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アルミ板を用いたコンデンサーの実験(応用編)


1 はじめに

 「アルミ板を用いたコンデンサーの実験(基礎編)」では、作製したコンデンサーの特性を調べた。応用編では、コンデンサーを題材とした「パフォーマンス課題」の実施方法を考える。


2 原理

 コンデンサーはパソコンやスマートフォンなどの電子機器に欠かせない部品であり、小型でかつ大容量であることが求められる。コンデンサーの主流である積層セラミックチップコンデンサーは、図1のように極板と誘電体を交互に多数重ねることにより、小型化・大容量化を実現している。図2に積層セラミックチップコンデンサーの等価回路を示す。配線を工夫することにより多数のコンデンサーが並列接続されているのと同じ働きをする。

図1 積層セラミックチップコンデンサーの模式図(断面) 図2 積層セラミックチップコンデンサー(図1)の等価回路

3 準備

  必要な物品を表1に示す。
 
表1 必要な器具と材料
品  名 規  格 個数
1 アルミ板 200mm×300mm 厚さ1mm 6
2 紙(更紙やコピー用紙等) 200mm×300mmの大きさにカット 厚さ0.12mm程度 6
3 アルミ箔 20mm×40mm程度 6
4 セロファンテープ アルミ箔をアルミ板に固定するために使用 6
5 リード線 両ミノムシ 10
6 カタログ本 数kg程度(おもりとして使用) 1
7 デジタルマルチメーター nFオーダーの電気容量が測定できるもの 1
8 トグルスイッチ(※) ON-OFF-ONタイプ 1
9 LED(※) 定電流5mm赤色LED(Vf:4.5〜18 V、If:18.5 mA) 1
10 基板(※) ユニバーサル基板(72×47.5mm) 1
11 配線用導線 5cm程度 1
12 はんだ・はんだごて 1
13 乾電池 9V角型(006P型) 1
       ※通信販売にて1個100円以下で購入できる

4 方法

 平行平板コンデンサーの特性や接続について学んだ後、次のような課題を生徒に提示し、考えさせる。この時点では、積層セラミックチップコンデンサーの知識は与えない。

【課題】
次の材料を用いて電気容量が最も大きくなるようなコンデンサーを設計・作製し、その電気容量を測定しよう。また、なぜ電気容量が最大になるか説明してみよう。

【材料】
 (1) 金属板(200mm×300mm 厚さ1mm):6枚
 (2) 紙(200mm×300mm 厚さ0.12mm):枚数制限なし
 (3) 導線:本数制限なし


生徒の考えた設計をクラス全体で共有し、正解を導いていく展開が考えられる。次のようなヒントを与えると考えやすくなる。

ヒント(1):金属板が3枚だとしたら、どのように配置すると電気容量が大きくなるか考えてみよう
ヒント(2):3枚から6枚に拡張してみよう

電気容量が最大のコンデンサーが設計できたら、乾電池で充電して実際に電気を蓄え、LEDを点灯させる。
図3〜6に示すように、トグルスイッチ、LEDを基板にはんだづけしたものを製作すると充放電をスムーズに行うことができる。

図3 スイッチ操作で充放電を切り替え 図4 全体図 図5 裏面
図6 スイッチとLEDの接続の様子


5 結果

 ヒントを与えない場合、ほとんどの生徒が図7のように6枚の金属板を2枚ずつペアにして三つのコンデンサーを作り、それを並列接続する方法を考えた。


図7 生徒の解答例@

 クラス全体でこの答えを共有した後、電気容量はもっと大きくすることができると伝え、ヒント(1)を提示した。最初に金属板3枚でコンデンサーを設計するよう指示すると、図8〜10に示すような興味深い案が得られた。


直列接続になってしまう

コンデンサーとして機能せ
ず、電流が流れてしまう
図8 生徒の解答例A(左)と等価回路(右) 図9 生徒の解答例B(左)と等価回路(右)

1番上と2番目の金属板
が等電位となる

並列となり、3枚の金属板
では電気容量最大
図10 生徒の解答例C(左)と等価回路(右) 図11 生徒の解答例D(左)と等価回路(右)(正解)

 3枚の金属板でコンデンサーを構成する経過をたどることで、電流が流れてしまってはコンデンサーとしての機能をもたないことや、隣り合う極板に電位差を与えると電気を蓄えることなどを実感をもって学ぶことができる。ここでヒント(2)を提示したところ、6枚の金属板を用いて電気容量が最大となるコンデンサーを設計できる生徒が出てきた。図12に生徒の解答例と等価回路を示す。

図12 生徒の解答例E(左)と等価回路(右)(正解)

 図12(右)のように、5個のコンデンサーを並列した場合と等価な回路を組むことができる。実用化されている技術を、試行錯誤しながら導き出す過程を生徒に経験させることができる。
 最後に、設計図を基にコンデンサーを作製したところ、電気容量は60.8 nF(コンデンサー1個の場合の電気容量10.47 nFの約5.8倍)となった。コンデンサーに乾電池とLEDを接続し充放電の実験を行った。配線方法と放電時のLEDの様子を、図13〜14及び動画に示す。

図13 充放電実験時の配線の様子
(実際にはおもり用の本を上に載せて実施する)
図14 配線図


    動画 充放電実験時の様子

    ※ムービーファイルはWMV形式です。WMVファイルを再生できるプラクインソフトが必要です。

    ※留意点
      ・図7〜12に示した生徒の解答例は、複数の生徒の絵を元に再構成したものである。
      ・LEDを含む回路には抵抗を入れて電流を制限する必要があるが、抵抗内蔵のLEDであったため、抵抗は入れずに回路を構成した。

6 授業における活用例

単 元 「物理」の「コンデンサー」
〔導 入〕   平行平板コンデンサーの特性や接続について学んだ後、課題を生徒に提示する(この時点では、積層セラミックチップコンデンサーの知識は与えない)。
〔展 開〕  まずヒントを与えず、予備知識のない状態でコンデンサーを設計させる。生徒の状況に応じてグループワークを取り入れるなど授業形態は工夫する。
 考えをグループ、クラス全体で共有しながら進め、必要に応じてヒント(1)、(2)を提示しながら段階的に進める。各生徒の試行錯誤の過程は消さずに記録させる。
 正解を導けたところで実際にコンデンサーを作製し、LEDを点灯させる。
〔まとめ〕  積層セラミックチップコンデンサーの事例を紹介し、実際のコンデンサーは最小限のスペース、材料で最大限の電気容量を得るためにさまざまな工夫がなされていることを、確認する。

7 参考文献

○伊藤新一郎:デジタルマルチメーターを用いた手作りコンデンサーの電気容量の測定
 (北海道立教育研究所附属理科教育センター 研究紀要 第22号(2010)p30-31)
 http://www.ricen.hokkaido-c.ed.jp/

○小田桐世長:高等学校理科における生徒の実感を伴った理解と思考力を高めるための教材の開発
 −身近な素材を使って製作したコンデンサーの活用を通して−
 (青森県総合学校教育センター 研究紀要[2011.3] G4−04)
 http://www.edu-c.pref.aomori.jp/



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