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牛乳の酸度測定
1 目的
牛乳が腐敗すると乳酸が増えることが知られている。したがって、牛乳を滴定し、牛乳の中の乳酸の量を定量することによって、その牛乳の新鮮度を知ることができる。
2 準備
[器 具] ビュレット(25ml)、ビーカー(50ml)、ホールピペット(20ml)、
メスフラスコ(1リットル)、pHメーター、マグネティックスターラー[薬品等] フェノールフタレイン溶液、0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液、
市販牛乳(1リットル2本)
3 実験方法
(1) | 市販の牛乳のうち、1本は冷蔵庫で冷やし、1本は室温で、放置する。 |
(2) | 冷蔵と室温の2つの試料を、それぞれ20mlホールピペットで測り、50mlビーカーにとる。 その際、この20mlの牛乳の質量を測定しておく。 |
(3) | これに蒸留水20mlを加えて希釈する。 |
(4) | ビュレットに0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液を入れ、指示薬として、フェノールフタレイン溶液を用いて滴定する。滴定中の溶液を均一にするためマグネティックスターラーを用いて滴定を進める(写真1)。 |
(5) | 滴定の終点の判断がフェノールフタレイン溶液の色の変化だけでは難しいので、pHメーターを用いた測定も行う(動画1)。 |
(6) | pH=8.5前後がこの滴定の終点であると考えてよい。pH≒8.5になるところまでの水酸化ナトリウム溶液の滴下量を求める。 |
(写真1) (動画1)
4 結果・考察
(1) 水酸化ナトリウム水溶液滴下量(ml)および牛乳の密度(g/ml)の測定結果の例 |
経過日数 | 冷蔵庫で保存 | 室温で放置(夏季) | 室温で放置(冬季) | |||
NaOHaqの 滴下量(ml) |
密度(g/ml) | NaOHaqの 滴下量(ml) |
密度(g/ml) | NaOHaqの 滴下量(ml) |
密度(g/ml) | |
当 日 | 2.8 | 1.01 | - | - | - | - |
1日後 | 2.8 | 1.01 | 3.2 | 1.02 | 3.0 | 1.02 |
4日後 | 2.9 | 1.02 | 4.3 | 1.03 | 3.6 | 1.02 |
5日後 | 3.0 | 1.03 | 9.8 | 1.03 | 4.0 | 1.02 |
6日後 | 3.0 | 1.03 | 12.2 | 1.04 | 4.4 | 1.02 |
7日後 | 3.2 | 1.03 | 14.8 | 1.03 | 5.5 | 1.02 |
(2) 室温での牛乳の状態 |
経過日数 | 状 態 |
1日後 | 変化なし |
4日後 | やや腐敗臭がする、表面にタンパク質の膜ができ、若干黄色味を帯びる |
5日後 | 腐敗臭が強くなる、白色がやや薄くなる |
6日後 | 強い腐敗臭がする、粘性が大きくなる |
7日後 | 夏季にはヨーグルト状に固まり、滴定が困難な場合もある |
(3) 酸度(%)の求め方(ここでは乳酸酸度、すなわち溶液中の乳酸の質量パーセント濃度をさす) |
保存中に牛乳内に生成した乳酸CH3CH(OH)COOHの分子量は90である。 |
牛乳中の乳酸の濃度をn(mol/l)、NaOHの滴下量をV(ml)とすると |
n = 0.1V / 20 (mol/l) となる。 |
したがって、牛乳の密度をd(g/ml)としたとき、求める酸度(%)は、 |
酸度(%) = { [(0.1V / 20)×(20 / 1000)×90] / 20d } ×100 |
= 0.045V / d (%) となる。 |
(4) 牛乳中の乳酸酸度(%) |
経過日数 | 冷蔵庫で保存 | 室温で放置(夏季) | 室温で放置(冬季) |
当 日 | 0.12 | - | - |
1日後 | 0.12 | 0.14 | 0.13 |
4日後 | 0.13 | 0.19 | 0.16 |
5日後 | 0.13 | 0.43 | 0.18 |
6日後 | 0.13 | 0.53 | 0.19 |
7日後 | 0.14 | 0.65 | 0.24 |
5 留意点
(1) | 中和点を求めるのは難しいので、あらかじめ中和点のpHの値を決めておくとよい。 |
(2) | 乳酸が増加するより先に、腐敗臭がし始める。 |
(3) | 牛乳の種類、実験する季節等により、滴定値やデータは大きく異なるので注意する。 |
6 参考
(1) | 食品衛生法では、乳酸の濃度は0.18%以下と定められている。0.20%を超えたときは酸敗しかけた(乳酸の量が増えて腐敗しかけた)牛乳である。ただし、ジャージー種の牛乳のみを原料としたものは0.20%以下である。 |
(2) | 牛乳の主な成分は、水分(約87%)、タンパク質(主にカゼイン 3〜4%)、脂質(約3〜5%)、糖分(主に乳糖 約4〜5%)、無機質(ミネラル)(約0.7〜0.8%)で、その他に、有機酸やビタミン類が含まれる。 |
(3) | 牛乳は、塩酸、硫酸、乳酸などの酸を加えた場合や、乳酸菌に代表される酸生成菌の生成した酸によっても凝固する。乳酸菌は、牛乳を酸敗し凝固させる。 |
(4) | ヨーグルトの製造は、(3)の酸凝固を利用したものである。これは、酸によって牛乳中のタンパク質であるカゼインが凝集して固まるために起こる。ヨーグルトの酸度は約0.8%で、牛乳と同様に日数の経過とともに酸度は増す。 |
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