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腎臓の血管標本の作成

1 目的
  本実験は腎臓の学習を一通り終えた生徒が,実際の腎臓がどのような構造をし,腎動脈,腎静脈といった血管が腎臓の内部でどのように繋がっているか,血流の向きや広がりがどうなっているのかを視角的に見て理解するとともに,人体のシンプルで美しい構造を知る。

写真1
 腎動脈の枝に糸球体が連なる様子。墨液を腎動脈に注入し,カミソリで約0.5mm厚の組織切片を作製し,検鏡したもの。薄片であるため,一本の血管につながる薄い層にある組織しか写っていない。(画面で約120倍)
写真2
 腎動脈の枝を赤く着色したシリコンゴムで置き換えた血管標本を水で封入して検境したもの。実際は5mm程度の厚さの組織に広がる血管を潰して撮影している。糸球体にシリコンゴムは入ってないため,取り出せていない。(画面で約120倍)

2 準備
  ブタの腎臓
  シリコンコーキング剤(白色,無色)とガン(押し出し器具),キシレン(コーキング剤の溶剤として用いる),アクリル絵の具(赤,青など),水酸化ナトリウム,紙コップ,攪拌のための棒(割り箸などで可),シリンジ,ビーカー(2L)

3 腎臓の処理
  腎臓は腎細管や,腎動脈,腎静脈ができるだけ付いたものを求めること。食用の処理がなされると,表面の膜や脂肪類,付属する腎細管や血管類が腎盂近くから切除されるので,精肉店や肉問屋に直接依頼すると良い。また,腎臓に刃物で傷が付くとコーキング剤が漏れ出すので,完全な形で入手するのがよい。

4 シリコンコーキング剤の準備
  コーキング剤をガンを使って,目測で100mL程度紙コップに取り,キシレンを20mL程度加え,割り箸などを使ってよく混合する。ダマがなくなり,垂らしたときに細く糸を引く程度の粘度が使いやすい。



5 観察と実験
(1)腎膜の剥離と輸尿管の確認
  表面を覆う腎膜は腎臓の皮質の様子が分かりにくいので剥がしておく。また,後で水酸化ナトリウム処理をしやすくする。輸尿管は直径1cm程度の白色の壁の厚い太い管である。シリンジを差し込むと直径2cm程度まで太くなる。


(2)腎動脈,腎静脈の確認
  腎動脈は直径2mm程度のしっかりした血管である。腎臓の外3cm程度の所で二又に分かれ,腎臓内部に入る。腎臓内部でさらに枝分かれし,腎皮質に向かって放射状に広がっている。腎動脈にインクか墨をごく少量注入することで,血管を染めることができ,後にシリコンの注入をしやすくなる。また,薄い墨液を20mL程度注入することで,腎皮質までそれが行き渡り,糸球体やそれに続く毛細血管を染色することができる。(巻頭の写真1)
 腎静脈は腎臓の外では腎動脈より壁面が薄い太い血管となっている。ただし,動脈同様にY字型に枝分かれし,区別が難しい。腎動脈と腎静脈では各々が腎臓の外でY字に枝分かれするが,分岐後の上の血管が腎臓に入る位置が上にあるのが腎動脈である。分かりにくいので,墨液を注入してみて,切片を作り糸球体が見られたら腎動脈である。腎静脈側に墨液を入れてもなかなか糸球体まで届かない。



(3)シリコンコーキングの腎動脈への注入
  墨液で血管の入り口を確認した後,シリコンをシリンジに取り,腎動脈に注入する。腎臓は脂肪やコーキング剤のため,ヌルヌルしてつかみにくいので雑巾や軍手などを使ってコーキング剤を拭き取りながら行うと良い。腎臓をもみながら,ゆっくりと注入する。上部の腎動脈だけで約10mL以上入る。
 アクリル絵の具を使ってシリコンコーキング剤を染め分けておくと良い。3色あれば,腎動脈,腎静脈,輸尿管(腎盂)を染め分けることができる。


(4)シリコンコーキングの輸尿管への注入
 腎動脈同様に輸尿管に色を変えたコーキング剤を注入する。腎盂には20mL以上入るが,輸尿管は太いので逆流し易く,無理に入れるとパンクするので注意すること。


(5)腎静脈にも色を変えて注入することができるが,腎動脈と腎静脈の組み合わせか,腎動脈と輸尿管(腎盂)の組み合わせで行うのが適当のようだ。それだけ大量のコーキング剤を腎臓に注入することができないためである。

(6)固化時間は24時間,有機溶剤(キシレン)が加わったため腐らず虫も寄りつかないため,風通しの良いところに置く。冷蔵庫に入れるとキシレンやコーキング剤の匂いが充満するので注意が必要である。

(7)タンパク質の溶出
 約5gの水酸化ナトリウムを約1Lの水で溶解し,腎臓を入れて煮詰める。ニワトリの心臓などの小さな材料を使うときはペプシンなどの酵素で安全にタンパク質を溶かすことができるが,時間がかかる(約2日)。ブタの腎臓は大きいため,水酸化ナトリウムを用いるのがよい。大変危険なので,教員が常時付いている必要がある。今回は30分~1時間弱火で煮詰めて室内の安全な場所に半日から1日放置することを繰り返し,2回,3回と煮詰めることでゆっくり行った。


(8)水酸化ナトリウム処理後
  若干タンパク質が残っている。赤が腎動脈で水色が腎盂である。輸尿管にシリコンを注入するが、腎盂には腎臓が膨らむほどかなりの量のシリコンが入った。腎細管にまでシリコンを注入することは困難であった。

(9)顕微鏡観察
  ア 腎動脈のプレパラート
 スライドガラスにシリコン標本を少量だけ切り取り,水をたらし,カバーガラスをして検鏡する。シリコン標本はきれいにタンパク質を除去し、食塩や防腐剤等を入れた水中で保存することができる。乾燥させない方が扱いやすい。



  イ 腎動脈の様子
 腎動脈に白色のシリコンを注入した例、シリコンを糸球体まで注入するのは困難であった。画面上で約20倍である。

 

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