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果実の観察

写真1 イチジクの果実

 イチジクの果実の中には,針状の毛のような果肉がある。
 食べると口の中でぷつぷつと当たるものがあり,それが,胚珠であり,種子である。
 イチジクは「無花果」と書かれるが,花が無いわけではなく花床の部分に沢山の花が沈みこみ,包み込まれて花が見えないのだ。
 「無花果」の中にある「花」を探してみよう。
 実体顕微鏡下での観察を勧める。

写真2 イチジクの花

 イチジクの果実は沢山の花を内部に隠している。内部は全体が軟らかく,ぷつぷつした胚珠や種子の部分を含むように多めに果肉を取り出し,水中で洗いながら花を取り出すと良い。
 雄ずいは見つからなかった。日本には栽培品種で雌の木しかない。

1 目的

 「植物の生殖と発生」を学ぶ過程で,最も身近な材料として野菜や果物がある。それらを解剖,観察することで,多様で特殊に見える果実が,植物一般に見られる子房や胚珠の形や構成を残しており,互いに共通部分を残していることを理解する。本観察ではエンドウの果実を規準にし,エンドウに似た部分を探すことで理解を深めることを目的とする。

2 材料・器具

 サヤエンドウ,オクラ,リンゴ,カキ,ミカン,キウィフルーツ,バナナ,イチジク,包丁,カッターナイフ,枝付き針,ピンセット(先細のもの),実体顕微鏡

3 導入

 市販のサヤエンドウには食用部分であるさや=果皮(=子房)に付随している「雌ずい」や「雄ずい」,「がく」が残っており,肉眼で観察することができる。(写真3)

写真3 エンドウのさや

 写真のさやの左の「ヘタ」の部分に花の残骸を探してみよう。「雌ずい」,「雄ずい」,「葯」,「がく」,「花弁の一部」が見られるはずである。食用部は「さや=果皮」であり,花の雌しべ付け根にある子房が太ったものである。また,さやの先端には“ひげ”のような柱頭が残っているはずである。

 さやを開くことで,「種子」(胚珠)やそれにつながる維管束を1枚の葉が左右から挟み込んだ形になっていることが分かる。また,その形状から果皮(子房)の起源が1枚の葉であることが推定できる。

写真4 上縁を開いたエンドウのさや

 さやの縁が平らな方が常に花の上側に位置し,種子が並ぶ。この上縁を切り開くと,胚珠の列を1枚の葉が左右から挟み込んだ形になっていることが推定される。エンドウのさやは果皮(=子房)であり,葉を容易に連想できる色,形をしている。

4 観察

(1)オクラ

@オクラの断面
 オクラの果実は一般的におよそ5角錐の形をしており,内部が5室からなり,各々の部屋の中心にに種子の列を含む。部屋の内壁は内果皮からなり,果実の表面は外果皮から成る。果皮の起源が葉であることを考えると,エンドウが1列の種子を1枚の葉が包み込んだのに対して,オクラは5列の種子を5枚の葉がくるむ形になっている。



Aエンドウとオクラの比較

 オクラ(左)は5列の胚珠の列が子房の内側(=内果皮)が作る部屋に収まり,エンドウでは1列の胚珠の列が内果皮が作る部屋に収まっている。果実の表面は子房の外側(=外果皮)である。



(2)キウイフルーツ

 キウイフルーツ(右下 写真5)は36列の種子(胚珠)の列が果皮の部屋に収まっている。



写真5 キウイフルーツの横断面

(3)ミカン

 ミカンの果実にはおよそ10個の色用部(袋)が含まれるが,その各々は内果皮とその表面の果肉を蓄えた毛からなる。内果皮は周辺部から種子をくるんで中心で閉じる。ミカンの食用には向かない果実の表面の皮は外果皮である。綿状の繊維は内果皮と外果皮の間にある維管束である。果皮が葉であるとするとこれは葉脈であることになる。ミカンの果実の「ヘタ」を取り外した面の10個程度の点が円形に並んだ紋様は,果皮の内部の繊維につながるため,ミカンの食用部の袋の数が分かる。これは果実の付け根の茎の維管束の断面の数と果皮の数が一致することによる。



(4)バナナ

 国内で販売される食用バナナは,3倍体であり,種子を作らない。下の写真6で,バナナの果実の断面の黒い点は内果皮に埋まった胚珠の名残である。バナナの果肉は3列の内果皮より成る。キウイフルーツは36列,ミカンは10列,オクラは5列である。



写真6 果実の横断面

(5)真果,偽果

 いろいろな果実の断面を見ることで子房が果肉になる真果と花床などが果肉になる偽果を観察する(写真7)。
この際以下の点に注意し観察すると良い。

@柱頭はどちらか,種子の胚はどちらか(珠孔はどちらかということ)。リンゴとカキを比較する。

Aイチジクの受精はどこで行われるのか。
国内のイチジクは雌株しか無いといい,受精しない。熱帯の原種は2倍体で,果実の中に共生する昆虫(イチジクコバチ)が受精を担う。そのためにイチジクの果実には昆虫が付くために穴が開いている。日本の栽培品種のイチジクの果実にも穴が開いているがその名残であろう。

Bどの部分が果肉になったか。カキ,イチジク,モモ,リンゴを比較する。
モモの形状や食感(細かな維管束の繊維を多く含み特殊な歯ごたえ)が独特であることも参考になる。

表 いろいろな果実

カキ イチジク モモ リンゴ
真果・偽果 真果 偽果 真果 偽果
説明
カキの種子の胚は柱頭側にある。
沢山の雌花が花床に包み込まれたものである。
モモの果皮(葉)が胚珠を包み込んだ縁が溝をつくる。
花を花床が飲み込んだ形をしている。種子は果皮が作る部屋に収まっている。
写真

(6)リンゴの観察

リンゴは偽果であり,胚珠が果実にめり込んだ形をするが,花は完全にはめり込んでないため,花の残骸を探すことができる。

柱頭側から見た果実 がく片が5枚見られる。 がく片の中には花が残る。 柱頭,雄ずいが見られた。 種子は5列(各列1個)

リンゴの種子の列数について

 種子が5列(一般には1列に1個)果皮に包まれた部屋に収まっている。オクラと比較することで,リンゴの果肉部分が果皮と花床に分かれることが,線で仕切られることで分かる。(写真9)



    写真9 リンゴとオクラ

5 まとめ

 最も身近な材料である野菜や果物を観察することで,胚珠の並ぶ列を子房が包み込んだ基本的な構造であるとみなし,その構造が共通部分として含まれていることを理解できた。本観察ではエンドウの果実を規準にし,エンドウに似た部分を探すことで理解を深めることができた。また,ミカンやイチジクといった身近な材料にも,興味深い形態をしたものがあった。様々な野菜や果物を「植物」として観察することは,その果実の大きさや入手しやすいさから扱いやすい教材となり得ると考えられる。


参考文献

北海道立理科教育センター
金澤昭良「花と果実の関係を科学しよう!」研究紀要第19号(2007)



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