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ビー玉スターリングエンジン


1 はじめに

 蒸気機関,ガソリンエンジンなどの熱機関は,私たちの生活になくてはならないものである。熱機関の一つであるスターリングエンジンは,身近な材料を用いて比較的簡単に製作することができる。スターリングエンジンの製作と実験を通して,熱機関についての理解を深める。


2 原理

 ビー玉スターリングエンジンは,アルコールランプ,試験管,ビー玉,ガラス製注射器などから構成されており(図1),試験管底部を加熱することによって,試験管と注射器が上下運動を繰り返す装置である。

図1 ビー玉スターリングエンジンの構造

[ビー玉スターリングエンジンの動作原理](図2)

@ はじめ,試験管は口側を下にして傾いており,ビー玉が口側にあるため,試験管内部の気体の大部分は底側に存在する。試験管の底側を加熱することにより,内部の空気が暖められて膨張する。膨張した空気は,ビー玉と試験管壁の隙間を通って注射器へ移動し,注射器のピストンを押すため,注射器が上昇する。
A 注射器が上昇すると,それに押されて試験管の口側が持ち上げられる。それに伴って,中のビー玉も底側へ移動する。
B ビー玉が底側へ移動すると,試験管内の空気の大部分は口側へ移動する。  試験管の口側は熱せられていないため,中の空気は冷やされ,収縮する。
C 中の空気が収縮すると,注射器内の空気が試験管へ流入し,注射器は下降するため,@の状態に戻る。

   図2 ビー玉スターリングエンジンの動作原理


3 準備

表1に示した器具と材料を用意する。

   表1 必要な器具と材料

品  名 規  格 個数 品  名 規  格 個数
試験管 内径15mm 1 ゴム板 厚さ2mm×18mm×36mm 1
ガラス製注射器 5mL 1 両面テープ 長さ18mm 1
ビー玉 直径12.5mm 5 アルコールランプ 理科実験用 1
輪ゴム No.16(通常のもの) 2 接着剤 エポキシ樹脂系 1
ゴム栓 No.2 1 木材A 15mm×90mm×280mm 1
真ちゅうパイプ 外径3mm×長さ30mm 1 木材B 12mm×30mm×180mm 2
シリコンチューブ 内径3mm×長さ40mm 1 木材C 12mm×30mm×90mm 1

4 製作方法

(1)木材A〜Cを図3のように組み立て,支柱を作る。(エポキシ樹脂系接着剤を用いると容易に接着できるが,釘でも可)

(2)ゴム栓に穴を開け,真ちゅうパイプを通し,パイプにシリコンチューブを取り付ける。(図4)

(3)図5のように,ゴム板,ガラス製注射器を両面テープで取り付ける。このとき,注射器を傾けることができるように接着する。(図6)

(4)試験管にビー玉5個を入れる。
  [注意] 試験管の底は非常に割れやすいので,ビー玉が試験管の底に勢いよく当たらないように気をつける。

(5)試験管にゴム栓を取り付け,図7のように,輪ゴム2本を重ねて支柱に取り付け,その中に試験管を通す。

(6)シリコンチューブの先を注射器の先端に接続する。注射器と反対側にアルコールランプを置き,試験管が口を下にしてやや傾くように,輪ゴムの高さを調整する。(図8)

(7)アルコールランプに点火する。

図3 支柱の組み立て 図4 ゴム栓の組み立て 図5 ゴム板,注射器の接着

図6 横から見た模式図 図7 試験管の取り付け 図8 完成図 


5 結果

 アルコールランプに点火すると,試験管内の空気が暖められて膨張し,注射器のシリンダーが上昇する。その後,動画1のように試験管は上下に振動を繰り返す。

動画1 動作の様子

6 参考

 スターリングエンジンは,1816年にロバート・スターリングが発明した熱機関である。
密閉した気体を外部から加熱・冷却して,内部の気体を膨張・収縮させることにより仕事を得る。(図9)

図9 スターリングエンジンの原理

 ディスプレーサと呼ばれる装置を用いると,効率よく容器内部の気体を加熱・冷却することができる。(図10)
 ディスプレーサは密閉容器の内部を上下に動き,内部の気体を移動させる働きをもつ。
 ディスプレーサが上に動くと,容器内部の気体の大部分は容器下部へ,ディスプレーサが下に動くと,容器内部の気体の大部分は容器上部へ移動する。
(※ディスプレーサと容器壁面との間には気体が通ることのできる隙間がある)

図10 ディスプレーサ型スターリングエンジン

図11に示すように,左側容器の上部を加熱し,下部を冷却し続ける。

@ ディスプレーサを上に動かすと,容器内の気体は容器下部へ移動するため冷却されて収縮し,出力ピストンが上に動く。
A ディスプレーサを下に動かすと,容器内の気体は容器上部へ移動するため加熱されて膨張し,出力ピストンが下に動く。
ディスプレーサの動きと出力ピストンの動きを連動させると,連続的に出力ピストンを上下に動かすことができる。
図11 ディスプレーサ型スターリングエンジン動作の様子

 ビー玉スターリングエンジンの場合,ビー玉がディスプレーサ,注射器が出力ピストンとしての役割を果たしている。加熱を続けて試験管全体が温まってくると,やがて動きが止まる。熱機関が動作するためには,高温熱源だけでなく,低温熱源が必要であることが理解できる。

7 参考文献

小林義行:はじめてのスターリングエンジン(誠文堂新光社,2007)




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