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1 はじめに
沖縄では、土産物屋で「星砂」が売られている。この星砂は、砂でもなければサンゴのかけらでもなく、実は「有孔虫」とよばれる動物の殻なのである。古生代カンブリア紀に出現し、多様な進化をとげて現在に至る。ほとんどが海生であるが、一部、汽水域に生息するものもあり、その生活様式から「底生」と「浮遊性」に分けられる。現在、生きているものは約4,000種、化石を含めると約35,000種以上が知られている。有孔虫の殻は主に炭酸カルシウムでできていて、大きさは0.1〜1mmと非常に小さい。
高等学校の地学の教科書に、探究活動として「有孔虫化石の観察」が取り上げられている。地層の堆積環境を考えるのがテーマである。有孔虫は、海洋環境の違いによって生息する種類が異なり、底生有孔虫は海底環境の情報を、浮遊性有孔虫は海洋表面の情報を記録している。殻の成分である炭酸カルシウム中の酸素原子に注目して酸素同位体比(18O/16O)を調べることにより、古水温や古塩分濃度が推定でき、気候変動と大気中の二酸化炭素濃度との関係も分かる。また、地層の対比に利用され、昔から石油探査にも役立っている。
ここでは、岩石(堆積物)から有孔虫化石を取り出す方法(硫酸ナトリウム法)について紹介する。
2 愛知県内の主な化石産地
知多半島 愛知県知多郡南知多町小佐(おざ) 砂岩脈の露頭 師崎(もろざき)層群 (新第三紀中新世) |
渥美半島 愛知県田原市高松海岸 写真右は、渥美層群田原累層豊島(としま)砂層の露頭 (第四紀更新世) 貝化石が豊富に含まれている。 (試料については、貝化石が産出するような地層のものであれば、間違いなく有孔虫も含まれている) |
3 星砂(沖縄産)の例
ビンの中に入っている有孔虫(底生)
4 小佐産有孔虫化石の例
底生有孔虫 |
浮遊性有孔虫 |
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5 豊島砂層産有孔虫化石の例
底生有孔虫 | 浮遊性有孔虫 |
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6 道具
【岩石処理に必要な道具】
試料(軟らかい砂岩・泥岩、海底の砂・泥)、無水硫酸ナトリウム、アルミ容器またはビーカー、乾燥器、ガラス棒、200メッシュ(目の大きさ0.075mm)の大型ふるい、保存容器(サンプル瓶など)
【拾い出しに必要な道具】
双眼実体顕微鏡、投光器、拾い出し用の皿、面相筆、平筆、有孔虫用スライド、水入れ、磁製平底蒸発皿、薬包紙、トラガカントゴムのり、桂皮油
※分割器 ※小型ふるい一組(ふた、42メッシュ、60メッシュ、80メッシュ、115メッシュ、底皿)
※印については、あれば便利である。
7 岩石処理方法
☆ 写真番号の順に作業を行う
写真1 野外で採集して持ち帰った岩石試料は、あらかじめ自然乾燥させておく。 写真は砂岩(小佐産) |
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写真2 岩石ニッパー |
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写真3 岩石ニッパーなどを使って、試料を1cm角くらいに細かくする。 約80gの試料をアルミ容器またはビーカーに入れる。 |
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写真4 乾燥器 |
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写真5 試料の入ったアルミ容器を乾燥器に入れ、約120℃で12時間以上かけて十分に乾燥させる。 |
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写真6 無水硫酸ナトリウム 【硫酸ナトリウム飽和水溶液の作り方】 水1リットルに無水硫酸ナトリウムを350g程度の割合で加える。 |
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写真7 乾燥器から試料を取り出し、すぐに沸騰した硫酸ナトリウム飽和水溶液を加える。試料の内部に硫酸ナトリウム飽和水溶液が十分しみ込むまでしばらく放置する(試料から細かい空気の泡が出てくるので、少なくともそれが止まるまでは放置する)。しみ込んだことを確認し、硫酸ナトリウム飽和水溶液を捨てる(ろ紙で濾せば、再利用できる)。 |
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写真8 風通しのよいところで数日間放置し、硫酸ナトリウムの白色結晶を成長させる。 結晶成長の力で、岩石は内部から壊れていく。 |
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写真9 熱湯を注ぎながらガラス棒でゆっくりかきまぜ、岩石を泥化させる。もし、岩石の塊が残っているようであれば、写真5から写真8までの作業を繰り返し行う。 (作業全般にわたって、化石を壊さないように丁寧に扱う) |
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写真10 流し 左はシリコンゴムホースのみ、右はホースにじょうろの先を取り付けてある。 |
