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脱水素酵素の実験


1 はじめに

   呼吸といえば、酸素を吸収して二酸化炭素を排出するというガス交換がイメージされ、その本質である有機物が少しずつ二酸化炭素と水素に分解し、水素は酸素と反応して水となることがイメージできない。さらに、この間に少しずつ遊離する化学エネルギーが生命エネルギー物質であるATPに蓄えられる一連の化学反応であるということも理解されにくい分野である。その原因は、生体内の化学反応が直接目で見ることができないことにあり、この点が生徒にとって理解を難しくしていると言える。
   ここでは、呼吸における脱水素反応をメチレンブルーを使用することで、色の変化として示し、生徒が自分の体の中で起こっている化学反応について興味がもてるようになるきっかけとしたい。
   今回、酵素液を得るための材料として大アサリ(ウチムラサキ貝)・ダイコン・タマネギ・エノキダケ・カイワレダイコン・ドライイースト・モヤシの7つを用意した。

2 準備

    材料

大アサリ(ウチムラサキ貝) ダイコン タマネギ エノキダケ
カイワレダイコン ドライイースト モヤシ

    器具・薬品

ミキサー ツンベルク管 アスピレーター ビーカー
スポイト 駒込ピペット 温度計 ワセリン
メチレンブルー水溶液 コハク酸ナトリウム水溶液  

3 酵素液の作り方

(1) 大アサリ
(ウチムラサキ貝)
大アサリ(ウチムラサキ貝)2個分の中身をそのままミキサーにかけて得たもの。
(2) ダイコン ダイコン200gをおろし、ガーゼでろ過して得たろ液。
(3) タマネギ タマネギ半分を薄くスライスし、これに蒸留水を50mL加えてミキサーにかけ、ガーゼでろ過して得たろ液。
(4) エノキダケ エノキダケ100gを適当に切り、これに蒸留水を50mL加えてミキサーにかけ、ガーゼでろ過して得たろ液。
(5) カイワレダイコン カイワレダイコン1パック分の茎(葉と根は包丁で切り取る)に、蒸留水を50mL加えてミキサーにかけ、ガーゼでろ過して得たろ液。
(6) ドライイースト ドライイースト2.5gに、蒸留水を50mL加えてガラス棒でよくかき混ぜたもの。
(7) モヤシ モヤシ30gに、蒸留水を50mL加えてミキサーにかけ、ガーゼでろ過して得たろ液。
大アサリ(ウチムラサキ貝) ダイコン
タマネギ エノキダケ
カイワレダイコン ドライイースト
モヤシ

4 方法

(1) ツンベルク管の主室に酵素液を入れ、副室にコハク酸ナトリウム水溶液5mLを入れる。そして、副室にはメチレンブルーを1〜2滴滴下する。酵素液の量は、大アサリ(ウチムラサキ貝)以外は5mLとし、大アサリ(ウチムラサキ貝)は適当な量とした。
(2) ツンベルク管の主室に酵素液を入れ、副室に蒸留水5mLを入れる。そして、副室にはメチレンブルーを1〜2滴滴下する。酵素液の量は(1)と同様にした。
(3) アスピレーターを用いて、ツンベルク管内の空気を抜く。
(4) ツンベルク管を密閉して、副室の溶液を主室に移した後、40℃の温浴に入れる。
(5) メチレンブルーの色が脱色されていく様子を観察する。その後、ツンベルク管内に空気を入れて管を振ると、色が再び青くなることを確認する。

5 まとめ

   今回使用した材料は、スーパーなどでほぼ一年中入手することができ、しかも比較的安価なものばかりである。
   実験結果は、ダイコン、タマネギ、カイワレダイコン、モヤシは脱水素酵素の活性がかなり低く、10分の反応時間ではメチレンブルーの色の変化は観察されなかった。この実験の材料としては不適切であった。ドライイースト、大アサリ(ウチムラサキ貝)は酵素の活性が高く、10分の反応時間で十分メチレンブルーの色の変化が観察された。エノキダケは酵素の活性が比較的高く、10分の反応時間でメチレンブルーの色がかなり変化したことが観察された。そのまま反応を続けさせると、20分の反応時間でドライイースト、大アサリ(ウチムラサキ貝)と同様の結果が得られた。
ダイコン タマネギ
カイワレダイコン モヤシ
ドライイースト 大アサリ(ウチムラサキ貝)
エノキダケ エノキダケ(20分後)


   (2)で副室にコハク酸ナトリウム水溶液ではなく蒸留水を入れたのは、酵素液中にも基質が存在していることを示すためである。色の変化は、大アサリ(ウチムラサキ貝)、ドライイースト、エノキダケの順に大きく、特に大アサリ(ウチムラサキ貝)では色の変化は大きかった。この結果から、酵素液中にも基質が存在していることが確かめられた。


大アサリ(ウチムラサキ貝) ドライイースト
エノキダケ


   コハク酸脱水素酵素は基質であるコハク酸から水素を奪い、これを水素受容体である酸化型メチレンブルーに与える。その結果、酸化型メチレンブルーは還元型メチレンブルーに変化し、反応液の色は青色から無色となる。
   コハク酸脱水素酵素の働きによって青色の酸化型メチレンブルーが無色の還元型メチレンブルーになった後、ツンベルク管の副室を回して空気を入れてから管を振ると、空気中の酸素によって還元型メチレンブルーが酸化型メチレンブルーに変化し、反応液の色は無色から青色に戻る。
ドライイースト  大アサリ(ウチムラサキ貝)


6 留意点

   酵素液は、コハク酸脱水素酵素以外にもいろいろな酵素を含んでいるが、基質として与えられているのがコハク酸ナトリウムであるので、この化学反応はコハク酸脱水素酵素の働きによるものであると言える。
   還元型メチレンブルーは、酸素があるとすぐに水素を切り離して酸化型メチレンブルーに戻ってしまうため、ツンベルク管内に空気が残っていると、反応液の色が青色から無色になるまでに時間がかかってしまう。したがって、それを防ぐためにはアスピレーターで十分に減圧しておく必要がある。また、ツンベルク管の主室と副室の接合部にはワセリンを多めに塗って、ツンベルク管の気密性を高くすることも重要である。

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