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頭痛薬中にアセチルサリチル酸が含まれていることを確認する。また、含まれるアセチルサリチル酸を、けん化及び中和滴定によって定量する。 |
[器具] 乳鉢、乳棒、試験管、ホールピペット、ガラス管付きゴム栓、500mLビーカー、ガスバーナー、三脚、金網、スタンド、コニカルビーカー、ビュレット
[薬品] 市販の頭痛薬、炭酸水素ナトリウム水溶液、塩化鉄水溶液、0.50mol/L水酸化ナトリウム水溶液、0.50mol/L塩酸または0.25mol/L硫酸、フェノールフタレイン溶液
(1) 市販の頭痛薬に炭酸水素ナトリウム水溶液を加えると、発泡が確認された。炭酸より強い酸性を示す官能基の存在が考えられる。(図1) |
図1 炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた様子 |
図2 塩化鉄(V)水溶液を加えた様子(左:市販の頭痛薬、右:けん化後) |
(1) 市販の頭痛薬を乳鉢ですりつぶす。 |
図3 けん化の様子 |
図4 中和滴定 |
(1) けん化により、C6H4(OCOCH3)COOH + 2NaOH → C6H4(OH)COONa + CH3COONa + H2Oの反応が起こるため、アセチルサリチル酸1molに対して2molの水酸化ナトリウムが必要である。
(2) 残った水酸化ナトリウムを塩酸で中和したとき、塩基性を示す塩C6H4(OH)COONaとCH3COONaが存在するが、わずかに酸を加えることにより、フェノールフタレインの赤色は消える。よって、フェノールフタレインの変色までに要した塩酸はほとんど全てが水酸化ナトリウムの中和に使われたと考えられる。
(3) (1),(2)より、アセチルサリチル酸有りのときと無しのときとで中和に必要な塩酸の量の差は、(1)の反応に使われた水酸化ナトリウムの差と考えることができる。
(4) 実験では、アセチルサリチル酸有りのときには塩酸は3.13mL、無しのときには5.80mLを要した。その差2.67mLの塩酸に相当する水酸化ナトリウムがけん化に使われた。
(5) けん化に使われた水酸化ナトリウムは、1×0.50×2.67/1000 = 1×xより、x = 1.3×10-3 (mol) であった。
(6) 試料0.25gに含まれるアセチルサリチル酸は1.3×10-3÷2×180 = 0.12 (g) となった。含有率は48%。
(7) 実際は、1錠0.494g中、アセチルサリチル酸が0.330g含まれている。66.8%の含有率である。
(8) 含有率に差が生じた理由は、加水分解が不十分だったのではないかと考えられる。
アセチルサリチル酸と水酸化ナトリウムとの反応は、以下のとおりである。
第1段階:C6H4(OCOCH3)COOH + NaOH → C6H4(OCOCH3)COONa + H2O (中和)
第2段階:C6H4(OCOCH3)COONa + NaOH → C6H4(OH)COONa + CH3COONa (けん化)
第3段階:C6H4(OH)COONa + NaOH → C6H4(ONa)COONa + H2O (中和)
この実験では、常温では一般に第1段階の中和反応しか起こらないが、一部第2段階のけん化が起こる可能性があるため、加熱することにより完全にけん化させている。なお、サリチル酸の第二酸解離定数定数pK2が13.4であることから、本実験の条件では、第3段階の反応はほとんど起こっていないものと思われる。なお、第3段階の反応が起こり、残った水酸化ナトリウムの量が少なくなったとしても、フェノールフタレインが変色するまでに
C6H4(ONa)COONa + HCl → C6H4(OH)COONa + NaCl
の反応が起こるため、結局必要な塩酸の量は変わらない。
(1) 実験の際、以下の点に注意する。
(2) この実験教材は、高等学校学習指導要領(第2章第5節 理科)における
化学 (4)有機化合物の性質と利用 イ 有機化合物と人間生活
という項目において利用できる。
・アセチルサリチル酸の性質(アセチルサリチル酸にはけん化と中和する部分がある)
・定量実験(アセチルサリチル酸の含有量を求めることができる)
・水酸化ナトリウムの性質(水酸化ナトリウムが二酸化炭素を吸収することを実感できる))
量的計算の練習もできるよい実験である。
次の実験プリント例を活用して実験に取り組むことにより、アセチルサリチル酸の含有率を求めることができる。
また、塩酸で中和後のコニカルビーカー内に塩化鉄(V)水溶液を加えると、鮮やかな紫色に呈色するので、アセチルサリチル酸がけん化し、フェノール性ヒドロキシ基が生じたことが簡単にわかる。
実験プリント例
国立天文台編 『理科年表』 丸善出版
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