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回折格子を利用した液体の屈折率の測定

1 はじめに

液体の屈折率の測定は、光の干渉計などを用いて行われる。適切な回折格子レプリカシートを用いると、高校生でも容易に液体の屈折率を測定することができる。

2 目的

回折格子レプリカシートを利用して、液体の屈折率を測定する。

3 原理

回折格子に単色光を当てて、円形スクリーンに投影すると、明暗の縞模様が見られる。このとき、単色光の波長 と、1次の回折像の回折角 (ラジアン)には

  ・・・ @

の関係がある。ただし、 は回折格子の格子定数である。

(1) 屈折率の計算A

図1のように、円形スクリーン上の0次の回折像と1次の回折像の弧の間隔を とし、円形スクリーンの半径を とする。


  図1 回折像の模式図1        図2 回折像の模式図2

図2より回折角

  ・・・ A

@、Aより、

  ・・・ B

が成り立つ。

同様の実験を屈折率 の液体中で行った場合、液体中の波長は となるので、0次と1次の回折像の間隔は狭くなる。弧の間隔を とすると、

  ・・・ C

が成り立つ。

B、Cより屈折率

  ・・・ (A)式

と表すことができる。

(2) 屈折率の計算B(近似)

回折角 が小さい時、図3に示す0次の回折像と1次の回折像の直線距離 と、その弧の長さ とがほぼ等しいものとみなすことができる。


  図3 回折像の模式図3

したがって、

これを@に代入すると、

  ・・・ D

同様の実験を屈折率 の液体中で行った場合、0次と1次の回折像の弧の長さ は、

  ・・・ E

D、Eより屈折率 は、

  ・・・ (B)式

と表せる。

4 準備

(1) 回折格子レプリカシート(格子定数500

(2) 円形水槽(シャーレもしくはビーカー等、できるだけ径の大きなもの)

(3) スクリーン(白紙)

(4) セロハンテープ

(5) レーザー光(650 前後)

(6) 液体(水、ショ糖、油等)

5 方法

(1) 円形水槽の側面の外側に、スクリーン(図4)を巻いてセロハンテープで止める(図5、図6)。

スクリーン:

細長い白紙を用意する。長さを円形水槽の周よりもわずかに短くして円形水槽にスリットを作る。

→ 回折像を細い明線として得ることができる。

白紙の中心(両面)に直線を引く。

→ アライメントの作業(0次の回折像を直径方向に合わせる作業)が容易になる。


  図4 スクリーン


  図5 円形水槽(手前側がスリット)     図6 円形水槽(奥側がスリット)

(2) 円形水槽の内側の側面(スリットの位置)に、1 × 1 程度の回折格子をセロハンテープで止める。

(3) 回折格子にレーザー光を当て、0次の明線(回折像)の位置をスクリーンの中心線に合わせる。スクリーンの1次の明線(回折像)の位置に印をつける。(図7、図8)


  図7 回折像(手前側から照射)       図8 回折像(奥側から照射)

(4) 円形水槽に屈折率を測定する液体(水、ショ糖溶液、油)を入れる。

→ 1次の明線の位置が0次の明線の方へわずかに移動する。


  図9 屈折率の測定( 油 )

(5) (3)と同様の方法で、液体を入れた場合の1次の明線の位置に印をつける。

(6) スクリーンをはがして、0次の明線と1次の明線の間隔 をそれぞれ測定し、屈折率を計算する。

6 結果

円形水槽として半径9.06 のシャーレを用いた。実験には波長650 のレーザー光と500 の回折格子レプリカシートを用いた。いずれの実験も室温16 で実施した。

下表のショ糖溶液の括弧内の数値は、水100 に溶かしたショ糖の質量を示している。 は、「3.原理」の (A)式で計算した屈折率で、 は、(B)式で計算した屈折率である。

 液体(16        
2.95 2.20 1.33 1.34
 ショ糖溶液( 40 2.95 2.13 1.37 1.38
 ショ糖溶液( 80 2.95 2.08 1.41 1.42
 ショ糖溶液(120 2.95 2.05 1.43 1.44
2.95 1.98 1.48 1.49

ただし、弧の長さ 、には0.03 程度の測定誤差があるため、 の計算結果には2 程度の誤差がある。また、円形水槽の半径9 に対して、 が2〜3 と大きいため、
    
の近似も、かなりの誤差が考えられる。

7 考察

「3 原理」の (A)式で得られる屈折率 はいずれも、既知の屈折率の値とほぼ一致した。屈折率を求める方法として本実験は有効である。また、(B)式で得られる屈折率の近似値 より若干大きな値になるが、ほぼ同じ結果を示す。

円形水槽として半径9.06 のシャーレを用いた場合の に関して、計算誤差のシミュレーションを行った結果を下図に示す。図はいずれも縦軸を )、横軸を としている。ただし、図10は回折格子の格子定数を 500 と仮定し、図11は 1000 として計算した。


 図10     図11   

図より、半径9.06 の円形水槽を用いた場合、格子定数が500 の回折格子であれば、(B)式でも2 未満の誤差で屈折率を計算できることがわかる。円形水槽の半径が大きくなれば、誤差はさらに小さくなる。

8 留意点

「3 原理」の (A)式は、正確に屈折率を計算できるが、その計算に関数電卓等が必要になる。一方、(B)式はわずかに誤差が生じるが、計算が容易である。高校の実験室では500 の回折格子を用いて、(B)式で屈折率を計算することを勧める。

実験に使用する円形水槽は、測定誤差と計算誤差を小さくするため、できるだけ大きなものを使用した方がよい。

9 授業における活用例

単 元 「物理」の「光の回折と干渉」
〔導 入〕  実験の原理を説明し、ヒントを与えながら(B)式を導く。
〔展 開〕  実験を手順に従って行う。次の(1)〜(3)について考察することで理解を深める。
(1)レーザー光源の波長を変えた場合に、明線の位置がどのように変化するか。
(2)回折格子の格子定数を変えた場合に、明線の位置がどのように変化するか。
(3)どのような条件で実験を行うと、近似を用いた(B)式の精度が高まるか。
 探究的活動の要素を取り入れる場合、格子定数の異なる回折格子を用いて測定し、格子定数を求めるなどの課題が考えられる。
〔まとめ〕  光の干渉では近似式を多く扱うが、どのような実験条件を前提として近似を適用しているか意識する必要があることを確認する。

10 参考資料

平成10年度 観察実験指導力向上講座(高等学校)テキスト
愛知県教育センター編(物理分野指導 中間 弘)

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