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バッタの血球の食作用の観察

1 目的

   昆虫類は脊椎動物のような抗原抗体反応による特異性の高い免疫機構を持たないが、血球による生得的で特異性の低い細胞性免疫の機構を持っている。バッタの仲間の体液を用いて、血球の食作用のようすを観察する。


2 準備

   大きめのバッタの仲間(コオロギ、イナゴ、ショウリョウバッタなど)、小形の注射器、カミソリ、薄めた墨汁、顕微鏡、スライドガラス、カバーガラス
 ※(固定、染色する場合)ピペット、スポイト、メタノール、ギムザ液


3 方法

(1)    バッタの腹部に注射器を用いて墨汁を約0.1mL注射する。  
      
     動かないように体の側面をおさえる(コオロギ)  腹部に墨汁を注射する(オンブバッタ)
     
     墨汁を注射して黒くなった腹部(オンブバッタ)  
(2)    24時間後にカミソリの刃でバッタの後肢を切断し、切り口をスライドグラスの表面に押しつける。  
     
(3)    カバーガラスをかけ、顕微鏡で観察する。  
  (4)   染色をする場合
  ア 乾燥させた後、メタノールを数滴落として数分間放置する。
  イ 水で20倍程度に薄めたギムザ液を滴下し約15分染色する。
  ウ 軽く水洗いし、乾燥後顕微鏡で観察する。  
     


4 結果

 
   墨汁を取り込んだ血球(無染色・オンブバッタ))    墨汁を取り囲む血球(ギムザ染色・コオロギ))


5 留意点

(1)  注射器は慎重に扱い、針先でけがをしないように注意する。  
  (2)  墨汁が濃すぎると体液中の墨汁の粒子が多すぎて観察しづらくなる。また注射する量が多すぎると、24時間後には死んでしまうので注意する。
  (3)  注射して1日経過するとかなりの血球で墨汁を取り込む様子がみられるが、注射後30分位から墨汁を取り込む血球が徐々に観察されはじめる。
  (4)  染色の際にはメタノール等の薬品の取り扱いに注意をする。
  (5)  昆虫は胸部と腹部に並んだ気門という穴で呼吸をしている。酸素は、気門から気管という管によって体の隅々に直接運ばれる。したがって昆虫の血球は、赤血球、白血球の分化がみられず、おおむね白血球に近い血球からなる。昆虫類の血球は数種類存在し、主なものでは、原白血球、プラズマ細胞、顆粒細胞、小球細胞などが知られている。その中で食作用に関与する血球がプラズマ細胞と顆粒細胞といわれている。プラズマ細胞は紡錘形で顆粒細胞は球形であるから今回観察されたものは顆粒細胞であると思われる。
 多くの血球を観察できれば、墨汁を注射した食作用の観察だけでなく、昆虫類の血球の種類を調べ、脊椎動物の血球との相違を比較する学習にも今回の観察は有効である。、
  (6)  脊椎動物の場合、血液を組織液やリンパ液と区別するが、昆虫類の血管系は開放血管系であるため、血液と組織液の区別がなく正式には血液と呼ばずに血リンパと呼ばれている。


6 参考文献

生物基礎 東京書籍(教科書)


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