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表計算ソフトを利用したシミュレーション1

〜 落体運動 〜

1 はじめに

重力を受けて落下する物体の運動方程式は次のように表せる。

ただし, は物体の質量, は重力加速度とし,空気抵抗は無視している。

この微分方程式を解くと,速度 や変位 を時間 の関数として表すことができる。

ただし, は初速度, のときの変位 は0であるとする。

本研究では,(1)式をもとにしたシミュレーションを行うことで,微分方程式を解かずに,(2)式のような速度と時間の関係,(3)式のような変位と時間の関係が得られることを示したい。


2 目的

差分法を用いて,落下する物体の運動のシミュレーションを行う。


3 原理

加速度を とおくと,(1)式は以下のように表せる。

時刻 での速度 が,微小時間 の間に一定の加速度 で変化するとき, 後の速度

と表せる。

また,時刻 での変位 が,微小時間 の間に一定の速度 で変化するとして近似すると, 後の変位

と表せる。

ここで,経過時間を微小時間 ごとに区切り,時刻を順に ( = 0 ), ・・・のようにおき,それらの時刻に対応する物理量を下の表1のように表す。

  時刻 速度 変位
初期値
第1項
第2項


表1 各時刻に対応する物理量


このとき,(5)〜(6)式より, 番目の各項は 番目の各項を用いて次のような漸化式で示せる。


4 方法

(7)〜(9)式をもとに,表計算ソフトのセルに数式を入力する。表2は入力の一例である。

  A B C
1 時間間隔 (s) 重力加速度 (m/s2  
2 0.0005 −9.8  
3      
4 時間 (s) 速度 (m/s) 位置 (m)
5 0 0 100
6 = A5 + $A$2 = B5 + $B$2 * $A$2 = C5 + B5 * $A$2
7 = A6 + $A$2 = B6 + $B$2 * $A$2 = C6 + B6 * $A$2
8 = A7 + $A$2 = B7 + $B$2 * $A$2 = C7 + B7 * $A$2

表2 表計算ソフトへの入力例


ただし,表中の「B5」はB列の5行目のセルの値(上記入力例では0)を意味し,「$B$2」はB列の2行目のセルの値(上記入力例では-9.8)を意味する。前者の表記方法(相対参照)は,セルを下方にドラッグ&ドロップすると数式が「B6」,「B7」と変化していくものとし,後者の表記方法(絶対参照)はドラッグ&ドロップしても数式が「$B$2」のまま変化しないものとする。したがって,表2の7行目以降の数式は直接手入力しなくても,6行目をドラッグ&ドロップすることで表のような数式が自動的に格納される。なお,式中のアスタリスク(*)は掛け算を意味する。

2行目と5行目の淡黄色のセルは初期設定値の入力欄で,セルの数値を変更することで落下運動の条件を変更できる。「B5」は物体の初速度,「C5」は物体の初めの位置である。表2の入力例は,鉛直上向きを正の方向とした自由落下運動を示す。高さ100mから静かに放たれた物体の0.0005秒ごとの速度と位置を自動的に計算する。


5 結果

表2のように入力して,その6行目をドラッグ&ドロップしていくと,下の表3のような結果を得ることができる。

  A B C
1 時間間隔 (s) 重力加速度 (m/s2  
2 0.0005 −9.8  
3      
4 時間 (s) 速度 (m/s) 位置 (m)
5 0 0 100
6 0.0005 -0.0049 100.0000
7 0.0010 -0.0098 100.0000
8 0.0015 -0.0147 99.99999

2004 099995 -9.7951 95.10735
2005 1.00000 -9.8000 95.10245
2006 1.00005 -9.8049 95.09755
2007 1.00010 -9.8098 95.09265

9039 4.5170 -44.2666 0.034951
9040 4.5175 -44.2715 0.012817
9041 4.5180 -44.2764 -0.009320
9042 4.5185 -44.2813 -0.031460


表3 表計算結果


表3の結果を用いて,時間と位置の関係をグラフに示すと次のようになる。

図1 自由落下


表2のような表計算を一度作成すれば,初期設定の数値を変更するだけで鉛直投げ上げや鉛直投げ下しなどの運動の様子も知ることができる。例として,物体の初速度を40m/s,初めの位置を0m(鉛直投げ上げ)と変更したときの結果を図2に示す。

図2 鉛直投げ上げ


6 考察

精度の高い軌道シミュレーションでは,微小時間での物理量の変化を以下のように表す。

本研究では,表計算ソフトを利用したシミュレーションを生徒が取り組みやすいように,(10)式,(11)式を(5)式,(6)式のように表した。

表3から4.5175秒(9040行目)から4.5180秒(9041行目)の間に位置が0mとなることが分かる。理論式(3)をもとに100mの高さから自由落下したときの落下時間を計算すると4.51754秒となり,表計算の結果と一致する。表3の入力例では計算時間間隔を0.0005秒としたが,時間間隔をさらに小さくすれば,より理論値に近い結果を得ることができる。

図1や図2のようにグラフ化すると,変位と時間の関係が2次関数となることも視覚的に理解できる。


7 指導上の留意点

生徒にシミュレーションの実習を行わせる際は,事前に表計算のセル参照の考え方や演算の方法,関数の使い方などを指導しておく必要がある。表計算については教科「情報」でも取り扱うので連携して指導することが望ましい。


8 その他

本教材は、高等学校学習指導要領の「第2章 各学科に共通する各教科」における

・第4節 数学  第6 数学活用  (2) 社会生活における数理的な考察  ウ データの分析

・第5節 理科  第2 物理基礎  (1) 物体の運動とエネルギー  イ 様々な力とその働き  (エ) 物体の落下運動

・第5節 理科  第3 物理  (1) 様々な運動  ア 平面内の運動と剛体のつり合い  (イ) 斜方投射

・第5節 理科  第10 理科課題研究

・第10節 情報  第2 情報の科学  (2) 問題解決とコンピュータの活用  ウ モデル化とシミュレーション

という項目で利用できる。


本研究で紹介した表計算のサンプルファイルと,本内容を応用して作成したモンキーハンティングのシミュレーションソフト(下図)も用意しました。下記リンク「simulation01.zip(92.5KB)」の文字の上で右クリックして、「対象をファイルに保存」をクリックしてダウンロードしてください。ZIP形式で圧縮されていますので、展開してお使いください。

↑シミュレーションソフトのムービーファイルはWMV形式です。WMVファイルを再生できるプラグインソフトが必要です。

ダウンロードはこちらから(右クリック)-->  simulation01.zip(92.5KB)



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