸水は、BバンドとRバンドで大きな差があるため、この2つのバンド比をベースにしてみる。その他のグラフに関しては、分光反射特性により、各バンド比をベースにしてみる。
図6 各バンド間の演算値と水質実測値との相関図

(4)回帰分析
 相関図から回帰分析を行い、相関係数を求める。過去に回帰分析した結果の一例として、各水質項目別と各バンド間の演算値との相関係数は、クロロフィル-aグラフでは0.9以上、透明度グラフでは0.91、濁度グラフでは0.9以上、塩分濃度グラフでは両機種とも約0.88、CODグラフでは約0.8の相関係数を得ることができた。しかし、pHに関しては、どのバンド間演算をベースにしても相関関係を得ることができないようだ。図7にクロロフィル-aとNDVIとの回帰分析結果の一例、図8に透明度と三色係数との回帰分析結果の一例を示す。
図7 クロロフィル-aとNDVIとの回帰分析結果(120万画素)

図8 透明度と三色係数(赤色係数)との回帰分析結果(120万画素)

(5)推測モデル式の算出
 回帰分析結果から、携帯電話のカメラによる各水質項目の推測モデル式を求める。求めた推測モデル式の一例は次のようである。
 
  ●クロロフィル-a
     5.4092×NDVI値+6.8802 (31万画素)
     14.592×NDVI値+5.5595 (120万画素)
  ●透明度
    −101.19×赤色係数rf+35.583  (31万画素)
    −48.16×赤色係数rf+17.391  (120万画素)


3 推測モデル式の検証
 解析でサンプリングした観測ポイントとは別の観測ポイントにおいて、海面を撮影した画像を同じ方法で画像解析し、解析データを推測モデル式に代入して推測値を求め、水質実測値との比較検証を行って精度を確認する。過去の検証結果では、推測モデル式による推測値は、実測値に対し、各ポイントとも誤差±5%以内となり、高い精度を得ることができた。表1に、過去に算出した観測ポイントの比較検証結果を示す。

表1 実測値と推測値との比較


4 考察
 携帯電話のカメラには、機種によって画素数の違いやレンズ感度の違いなどがある。そのため、撮影した画像のデジタル値に差が生じる。したがって、使用する機種ごとに、モデル式を作成する必要がある。
 また今回の実験では、海洋観測用としての水質調査実験であるため、画像解析用コンピュータを海上で使用することは、本来はできるだけ避けたいところである。そこで、撮影した画像を携帯電話のメール機能で学校等にあるコンピュータに転送させ、プログラムによって自動的に画像解析させる方法が考えられる。これにより、リアルタイムで観測地の各水質推測値を求めることができる。