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カラムクロマトグラフィーによる光合成色素の分離

1 目的

 光合成色素の抽出と分離において,ペーパークロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィーは簡易で有効な方法であるが,分離した色素を回収するにあたり,回収量が少ないという問題点がある。カラムクロマトグラフィーであれば,ある程度の量の回収が見込める。今回はパスツールピペットを用いた平易な方法で,安価にカラムクロマトグラフィーを行い色素の分離・回収をすることを目指す。

2 材料・器具

材料:ツバキの葉(1枚)

器具:2mL駒込ピペット(3),乳鉢・乳棒(1),ハサミ(1),バイアル(小・ガラス)(約20),パスツールピペット(1),脱脂綿,針金,スタンド,100mLビーカー(1),スパーテル(1),ホットプレート(1)

安全のために:白衣,安全メガネ,手袋,有機溶剤を蒸発させるときは排気設備を使う

抽出溶媒:ジエチルエーテル(5〜10mL程度)

展開溶媒:石油エーテル:2−プロパノール=100:6 混合液(100mL程度)

3 方法

(1)色素の抽出

 ツバキの葉をハサミで刻み,石英砂を用いて,抽出液のジエチルエーテルを加えながら破砕する。ジエチルエーテルははじめ,2mL程度加えるが,すぐに乾燥してしまう。ある程度破砕するまでは,ジエチルエーテルを追加する必要はない。葉が抹茶のような粉末の状態になってから,ジエチルエーテルを3〜5mL追加し,乳棒で磨り潰したサンプルを押しつぶすようにして抽出する。澄んだ濃い緑色の抽出物が出た後,抽出物の上澄みをパスツールピペットでバイアル瓶に取り,ドラフター内のホットプレート上に置き乾燥させる。ホットプレートは,最低の温度(保温)にすること。できれば手で触ることができる程度の温度がよい。ドライヤーで乾燥させてもよい。あまり加熱しすぎると,抽出液の乾燥物が茶色になったり,焦げ臭いにおいになるので,やり直す。加熱により,クロロフィルが分解しフェオフィチンが増える。




(2)カラムの準備

 脱脂綿を米粒大に軟らかく丸め,パスツールピペットに詰め込む。あまり,固く詰めると展開液が落ちず実験できない。あるいは,実験時間が長くなり過ぎるので注意すること。




(3)シリカゲルの準備

 シリカゲルの粉末と展開溶媒(石油エーテル:2−プロパノール=100:6混合液)50mL程度を混ぜる。シリカゲルはすぐに沈殿してしまうが,容易にスパーテルや駒込ピペットで混合することができる。実際の使用量はシリカゲルはスパーテル2杯くらいと展開液20mL程度であるが,すぐに乾燥してしまうことや複数のカラムを作ることを考えるとその5倍程度の100mL程度のシリカゲルと展開液の混合物を用意しておくとよい。




(4)カラムへのシリカゲルの投入

 シリカゲルと展開液の混合物を駒込ピペットで投入する。脱脂綿のところに気泡が入るとカラム内の展開液が流れにくくなることがあるので,はじめに展開液を入れて気泡を流して取り除き,気泡の無い状態でシリカゲルを入れるとよい。展開液が落ち,カラムの上層のシリカゲルが乾燥し始める寸前に抽出した色素液を投入する。




(5)色素の溶解

 抽出し乾燥した色素を少量の展開液で溶かす。バイアル瓶を回し,壁面に付いた色素を溶かし出す。瓶を振り乾燥させることで濃厚な色素液を得ることができる。




(6)カラムへの色素の投入

 カラムの上層が,@乾燥してシリカゲルが粉末状になっていないか,A展開液がシリカゲルの上に残っていないかということに注意し,展開液がしみこみ,シリカゲルが乾燥し始めるときに色素を0.5mL程度投入する。色素がシリカゲルにしみ込み,シリカゲルの表面が見えてきたら,展開溶媒を静かに追加投入する。展開溶媒の重さでカラム内に色素と展開溶媒の緩やかな流れを作る。常に展開溶媒の液面が,シリカゲルの上面から2〜3cm上にあるように展開溶媒を追加投入する。パスツールピペットの下部から落ちる展開液をはじめはビーカーで受ておくこと。最初に落ちてくるカロテンは落ちるのが早いので,ビーカーの中に落としてしまわないように注意すること。




(7)色素の分離

 パスツールピペットのガラス壁面の色を見ながら,落下してくる色素のうち最も濃い部分をバイアル瓶に回収する。本実験では約20本のバイアルで回収したが,6〜7本のバイアルで全ての分離可能な色素を回収できる。




4 結果

 カロテン(@)からルテイン(A)までは,1時間程度で順調に回収できたが,移動の遅い色素を回収するには2〜3時間もしくはそれ以上の時間がかかる。全ての色素を重力のみで回収するには半日がかりの仕事になるので注意。高校の生物実験室ではCのクロロフィルbまで回収できれば十分であろう。脱脂綿を緩く詰めると色素の回収は早いが,それだけ分離も悪くなる。移動の遅い色素も全部回収したければ,後半は溶媒の高さを高くしたり,強制的に圧力をかけて溶媒を流すなどすると,とりあえずは早く回収することができる。



回収した色素と肉眼で見た色(これは主観的なもの)

@β−カロテン(黄)
Aフェオフィチン(灰色)*フェオフィチンはMgの外れたクロロフィル
Bクロロフィルa(青)
Cクロロフィルb(緑)
Dルテイン(明るい黄)
Eネオラキサンチン(明るい黄)
Fビオラキサンチン(明るい黄)※移動が遅く,カラム内に残ったため溶媒に圧をかけて強制的に落とした。


5 サンプルの保存

 回収した色素はバイアル内でよく乾燥させフタをしたうえでアルミ箔で遮光し,冷凍庫に保管すると良い。分離前の抽出原液を小分けして,乾燥したうえで保管しておくとよい。経験から2,3年以上は保存しても退色しない。エタノールを加えるなどして溶解して用いれば,様々な用途に使うことができる。


6 今後の課題

 今後の研究テーマとして考えられることを述べる。

(1)カラムクロマトグラフィ−の原理や色素の分子構造の検討
(2)分光光度計による色素の吸光スペクトルの測定とその検討
(3)クロロフィルの金属置換実験(MgをZn,Cu,Pb等に変換するなど)
(4)分離した色素の蛍光観察
(5)クロロフィル電極



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