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身の回りのプラスチックの性質

目的
 プラスチックの中で、生産量が多いのは、ポリエチレン(以下PEと略し、そのうち高密度ポリエチレンをHDPE、低密度ポリエチレンをLDPEと略す)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ペット樹脂(PET)である。これらの熱可塑性樹脂は日常的に比較的多く見かけるプラスチックで、SPIコード(図1)が付けられているものもある。これら6種類のプラスチックの簡単な性質とその見分け方を知る。

   PET          HDPE        PVC    LDPE          PP          PS
                         (図1) プラスチックのSPIコード

2 準備

器具 試験管、ピンセット、アルミニウム箔、300mlビーカー、銅線、ガスバーナー、三脚、pH試験紙、各種プラスチック製品の試料、軍手
試薬 硝酸銀水溶液、エタノール、ショ糖、モルホリン

    
3 燃焼による識別

(1) ピンセットの先にアルミニウム箔をまきつけてから、各プラスチック試料をはさみ、バーナーの炎に近づけて燃焼の様子を観察する。そのとき試料の下にはアルミニウム箔を敷き、水を入れたビーカーを置く。

各試料の燃焼性の結果を表1に示す。
         

(表1)  プラスチックの燃焼の様子

燃焼の様子
PET ススを出して融けるが、燃えにくい。甘い臭いで糸をよく引く。
HDPE 融けながらよく燃え、球状になりしたたり落ちる。ロウソク臭
PVC 炎の中で燃えるが、出すと消える。刺激臭
LDPE 融けながらよく燃え、球状になりしたたり落ちる。ロウソク臭
PP 融けながらススを出して燃え、球状になりしたたり落ちる。ロウソク臭
PS ススを出してよく燃える

4 プラスチックに含まれる塩素の検出1(Beilstein反応

(1) 銅線の先を小さく丸めて青い炎の先でしばらく焼き、炎が青緑色に着色しなくなることを確かめる。
(2) 次に各プラスチック試料に熱した銅線の先端をつけ、再び銅線を炎の中に入れる。
         

PVC製品では、銅線を加熱することにより生じた酸化銅(U)が、加熱でイオン化された塩素と反応して塩化銅(U)になるため、青緑色の炎色反応が生じるが、他の製品では炎色反応が生じない。

5 プラスチックに含まれる塩素の検出2(熱分解)

(1) 燃焼実験で刺激臭のあった試料(PVC製品)の小片を三脚にのせた金網に置き、内側を蒸留水で少しぬらしたビーカーをかぶせ、バーナーでおだやかに試料を加熱する。
(2) ビーカー内に白煙が充満したら加熱を止め,軍手をはめてビーカーを取り、ビーカー内に少量の蒸留水を加える。pH試験紙でpHを確認してから、硝酸銀水溶液を滴下する。pH試験紙は、(1)でビーカーをかぶせる際に、ビーカーの壁面に水で湿らせて貼り付けておいてもよい。

           
                                             
このうち、刺激臭のあったPVCの試料と比較のためのPET試料を金網上で燃やして、発生した気体を水に溶かした結果、PVCの方は強酸性を示し、硝酸銀水溶液で白濁する。PETはほぼ中性のままで白濁しない。これより、PVCでは燃焼により塩化水素が発生したことが確認できる。

6 密度による比較

 プラスチックの密度による識別には、ヨウ化カリウム水溶液1)や酢酸メチル2)などを用いた報告があるが、ここでは、主にエタノール水溶液を用いる。ただし、この方法は単一のプラスチックのみに限る。また、同一種類であっても、製法により重合度が異なるため、比重は多少異なる値を示すことがある(表2)。

(表2) プラスチックの密度(g/cm

HDPE 0.92〜0.93 PS 1.04〜1.06
LDPE 0.94〜0.97 PVC 1.35〜1.55
PP 0.90〜0.91 PET 1.38〜1.39

            

(1) 試験管に水、10%ショ糖溶液(密度 1.06g/cm )、50%エタノール(密度 0.92g/cm )、55%エタノール(密度 0.90g/cm )、60%エタノール(密度 0.89g/cm )をそれぞれ入れる。
(2) 水の中に各試料を入れる。PET、PVC、PSは沈み、HDPE、LDPE、PPは浮く。
(3) 水に浮いたHDPE、LDPE、PPを50%エタノールに入れる。HDPEは沈み、LDPE、PPは浮く。
(4) 次に55%エタノールにLDPE、PPを入れる。LDPEは沈み、PPは浮く。PPは60%エタノール中では沈む。
(5) 水に沈んだPET、PVC、PSを10%ショ糖溶液に入れると、PET、PVCは沈み、PSは浮く。各溶液は回収して再使用する。

以上の結果をまとめると、図2のようになる。

7  家庭用ラップの識別

 家庭用ラップとしてPE、PVC、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)が主に使用されている。PEはほとんど水分を通さないが、気体や香料などの透過度はかなり大きい。PVCは水分をよく通すが、気体を通しにくい。
PVDCは水分も気体もほとんど通さない特徴がある。この3種類のラップを識別する。
(1) 3種類のラップの引っ張り強度を比較する。
(2) Beilstein反応を行う.

結果を表3にまとめたが、この2つの方法でほぼ識別可能である。

                     (表3) 家庭用ラップの比較

ラップ  引っ張りの具合 Beilstein反応
PE さらさらした感じで密着性悪く、どの方向にもよく伸びる なし
PVC どの方向にも伸び、密着性がよい。 青緑色
PVDC どの方向にもほとんど伸びず、密着性良い。 青緑色

                  
(3) 次にPVC、PVDCを呈色反応で識別するために、試料少量を試験管に取り、モルホリン少量を加える。しばらくすると、PVCは変化しないが、PVDCは褐色を呈する。  
           PVDC  PVC                      

(注意) モルホリンは皮膚につかないように気をつける。
                         

8 参考文献
(1) 日本化学会編「実験で学ぶ化学の世界3」 p169 丸善
(2) 守本昭彦、梶山正明「化学と教育」 44巻(1996) 2号 p112


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