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1 目的
ウミホタルの発光現象を観察し、酵素反応のしくみを考えてみよう.
2 準備
(1) 材料 |
(1)乾燥ウミホタル200mgを乳鉢ですりつぶす。 | |
(2)試験管Aに蒸留水3mLを入れ、すりつぶした乾燥ウミホタルの3分の1を加え、暗所で振とう撹拌しながら発光の様子を観察する。 問:発光の有無、光の色、発熱の有無はどうか。 |
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(3) 試験管Bに蒸留水3mLを入れ、ガスバーナー又はアルコールランプで充分加熱する。次に、乾燥ウミホタルの粉末3分の1を加え、暗所で振とう撹拌しながら発光の様子を観察する。 問:発光の有無、光の色、発熱の有無はどうか。 (4)(2)で発光の終了した液(試験管Aの液)を、室温にまでさました(3)の試験管Bに加え、発光の様子を観察する。 問:発光の有無、光の色、発熱の有無はどうか。 |
(5)ツンベルク管の主室にすりつぶした乾燥ウミホタルの3分の1を入れる。 副室に蒸留水3mLを入れて真空ポンプで充分に排気する。排気すると副室から気泡が発生する。気泡が発生しなくなったら排気完了である。その際、副室の蒸留水が主室に入らないように気をつける。(少し傾けて排気するとよい。)また、主室および副室を手のひらで温めながら排気すると効果的である。排気後、副室を180度回転させることで密閉し、副室の蒸留水を主室に流し入れ暗所で振とう撹拌しながら発光の様子を観察する。 |
4 結果
(1) ウミホタルの発光に必要な条件は、発光物質(基質)であるルシフェリン、酵素であるルシフェラーゼ及び酸素である。
(2) 実験手順(2)試験管Aでは、発光の条件がすべて揃うので発光する。色は青白色(460 nmの波長が中心)である。反応により生じた化学エネルギーの約97%が光エネルギーに変換されるので、熱の発生はほとんどない(冷光)。
(3) 実験手順(3)試験管Bでは、ウミホタルの粉末中に含まれる酵素(ルシフェラーゼ)〔主成分はタンパク質〕が加熱処理により熱変性し失活するため酵素反応が進まず発光はおこらない。
(4)実験手順(4)では、試験管A中には基質(ルシフェリン)は酵素反応により消費されており存在しないが、触媒である酵素(ルシフェラーゼ)は反応後もそのまま残存している。試験管B中の酵素(ルシフェラーゼ)は加熱処理により失活しているが、基質(ルシフェリン)は残存している。したがって、AとBの液を混合すれば、B液中の基質(ルシフェリン)とA液中の酵素(ルシフェラーゼ)が出会い、液中に酸素も存在するため反応が進み、発光がおこる。
(5) 実験手順(5)では、基質(ルシフェリン)、酵素(ルシフェラーゼ)はそろうが、排気により酸素が供給されないため、酵素反応が進まず発光しない。
(6) 実験手順(6)では、(5)に通気することで酸素が供給され条件がそろい発光する。特に、主室の液面付近で発光が著しい。
以上の実験をまとめると次のようになる。
5 参考資料
ウミホタル(Virgule hilgendorfii)は、全長約2〜3oの節足動物甲殻類貝虫目ウミホタル科に属する海産の無脊椎動物である。殻は左右に分かれていて下側が開いて脚をだすことができる。ウミホタルでは、体外の海水中に放出された基質(ルシフェリン)が、酵素(ルシフェラーゼ)の作用によって酸化され、その時発生した化学エネルギーにより発光する。(日本産ウミホタルでは青白く発光するが、ジャマイカ産では黄色に発光するらしい。)発光物質(基質)であるルシフェリンは熱に強いが、酵素ルシフェラーゼは熱に弱い。発光効率は約97%と地球上で最も高効率の光エネルギ−変換系であり、熱の発生もほとんどないため、発する光を冷光と呼んでいる。 実験で用いた乾燥ウミホタルは、湿ると発光反応が進むので、長期間保存する必要がある場合には、デシケーターや冷蔵庫などの中で保存する必要がある。
写真で見える黄色い部分とその周囲にある分泌線をまとめて上唇腺と呼んでいる。 外からルシフェリンの黄色が観察できるが、発光して消費してしまうと黄色がうすくなる。基質(ルシフェリン)も酵素(ルシフェラーゼ)もこの上唇腺に含まれているがともに別々の管からルシフェリンとルシフェラーゼを放出し、この両者が海水中で混合して青白色(460nm)に発光する。メスでは、背中の後部に育房があり卵を抱く様子が観察できる。卵はここで孵化し保育される(卵胎生)。幼体のウミホタルは母親の背甲から放出された直後に遊泳を開始する。その後、数回の脱皮を経て成体となる。 |
ウミホタルは夜行性で昼間は深さ1〜3mくらいの海底の砂中にもぐっている。日没後に砂の中から出て泳ぎ出し、エサを探す。エサはゴカイ、魚やさまざまな生物の死骸などである。繁殖時期は春から秋にかけてであるが、最盛期は7〜8月頃である。
ウミホタルは以上のように細胞外発光を行い、ルシフェリンやルシフェラーゼは体外に放出される。一方、ホタルは細胞内発光を行い、発光時にはATPを消費する。また、ウミホタルとホタルのルシフェリンとルシフェラ−ゼは全く違う物質である。
ウミホタルは強い光に対して負の走光性を示す。これは敵におそわれた時多量の発光物質を分泌して発光し敵をおどかしその隙ににげるためである。また、同時に仲間のウミホタルに対しての危険信号となる。一方、非常に弱い光に対しては正の走光性を示す。オスのウミホタルは求愛の際、光を放ちながら螺旋を描いて海面近くから降りていくそうである。
6 参考文献
遺伝Vol.54(No.3)
遺伝Vol.50(No.11)
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