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 DNAの抽出実験

1 目的

 最近は、自然科学の内容、ヒトの体などを取り上げたテレビ番組も多く、生徒からもよく質問を受ける。 その中でも「ヒトの性格って遺伝子によって決まるの?」「遺伝子組み換え作物って体に悪いの?」といった遺伝子に関する話題も多く、 生徒が非常に興味を持っている分野であると感じている。
 生徒の多くは、遺伝子の本体であるDNAに対して、「目で見ることができない小さなもの」「難しいもの」というイメージを持っているようだが、 DNAは簡単に抽出できるので、実際に自分の目で見ることが可能である。
 今回実験に用いたエタノール沈殿法は、DNAが塩水に溶解しやすく、エタノールに溶解しにくいという性質を利用した抽出法である。 鳥レバー、白子、タマネギ、ブロッコリーなど様々な材料からのDNAの抽出が可能であるが、今回は、安価で入手しやすいタマネギを用いることとした。 さらに、タマネギなどの植物細胞はタンパク質含量が小さいため、タンパク質除去をする必要もなく操作が短縮できる。 


2 準備


(図1)実験で使用する材料・器具


(1) 材料
 
タマネギ
 
(2) 器具
ビーカー、ミキサー、台所用洗剤、ガーゼ、メスシリンダー、メスピペット


(3) 薬品
塩化ナトリウム、冷エタノール(予め冷凍庫で冷やしておく)




3 実験手順

(1) タマネギ半個のうち内側の1/2のみを使用する。
 タマネギ、水30mL、台所用洗剤数滴を、30秒から1分間程度ミキサーにかける。


(2) 液をビーカーに移し、5g程度の塩化ナトリウムを加え、ガラス棒で静かに攪拌するとどろっとした状態になる。(図2)


(3) ガーゼを二重にしてろ過する。(図3)


(4) ろ液の約2倍量の冷エタノールをビーカーの壁伝いに静かに注ぐ。(図4)


(図2)塩化ナトリウムを加え撹拌 (図3)ガーゼを用いてろ過 (図4)エタノールを注ぐ



(5) ビーカーを揺するとエタノール層に白くふわふわしたものが浮いてくる。これがDNAである。(図5)

  

(6) ガラス棒でDNAを巻き取る。(図6)
(図5)糸状に浮いているのがDNA (図6)ガラス棒に巻き取られたDNA




 

4 実験上の注意・補足

・DNAは長鎖状であるため、物理的刺激によって切断しやすい。塩化ナトリウムを加えた後は静かに撹拌すること。
 またガラス棒で巻き取る時にも、何回もかき回していると切断され、巻き取ることが出来なくなるので注意が必要である。
・DNAは1〜2Mの塩化ナトリウム溶液に溶解しやすいので、ろ液に対し、この濃度になるように塩化ナトリウムを加える。
・細胞中にはDNA分解酵素が含まれているため、エタノールを加えるまでの操作は手早く行うこと。
・台所用洗剤には界面活性剤が含まれている。これは。細胞膜を破壊する働きとタンパク質を破壊する働きがある。
・ろ紙を用いてろ過を行うと、すぐに目がつまってしまう。  この実験ではガーゼで十分である。
・DNAは低温の方が、エタノールに対する溶解度が小さいため、冷凍庫で冷やしておく。
・エタノールを注ぐと、DNAは比重が小さいため、エタノール層に浮いてくる。タンパク質は比重が大きいため、浮いてこない。

   

5 考察

 この実験を行った生徒たちは、DNAが非常に簡単に抽出できることに驚いており、 「見ることができない小さなもの」「難しいもの」というイメージであったDNAを、 実際に自分の目で見ることができたことに非常に感動していた。
 また、この実験は操作が簡単であるため、50分の授業時間内で余裕を持って行うことができる。 また、この分量で実験を行うと、DNA沈殿の量も多いので見応えがあるが、もっと少ない分量で実験を行うことも可能である。
 最後に、実験レポートの感想を紹介する。
 「すごく楽しい実験でした。はじめ遺伝子(DNA)を取り出すって聞いたときは、「遺伝子(DNA)って何で取り出せるの」って驚きました。 実験してみて、エタノールを入れて置いておいたら遺伝子(DNA)が出てきてすくうのに苦労しました。 遺伝子は糸状でした。今度もしこの実験をやるなら自分の遺伝子(DNA)が見てみたいです。」
 「自分の体にもあんな仕組みがあると思うとちょっと変な感じです。見るのが恐いけど見てみたいです。」
 「DNAが簡単にとれたのがすごかった。」

6 授業での活用例

  この実験では溶液とエタノールの境界面に白い糸状のDNAが出現するのを確認する所で終わるのが一般的である。
  そこで、その後の活動例を次に挙げる。

  (1)出現した糸状の物質がDNAであることを確かめる
   さまざまな物質の染色液を用意し、その中から目的にあった染色液を選択させる。

  (2)純度の高いDNAを得るための実験試料の選択
    どのような試料を用いればより多くのDNAを取り出せるか、各自案を出して実践してみる。
    その際、なぜその試料を用いたのか、仮説を明確にしておき結果と比較して考察する。
    例:タンパク質含量のより少ないものや細胞質に対する核の割合の大きな細胞を多く含む試料

  (3)実験操作の工夫
    実験で用いた薬品(塩化ナトリウムやエタノール)や操作の目的を把握した上で、
    「どうすればもっとDNAを多く取り出せるか」を考えさせる。
    例:試料をすりつぶす際の温度、塩化ナトリウムに加えてからの時間など


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