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ヒトの平衡感覚と反射(その1)
前庭の平衡覚の実験

1 目的

 ヒトのもつ感覚のうち、平衡感覚は体を常にバランスよく保つために非常に重要な働きを果たしている。ヒトを含む多くの脊椎動物では、平衡感覚は、内耳の平衡器官、すなわち前庭のうと半規管とからなる受容器によって知覚される。
 前庭のう内部には平衡砂(石)が存在している。頭部が傾くと、平衡砂(石)が重力のかかる方向へ感覚上皮を圧迫する。その圧刺激を仲立ちとして、上下や前後への直線運動の知覚が行われる。
 高等動物では、平衡感覚は、姿勢保持のために常に脳と作動器との間でフィードバックが起こっており、この作用は、姿勢反射の形で観察される。姿勢反射は、体をできるだけ一定の位置にとどめようとする反射運動であるが、平衡感覚の性質上、鋭敏ではない。したがって、視覚あるいは聴覚による補助が必要であることから、姿勢反射は複合的な反射運動であるといえる。
 以上のことから、姿勢反射を検証する(具体的には直立姿勢をとらせる)場合、視覚と聴覚を取り去ることによって平衡感覚のみを検証することが可能である。平衡感覚を最も簡単に測定するには、直立姿勢における反射(直立反射)を調べる方法が適当であるので、ここではその簡便な検証法を紹介する。
   
(図1)ヒトの平衡器官の模式図(前庭・内耳)



 
2 準備
(図2)実験手順


 

・サインペン(できるだけ太字のものがよい)
・目隠し用の布
・測定用紙(画用紙で可)

 
3 実験手順 (図2)


(1) 被験者(グループ内の誰でもよい)に目隠しをし、サインペンを上を向くように額のところの布にはさみこんでおく。


(2) 被験者を直立させ、サインペンの先が当たるように、頭上に測定用紙を水平にかざす(測定用紙は、板などに貼り付けておくとよい)。


(3) そのまま数分間直立姿勢を保持し、頭部の水平位置の変化を記録する(位置の変化はサインペンの軌跡として記録用紙上に記録される)。


(4) 記録用紙上に描かれたサインペンの軌跡から、被験者の姿勢反射(倒れようとするのを、両足における脊髄反射によって判断し、補正しようとする作用)を観察することができる。





4 結果・考察


 結果としては、どのサインペンの軌跡も時間の変化とともにランダムに揺れ動いていくことが観察される。この理由としては、以下のようなことが考えられる。
 平衡感覚は、体(特に頭部)の傾きを感受するものであるが、平衡感覚器は前庭のうにしろ、半規管にしろ、それ自体が物理的な刺激を感受する感覚器であるために、それを補助するために視覚等の他の感覚の情報を必要とする。これらの感覚の情報を統括する中枢が小脳である。小脳は、平衡感覚と視覚の情報を複合的に処理したうえで、正常な働きを行う。そのため、本実験のように目隠しをして視覚を閉ざしてしまうと、感覚の情報が不足するために小脳による姿勢保持がうまく作用しなくなり、ふらつくようになるのである。
 以上の働きは個人差が大きいものなので、各グループで比較するによって、より一層の理解が進むことが期待される。



(図3)実際の実験風景

(図4)記録その1

(図5)記録その2

 
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