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化石のレプリカ作り

1 はじめに

  野外へ出掛けて化石を採集することは、一種の宝探しのようでもあり、自然に触れるという意味でも児童・生徒に一度は経験してもらいたいことである。採集した化石の名前を図鑑で調べたり、現在生きているもので似た生き物を探したり、また、その化石が博物館に展示されていれば、その貴重なことに驚くだろう。
  その博物館の展示であるが、実はレプリカ(複製)であることが少なくない。ここでは、石膏(せっこう)を使ったレプリカ作りについて紹介する。化石の型取り材としては、歯科用ビニルシリコーン印象材を用いているため、細部まできれいに型を取ることができる。まさに、博物館級のレプリカ標本である。
  本物そっくりなレプリカを作ることで、化石に対して興味を深めてもらいたい。

2 準備

化石、木工用ボンド(水性)、筆、アルミ箔、型取り材(2種類)、スプーン、焼き石膏、はかり、プラスチック製容器、水、水入れ、メスシリンダー、ガラス棒、水彩絵の具、ドライヤー、ヤスリ

  歯科用ビニルシリコーン印象材(パテタイプ、インジェクションタイプ)

3 化石標本(左)とレプリカ(右)

下の写真の中で、「三角貝」と「恐竜の歯」以外は、すべて本物の化石標本である。

            

三葉虫 スピリファー
(腕足類)
 レプトダス
(腕足類)
アンモナイト 三角貝
(二枚貝類)
【オルドビス紀】  【石炭紀】 【ペルム紀】 【ジュラ紀】 【白亜紀】


            

イノセラムス
(二枚貝類)
恐竜の歯
(は虫類)
ビカリヤ
(巻貝類)
イタヤガイ
(二枚貝類) 
サメの歯
(軟骨魚類)
【白亜紀】  【白亜紀】 【新第三紀中新世】 【第四紀更新世】 【新生代】

4 方法

 ★写真番号の順に作業を行う。

 (1) 化石の補強

 写真1

 化石の表面が壊れやすいときは、木工用ボンドを適当に水で薄めて、筆を使って塗る。
 ※この方法は、植物化石(葉が、はがれやすいとき)の表面保護にも用いられる。

 (2) 化石の型取り

 写真2

 型取り材(一次印象用)  パテタイプ
 この製品は、青色と黄色を等量ずつ練り合わせて使う。硬化時間:約30秒
 写真3

 型取り材(二次印象用)  インジェクションタイプ
 この製品は、茶色と白色を等量ずつ混ぜ合わせて使う。硬化時間:約1分
 写真4

 化石全体をアルミ箔(はく)で包む。
 写真5

 型取り材(パテタイプ)を専用スプーンで等量ずつ取る。
 ※化石の大きさによって量は異なる。
 写真6(左)、写真7(右)

 色が均一になるまで素早く練り合わせる。
 写真8(左)、写真9(右)

 色が均一になったところで、型を取りたい面に押し当てて、素早く形を整える。練り合わせてから固まるまでの時間は、わずか30秒
 ※型取り材が薄くなって穴があくことがあるが、気にしない。
 写真10

 型取り材が固まったところ。
 ※大まかな型枠が取れればよい。
 写真11

 化石を少しずつ丁寧に取り出す。
 ※型枠には弾力性があるが、裂けてしまうこともある。裂けても気にしない。
 写真12(左)、写真13(右)

 穴があいてしまった部分(左の写真)。
 型取り材をかぶせて補修する(右の写真)。
 写真14(左)、写真15(右)

 裂けてしまった部分(左の写真)。
 型取り材をかぶせて補修する(右の写真)。
 写真16

 型枠の側壁が、内側へ入り込んでいる。この状態では固まった石膏を取り出しにくいので、内側へ入り込んだ部分をカッターナイフで切り取る。 
 写真17(左)、写真18(右)

 カッターナイフで切り取っているところ。
 写真19(左)、写真20(右)

