ヒトの平衡感覚と反射(その2)
半規管(回転覚)の平衡の実験
1 目的
ヒトのもつ感覚のうち、平衡感覚は体を常にバランスよく保つために非常に重要な働きを果たしている。ヒトを含む多くの脊椎動物では、平衡感覚は、内耳の平衡器官、すなわち前庭のうと半規管とからなる受容器によって知覚される。
半規管は互いに垂直に交差する三つの部分からなる。半規管内にはリンパ液が満たされており、これが回転運動によって流動し内部の感覚上皮を圧迫する。この圧刺激によって生じる回転運動覚は、半規管の構造全体で三次元的に感受されるので、空間内のあらゆる方向の回転運動が知覚される。
このことから、回転運動覚を検証するために、回転イスに座ったヒトを様々の条件で回転させ、その後、測定用紙上に点線を書かせ、半規管内のリンパ液の動きを推測してみる。
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(図1)ヒトの平衡器官の模式図(半規管・内耳)
2 準備
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(図2)実験手順
・サインペン(できるだけ太字のものがよい)
・目隠し用の布
・測定用紙(画用紙で可)
・回転いす
3 実験手順 (図2)
(1) 被験者を、机に向かって正しい位置に回転いすに座らせる。机の上に測定用紙を置き、測定を始める前に用紙の中央にサインペンで点線を引く(この点線を基準線とする)。
(2) 被験者に目隠しをし、そのままの姿勢で回転いすを一定時間内に一定数だけ回転させた後、机に向かって正しい位置に向かせる(被験者のそばに、サポート役の人を一人立たせておくとよい)。
(3) 測定用紙の基準線のとなりに、(1)と同様に点線を書き加える。書き加えた点線と基準線を比較して、平衡感覚の混乱の程度を検討する。
(4) 右回転と左回転の場合、および10秒間で2回転させた場合と20秒間で2回転させた場合とについて結果を比較する。
(5) 同様に回転刺激を与えた後、点線を連続的に書かせる。回転直後のときの変化と、次第に弱まっていく間の変化をそれぞれ測定する。
4 結果・考察
10秒間で2回転させた場合では、右回転を行うと点線は右に偏り、左回転を行うと点線は左に偏るものと予想される。一方、20秒間で2回転させた場合では、回転直後に書かせた点線の方向が10秒間で2回転させた場合の逆となり、その後時間の経過とともに順次回転の方向に偏るようになるものと予想される。
このように強い回転の刺激を与えた際に、刺激と反対方向に反応が生じるのは、慣性により体の運動が停止した後でも半規管内ではなおリンパ液が流動し続けるためであり、その結果、運動が停止したにもかかわらず感覚上皮が刺激され続けるためであると予想される。さらに慣性によるリンパ液の流動の方向は、運動の停止前後では、見かけ上もとの流動と反対方向になるであろうから、平衡感覚を知覚する際に反対の方向へ錯覚するのである。
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(図3)10秒間で2回右回転
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(図4)20秒間で2回右回転
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(図5)10秒間で2回左回転
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(図6)20秒間で2回左回転