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ブタの眼球の観察

1 目的

実習風景

 動物は、えさを見つけたり敵から逃れたり、生活に適した環境をさがしたりするために外界の様子を知る必要がある。高等動物になるにつれて感覚のための特別な器官が備わり、鋭敏な感覚のしくみをもつようになる。中でも眼は動物にとって重要な感覚器官である。
 眼球の構造を調べる実習として、以前はウシの眼球が用いられていたが、「牛海綿状脳症(BSE)」のヒトへの感染の恐れから現在ではウシの眼球を使用することは不可能になった。このため、代わりにブタの眼球を用いて生徒実習を行ってみた。

    

2 準備

 ブタの眼球(写真1)…できるだけ直前(前日)に摘出したものを取り寄せるとよい。
 解剖はさみ、安全カミソリ(メス)、ピンセット、解剖皿、ゴム製の板(解剖皿の中に入れ、この上で作業する)
 ビニール製手袋(写真2:ほとんどの生徒は素手で操作するのを嫌がるので使用させる。さらに終了後にしっかり手を洗うよう指示する)

      

      
(写真1)ブタの眼球 (写真2)解剖皿、ハサミ、手袋

3 実験手順

(写真3)ハサミで切り取る (写真4)眼球の外形
(写真5)悪い切り方(これでは手を切る) (写真6)切込みを入れる
(写真7)手の上にガラス体 (写真8)前半球と後半球

(1)まぶた、脂肪・筋組織の除去


 眼球の周りには、まぶた、筋肉、脂肪組織等が付いたままなのでハサミを使ってきれいに取り除く(写真3)。視神経束は切り取らないよう注意する。強膜は丈夫なので横からハサミで切るくらいでは傷つかない。かなり思いきって切っても大丈夫である



(2)外形の観察


 眼球の全体像をスケッチする(写真4)。



(3)内部構造の観察


(ア) 眼球を輪切りにする


 安全カミソリの刃を用いて眼球の側面に切り込みを入れる。眼球の外側の強膜は丈夫なので簡単には切れない。カミソリを使わないほうの手で眼球をしっかり持って中のガラス体がもれ出てくるまで切り込む(写真5,6)。切り込みが入ったら、ハサミで前半球と後半球を輪切りにする。その後、視神経束の部分を持って後半部を引き離す。


(イ) ガラス体の観察


 切断すると透明なゲル状のガラス体が出てくる(前半球)。ウシのものと比べてやわらかく、卵白より多少硬いくらいである。このため、あわてて取り出すとくずれてしまう。指先を使って前半球の底の部分からゆっくりはがすようにすると取り出しやすい。この操作は素手で行うほうがうまくいくようである。うまく取り出すと、手のひらの上などでゆすってゼリー状(ゲル状)であることが確認できる(写真7)。


(ウ) 後半球の観察(写真9)


・後半球の内部にやや白濁色の膜がある。これが網膜である。
血管が分布していて十分な栄養分や酸素を必要としている。

・網膜をはがすと、黒い色素の層がある。この層により、眼球の内部を暗黒にして乱反射を防いでいる。さらにこの下に脈絡膜がある。

・網膜をはがしていくと一本の束状になり、後半球の一点に結合している。網膜から伸びた視神経はここで束ねられ、網膜を抜け(盲班)、眼球の外へ抜けていく。


(エ) 前半球の観察(写真10)


・前半球を外側から見ると、透明な角膜があり、その内側にこう彩が見え、こう彩の内側から光が通り、明るく見える。この明るい部分が瞳孔であり、眼球の内部が暗黒のため、普段は黒く見える。

・前半球(ガラス体をはずした後)を裏側から見ると、透明の水晶体が見える。ウシのものよりやわらかく、指先を使ってゆっくりはがすようにするときれいに取り出せる(写真11)。水晶体を触ると弾力があり、球状ではなくレンズの形をしている。水晶体を活字の上に乗せると、その下の字が拡大されることから水晶体が凸レンズであることが分かる(写真12)。

・水晶体をはずした後には放射状で繊維状の構造(黒いもの)が見られ、レンズを伸縮させている(写真13)。


(写真9)後半球 網膜が見える (写真10)前半球 水晶体が見える
(写真11)水晶体 (写真12)下の字が拡大されて見える(写真13)水晶体をはずした後




4 実施上の注意点

・ブタの眼球を使用することからBSEの危険はないといっても、「なまもの」を扱う以上は、手洗いをはじめ、清潔に扱うことを常に注意して行わせる必要がある。最近の生徒はこういう解剖実習の経験が少ないのか、実習は「気持ち悪い」という反応と悲鳴の中でスタートする。手袋を用意しておけば、生徒はほとんど手袋を使用するが、たまに素手で扱う強者も出てくるので、清潔に丁寧に扱うよう指導する。
・操作そのものは2人1組でできるのだが、文科系のクラスで実習する場合など、眼球を直視すらできない生徒も出てくるので、班の人数を多め(4人くらい)にして行うと比較的スムーズに行えるようである。
・カミソリで切込みを入れるときは、眼球をしっかり固定していないと滑りやすい。筋肉や脂肪組織を取り除く段階で表面の膜構造も取り除いておいたほうがよい。適度な緊張感をもたせ、カミソリによるけがに十分注意する
・眼球が前半球と後半球に分かれると、このあたりから「気持ち悪い」という印象がだんだんと薄れてくるようである。ガラス体の摘出・水晶体の摘出、網膜をはがしてみるなど、生徒も意欲的に取り組むようになってくる。真剣にやるのは良いのだが、「命の尊さ」を敬う気持ちをもって実習をするようにもっていきたい。悪乗りして残虐な行為に走るとか、ハサミやカミソリを振り回すといったことがないように指導する必要がある。



5 その他

 用意するブタの眼球はできるだけ新鮮なものが良いので、屠殺場などに事前に依頼して、実験の前日の夕方にその日摘出した眼球が届いているようにする。これを準備室の冷蔵庫で実習直前まで保管するというのがベストであると思う。したがって複数クラスでこの実習を行う場合は、実習日程を事前にしっかり決め、用意した眼球はその日に使い切るようにするとよい。

 衛生上、実習が終わったら、それぞれの器具をしっかり水洗いするのだが、次の実習が始まるときに器具が濡れているとか、においが残っているなどで実習の操作をやりたがらなくなる生徒が目立つ。実習と実習の間をできるだけ空けて、器具が乾燥してから次の実習を迎えるようにするとよい(多くて1日に3回くらい)。


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