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光合成色素を用いた藻類の分類

1 目的
 一般的に緑色植物(種子植物)を材料にして行われるペーパークロマトグラフィーによる光合成色素の抽出実験を用いて,光合成色素の違いによる藻類の分類を行う。


2 準備

 (1) 材料
   ワカメ,コンブ,板のり(スサビノリ),ヒジキ,青のり(アオサ)


 (2) 溶液
   抽出溶媒 ジエチルエーテル
   展開溶媒 ヘキサン:アセトン=20:3
 ヘキサンのような無極性分子の溶媒は色素を引き上げにくく、アセトンのように極性を持つ溶媒は色素を引き上げやすい。光合成色素の場合は,分子内の極性の大きい(水溶性)のものは原点から動きにくく,逆に無極性(脂溶性)のものは前線の近くまで移動しやすい。各色素の極性が異なるため,分離したい色素に合わせて無極性の溶媒(ヘキサン)と極性分子の溶媒(アセトン)の混合比を考慮する必要がある。

 今回の実験に当たり,事前にアオサを材料にして,各色素のスポットが広がって分離するようにヘキサン:アセトンの割合を20:10から20:0まで検証した。その結果、20:3がフェオフィチン(オリーブ色)からクロロフィルb(黄緑色)までが幅広く分離でき,最適であると判断した(写真1)。

写真1(下の値は展開溶媒のヘキサン:アセトンの体積比)

 (3) 道具
   展開用試験管(太めのもの),ろ紙(18×2cm),コルク栓(吊し金つき),乳棒,乳鉢,メスピペット,ガラス毛細管
  コルク栓にクリップを伸ばしたものを通し、ろ紙を吊り下げられるようにしておくと,展開溶媒へ浸す高さの調節や終了時の引き上げなどに便利である。

3 方法
 (1) 各材料を乳鉢に入れ粉状になるまですりつぶし,抽出溶媒を入れる(コンブなどの硬い材料は,ミキサー(フードプロセッサー)などを用いて粉砕すると時間が短縮できる)。
 (2) ろ紙の下から1cmのところに鉛筆で線(原点)を入れ,ガラス毛細管で色素抽出液をろ紙の原点に色素がしっかりと染みつくように繰り返しつける。
 (3) ろ紙をコルク栓に吊るし,展開溶媒の入った試験管に入れる(図1参照)。
(図1)

 (4) ろ紙を取り出し, 展開溶媒の前線に鉛筆で線を入れる。
 (5) 分離された各色素のRf値を求め,色素の同定を行う。
 (6) 得られた色素の違いから,それぞれの藻類が,紅藻・褐藻・緑藻のいずれにあたるかを分類する。


4 結果

        
青のり(アオサ)     コンブ         ヒジキ        ワカメ      板のり(スサビノリ)

写真2 各材料を展開した結果


5 考察

色素の色やRf値を、図録に記載されている表(参考)と比較すると,それぞれの色素が以下のものであると推察される。

各色素のRf値 青のり
(アオサ)
 コンブ   ヒジキ   ワカメ  板のり
(スサビノリ)
カロテン  橙黄 0.98 0.96 0.98 0.95 0.96
フェオフィチン※1  褐〜灰 0.71 0.89 0.80 0.79
キサントフィル(ルテイン)  黄 0.58 0.76 0.80
キサントフィル(フコキサンチン)  褐 0.56 0.60
クロロフィルa  青緑 0.41 0.26 0.44 0.65
クロロフィルb  黄緑 0.25
クロロフィルc  薄緑 0.04 0.14 0.11
フィコビリン(フィコシアニン(青),フィコエリトリン(赤))※2  青と赤の混色 0〜0.13

※1 フェオフィチン・・・クロロフィルが熱・酸などに晒されて,分子内のMgが外れたもの。
※2 フィコビリン・・・シアノバクテリア・紅藻類のもつ水溶性の光合成色素。

化学的性質  光合成色素 シアノ
バクテリア
 紅藻類  ケイ藻類 褐藻類  緑藻類  種子植物
コケ・シダ 
・脂溶性
・Mgを中心金属にもつポルフィリン環に,鎖状のフィトールが結合 
 クロロフィルa  青緑  ◎ ◎  ◎  ◎  ◎ 
 クロロフィルb  黄緑         ◎ 
 クロロフィルc  薄緑     ◎     
・脂溶性
・鎖状の長い不飽和炭化水素
 カロテン  橙黄  ○ ○  ◎ 
 キサントフィル(ルテイン)  黄       ◎ 
 キサントフィル(フコキサンチン)  褐      ◎ ◎     
・水溶性
・ポルフィリン環が開いた形で,中心金属は持たない。 
 フィコビリン(フィコシアニン)  青  ◎  ○        
 フィコビリン(フィコエリトリン)  赤  ○  ◎        

(参考)改訂版 フォトサイエンス生物図録(数研出版)より  ○はその生物が持つ光合成色素(◎は主要な色素)を表す


 また、(参考)の表との比較により,

 ・青のり(アオサ)・・・クロロフィルbをもつことから、緑藻類と想定できる。

 ・コンブ、ワカメ・・・クロロフィルbとは明らかに異なるRf値を持つ緑色のスポット(0.05〜0.10付近)をもつことから,これがクロロフィルcであり,褐藻類であると考えることができる。※3

 ・板のり(スサビノリ)・・・褐色に近い色のスポットがRf値の低いところに見られるが、これは水溶性(極性分子)であるフィコビリンの2種類の色素(フィコシアニン(青色)とフィコエイトリン(赤色))が同時に存在するためではないかと考えられる。※3 したがって,紅藻類であると推察できる。


※3 クロロフィルa(C557254Mg)と比べ、クロロフィルc(C353054Mg)の方が極性が強いため,無極性に近い展開溶媒ではスポットが上昇しにくい。同様に,フィコビリンも水溶性のためスポットが原点から動きにくいと考えられる。


 図録等に記載のある色素が得られなかった材料もあるが,実験に用いた試料がスーパーの乾物売り場から購入したものであり、生の藻類を用いて追加実験を行う必要がある。特に,乾物として販売されているものは乾燥・加熱処理や天日干しによる紫外線などの影響が考えられる。特にヒジキや青のり(アオサ)で濃く見られたフェオフィチンはクロロフィルの分解産物であることからも加工に伴う光合成色素の損失は考慮する必要がある。


6 参考資料


改訂版フォトサイエンス生物図録(数研出版)
「海藻サラダ」を材料とした光合成色素の分離による系統分類の実験教材の開発(千葉県高等学校教科研究員研究報告書)



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