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写真11 200メッシュの大型ふるい (ふるいの網目の部分は手で触らない) (他の試料との混合を避けるため、ふるいの使用後は、目に詰まった砂粒などを筆できれいに取り除く) |
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写真12 写真9の泥化した試料を200メッシュの大型ふるいへ移し、水洗する。 |
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写真13 200メッシュサイズ以下の粒子を洗い流し終えたら、ふるいに残った試料をアルミ容器に移す。アルミ容器内の水は、乾燥時間を短くするために、できるだけ少なくする。 |
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写真14 写真5と同様にして乾燥させる。(乾燥後の試料) |
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写真15 試料をアルミ容器(写真14)からサンプル瓶へ移して保管する。 |
8 化石の拾い出し
写真16 分割器 |
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写真17 分割器を使って試料を分割する。 薬包紙や分割器の斜面に残っている試料は、平筆(写真23)を使ってすべて流し落とす。 |
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写真18 分割器がなければ、厚紙を山折りにして置き、その上から試料を流し落として分割する。 |
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写真19 試料の量に応じて、1/2 , 1/4 , 1/8 , 1/16 , 1/32 … のように分割し、それぞれ蒸発皿に入れる。 (写真は、1/2 , 1/4 , 1/8 , 1/16 , 1/16) 1つ(一皿)の分割試料から有孔虫をすべて拾い出したとき、その数が200〜400個体になっているようにする。そのためには、試料の量が多いときは、より細かく分割する必要がある。 |
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写真20 小型ふるい一組 (上から、ふた、42メッシュ、60メッシュ、80メッシュ、115メッシュ、底皿) |
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写真21 一番少ない量の分割試料(一皿分)を一組の小型ふるいに通し、振動を与えて粒子の大きさをそろえる。 |
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写真22 一番上のふるい(42メッシュ)の試料から拾い出し皿(写真30)にまく。(砂粒どうしが重ならないように薄くまく) |
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写真23 平筆(上)と面相筆(下2本) 面相筆は、水用とのり用の2本を用意する。 |
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写真24 トラガカントゴム(粉末) 【ゴムのりの作り方】 水100ミリリットルに4g溶かし、防腐剤として桂皮油を少量加える。のりは使う分だけを小ビンにとり、残りは冷蔵庫で保管する。 |
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写真25 桂皮油(シナモン油) |
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写真26 左は、水入れ。 右は、のり入れ。 |
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写真27 双眼実体顕微鏡と投光器 |
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写真28 拾い出し皿を顕微鏡の下に置き、白線に沿って有孔虫を探す(検鏡)。 有孔虫が見付かったら面相筆を水で湿らせて拾いあげ、有孔虫スライドの中に置く。 一般的には115メッシュまで拾い出しを行う。 |
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写真29 有孔虫用スライド 有孔虫の数が全部で200〜400個体になるように拾い出しを行い、最後に底生・浮遊性それぞれの個体数を数える。 さらに分類を行い、マス目ごとに並べる。面相筆を使ってトラガカントゴムのりで固定する。 スライドには「地層名」や「採集地」、その他、例えば分割試料の1/8を検鏡したのであれば、「1/8」と記入する。 |
9 拾い出し皿の作り方
市販のものもあるが、簡単な作り方を紹介する。
写真30 シャーレとその大きさに切った黒色の紙を用意する。 紙に白インクで適当な幅の線を書き、シャーレの中に接着剤ではり付ける。 |
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写真31 市販の拾い出し皿 |
参考文献
化石研究会編 「化石の研究法 採集から最新の解析法まで」(p.63〜p.69 共立出版 2000)
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