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レーザーを用いた幾何光学の実験


レーザーは指向性が非常にすぐれている光源で、このため光を放出する立体角がきわめて小さくなるために輝度が高くなる。レーザーのこのような性質は、光の直進性を利用した実験を楽に行うことができるようにした。しかし一本の光線だけを用いる実験はレーザー光線でうまくいくが、幾何光学の実験等がすべてより効果的にできるわけではない。ここでは、いくつかの実験の中からレーザーを用いたほうが効果的なものをあげてみる。

1 光線を観察する方法

目の前を通りすぎる光は、そこに何物かがあってそれによる反射光が目に入らないかぎり見えない。そのため透明な媒質中を進む光の進路がそれだけでは見えないことは、幾何光学のデモ実験にとってはやっかいなことである。光の道筋を観察する方法として次のようなものがあげられる。

(1)煙の利用

線香の煙などを光の通路にただよわせる。一様に長続きさせることが難しいことが欠点だが、スモークボックスを作ればよい。

(2) コロイド溶液の利用

水に白のポスターカラーを少し溶かしたものとか、牛乳を少し溶かしたものを用いると安定した状態で観察できる。ただし、レンズ等を水に入れる実験などは屈折の程度が変化するなどの欠点がある

(3) 白い壁を利用

図1のようにレーザー光をレンズにあて、たとえば水平の方向だけに広げる。光をスクリーンにあてるとABの部分が細い筋になって見える。スクリーンの角度によりABの部分は長くも短くもなるが、長すぎるときれいでなくなる。ABの部分にプリズムを置くと反射と屈折の様子が観察できる。

以上の3つの方法をあげたが、これらを実験の目的に応じて選べばよい。

2 光線を分割する方法

レーザーを幾何光学のデモ実験に使う場合の欠点の1つとして、光線が1本しかないことが上げられる。そこで、スリットを使わずに数本の光線に分割する方法が必要になってくる。ここでは、完全平行光線を作ることはできないが、幾何光学の実験に使うことができる簡単な方法を示す。

図2のように、スライドガラスを数枚重ね、一方の端を透明粘着テープでくくる。もう一方の端は、ガラスとガラスの間に名刺を小さく切ったものをのせ、透明粘着テープでしっかりとくくる。このようにするとガラスとガラスの間にくさび形の空気層ができたことになる。

これを、レーザー光線に対して45°の角度で置くと、それぞれのガラス面で反射する光によって、数本の光線を作ることができる。図2はこれを使って、水の中に凹レンズの形をした空気の部分を作ってやると凸レンズの働きをすることを示す実験の方法を示したものである。

この装置で反射される光は、後ろのガラスで反射されるものほど暗くなる。また光線と光線の間隙を広げようとすると、平行でないことが目立ってくるので、あまり大きなデモ実験には使えないのが欠点である。

3 光のバウンド

媒質の密度の違いにより、光が屈折を起こす現象を観察する実験である。

プラスチックの角形容器(10cm×4cm)に砂糖を30g入れ、ポスターカラーの白を少し溶かした湯(50℃程度)を徐々に静かに注ぐ。これを一昼夜放置すると、砂糖は完全に溶け、濃度が底に向かって徐々に大きくなった溶液を作ることができる。砂糖の量が多すぎると全部溶けず、容器の底に砂糖が残り、全反射の実験ができなくなる。

現象を観察するには、図3のようにする。レーザー光のビームの径が細いほうが鮮やかに観察できる。そのため、顕微鏡の対物レンズ2個によってビームの径を細くする。このビームを水平より少し下向きに入れてやる。

光は曲線を描いて曲がり、容器の底にあたる。全反射はプラスチックと空気の境界面で起こる。そして、再び砂糖の溶液の中を曲がりながら進む。光が容器の底で、あたかもバウンドしたかのように見える実験である。

媒質が中心に向かうにつれて屈折率が高くなるように作られている場合、中心に沿って光が曲がりながら進む(図4)。この原理は、現在光ファイバーとして応用されている。

4 プリズムの屈折率の測定

プリズムのガラスの屈折率を最小ふれ角から求めようとする場合、レーザー光線を用いれば、十分デモ実験として行うことができる。

頂角θのプリズムに光が入射する場合、最小ふれ角をδとすると、その屈折率は

sin{(δ+θ)/2}

n= ―――――――――――――

sin(θ/2)

 

で示される。

図5のように、プリズムにレーザー光をあてると、スクリーン上にスポットがあらわれプリズムの回転とともにスポットの位置も移動する。スポットがO点に一番接近したときが最小のふれ角である。プリズムを回転するに従いスポットがO点に接近し、また離れていく様子がはっきりわかる。

測定値は次の通りであった。

θ=60°  x=102cm  L=134cm

  x

tanδ= ――――――――=0.76

 L

 

よって δ=37°

sin(60°+37°)/2

n= ――――――――――――― = 1.50

sin(60°/2)

ところで石英ガラスの屈折率は理科年表によればn=1.46である。

5 おわりに

ここでは、レーザー光線を使うことにより効果的にできる基礎的な実験を4つ示したが、これらを組み合わせてやれば、幾何光学の新しい実験ができると考えられる。

6 参考文献

長沢武;科学の実験  P65〜68,1976.9

東京天文台;理科年表 P512,1982


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