back |
表計算ソフトを利用したシミュレーション3
〜 雨滴の落下運動2 〜
1 はじめに
空気抵抗がある場合の落体運動の代表例として,雨滴の落下運動が挙げられる。速度の2乗に比例する空気抵抗が雨滴にはたらく場合の運動方程式は次のように表せる。
ただし, は物体の質量, は重力加速度, は比例係数とする。 この微分方程式を解くと,速度 を時間 の関数として表すことができる。ただし,初速度を 0 とする。
本研究では,(1)式をもとにしたシミュレーションを行うことで,微分方程式を解かずに,(2)式のような速度と時間の関係が得られることを示したい。ただし,本内容は「表計算ソフトを利用したシミュレーション2〜雨滴の落下運動1〜」を学習していることを前提とする。 |
2 目的
差分法を用いて,速度の2乗に比例した抵抗力を受けた物体の運動をシミュレーションする。 |
3 原理
時刻 での加速度を ,速度を とすると,(1)式は以下のように変形できる。
時刻 での速度 が,微小時間 の間に一定の加速度 で変化するとして近似すると, 後の速度 は
と表せる。 同様に,時刻 での変位 が,微小時間 の間に一定の速度 で変位するとして近似すると, 後の変位 は
と表せる。 ここで,経過時間を微小時間 ごとに区切り, 番目の時刻 に対応する物理量を下の表1のように表す。
表1 時刻 に対応する物理量 このとき,(3)〜(5)式より, 番目の各項は次のような漸化式で示せる。
|
4 方法
(6)〜(9)式をもとに,表計算ソフトのセルに数式を入力する。表2は入力の一例である。ただし,2行目と5行目の淡黄色のセルは初期設定値の入力欄で,セルの数値を変更することで運動の条件を変更できる。
表2 表計算ソフトへの入力例 |
5 結果
表2のように入力して,その6行目をドロップ&ドラッグしていくと,下の表3のような結果を得ることができる。
表3 表計算結果 表3の結果を用いて,時間と速さの関係をグラフに示すと次のようになる。
図1 雨滴の落下運動2 |
6 考察
表3や図1から終端速度0.990m/sに収束していくことが分かる。理論式(2)をもとに時刻1.6790秒での物体の速さを計算すると,表計算結果と同様に0.990m/sとなる。 物体が速度の2乗に比例する抵抗力を受ける場合,落下開始時点の加速度の変化が極微小である。数値を格納するセルには桁数制限があるため,加速度に丸め誤差が発生する。そのため,加速度に依存する落下開始時点の速度にも,理論値と表計算の間に若干の誤差が発生する。セルの桁数制限が原因であるため,計算時間間隔を小さくしてもこの問題は解決できない。ただし,誤差は極めて小さく,有効数字3桁程度の精度で現象を議論する場合は問題ない。 実際の雨では,雨滴の大きさによって,速度に対する空気抵抗の依存性は変わる。ストークスの抵抗法則等を使って詳しく計算すると,抵抗力が速度に比例するのは雨滴の半径がせいぜい 0.1mm までである。雨滴の半径が 1mm 以上あれば,抵抗力は速度の2乗に比例すると考えてよい。 |
7 その他
本教材は、高等学校学習指導要領の「第2章 各学科に共通する各教科」における ・第4節 数学 第6 数学活用 (2) 社会生活における数理的な考察 ウ データの分析 ・第5節 理科 第2 物理基礎 (1) 物体の運動とエネルギー イ 様々な力とその働き (エ) 物体の落下運動 ・第5節 理科 第3 物理 (1) 様々な運動 ア 平面内の運動と剛体のつり合い (イ) 斜方投射 ・第5節 理科 第10 理科課題研究 ・第10節 情報 第2 情報の科学 (2) 問題解決とコンピュータの活用 ウ モデル化とシミュレーション という項目で利用できる。 本研究で紹介した表計算のサンプルファイルを用意しました。下記リンク「simulation03.zip(8.9KB)」の文字の上で右クリックして、「対象をファイルに保存」をクリックしてダウンロードしてください。ZIP形式で圧縮されていますので、展開してお使いください。 (右クリック)--> simulation03.zip(8.9KB) |
back |