 側壁が低いところは、型取り材を付け足して高さをそろえる。
 
 写真21

 一次印象の完成。
 写真22

 次に、型取り材(インジェクションタイプ)を専用ミキシングペーパーの上に等量ずつ出す。
 ※型枠の大きさによって量は異なる。
 写真23

 スプーン等を使って、色が均一になるまで素早く混ぜ合わせる。
 写真24

 色が均一になったところで、一次印象の内側に素早く塗り込む。
 写真25

 アルミ箔を取り除いた化石を直接型枠に押し込み、細部の印象を取る。
 混ぜ合わせてから固まるまでの時間は、わずか1分
 写真26

 型取り材が固まったところで、化石を少しずつ丁寧に取り出す。
 写真27

 型取り材がはみ出しているところは、はさみ等で切り取る。
 写真28

 二次印象(レプリカの型枠)の完成。
 ※型枠ができたら、すぐに石膏を流し込んでよい。
 写真29

 型枠を水平な台の上に置いてみて、安定しているか、また上面が台と平行になっているかを確認する。
 ※この型枠は、上面が台と平行で安定している。
 写真30

 不安定だったり、上面が台と平行になっていないときは、下面に足を付けて安定させる。
 ※傾いていると、型枠全体を石膏で満たすことができなくなるため。この写真は、アンモナイトの型枠ではない。

 (3) 石膏の流し込み

 写真31

 焼き石膏。
 石膏CaSO4・2H2Oを焼くと、水和水の一部を失って焼き石膏CaSO4・1/2H2Oになる。これに水を加えると、再び石膏となって固まる。
 写真32

 型枠の容積から石膏の量を判断し、プラスチック製容器に量りとる。写真右のフィルムケースには、黒線まで水が入っている。
 ※この焼き石膏の混水量は50%、すなわち焼き石膏100gに対して水50ミリリットルを加える。ここで作ったアンモナイトの型枠の場合、焼き石膏38g、水19ミリリットル使用。
 写真33

 石膏に水を入れ、ガラス棒でとろみが出るまでゆっくりかき混ぜる。
 ※とろみが出る…かき混ぜたときに、ガラス棒の跡が残る程度。
 プラスチック製容器を使うと、残った石膏が固まったのちに簡単にはがれ落ちるので、容器を再利用するのに都合がよい。 
 写真34

 型枠の中に石膏を流し込む。
 写真35

 石膏を隅の方へ押し込む。

 
 写真36

 石膏を流し込んだら、軽く振動を与えて内部の空気を追い出す。気泡が出てくる。
 写真37

 この状態で風通しのよいところに置き、石膏が固まるまで30〜40分間放置する。
 ※小指の爪で表面を軽く押してみて、キズがつかなければ全体が固まっていると判断してよい。石膏の量によって乾燥時間は多少異なる。石膏が発熱する。使用する焼き石膏は、高級なものを使えば乾燥時間も短く、粒度も細かいので仕上がりがよりきれいになる。
 写真38(左)、写真39(中)、写真40(右)

 石膏が固まったら、少しずつ丁寧に取り出す。
 ※はみ出た石膏は、ヤスリ等で取っておくと仕上がりがきれいになる。

 (4) 仕上げ

 写真41

 水彩絵の具を使って色を塗る。
 写真42

 ドライヤーの温風を当てながら、筆を使って表面をなでると光沢が出てくる。
 
 
 写真43

 完成
 左が本物、右がレプリカ

 (5) 標本カード

 写真44

 紙でカードを作り、化石の名前(学名・和名)、地層名、地質時代、採集地、採集者、
 採集年月日などを記入する。
 ※このカードは、名刺作成ソフトを使用して作成した。
学名:Pecten albicans (Schroter)
    (和名:イタヤガイ)
地層名:渥美層群 田原累層 豊島(としま)砂層
地質時代:第四紀更新世
採集地:愛知県田原市高松海岸(渥美半島)
採集者:
採集年月日:

5 実践例

 写真45

 『青少年のための科学の祭典』に参加。  
   2006年 名古屋市科学館にて

参考文献

  『地質標本館のレプリカ標本の作製』,佐藤喜男・利光誠一(1990),地質ニュース,431号,p.77-80

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