家庭でもできる生物実験 ―浸透現象の観察―
1 目的
半透膜による浸透現象の説明は、教科書では、細胞レベルで扱われている。植物細胞と浸透現象・動物細胞と浸透現象の項目があるが、生徒は日常生活において直接細胞を見ることができない。しかし、半透膜による浸透現象は、日常いろいろなところで観察できる。塩漬けにした野菜がしんなりすること、野菜サラダをつくるとき野菜を水に漬けパリッとさせることなどがある。
生徒にこの浸透現象を観察させ、授業の導入あるいは確認に利用するため、手軽に行うことができる実験法を考えてみた。
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(図1)ジャガイモを切る
2 準備
(2) 器具
30cmものさし
鉛筆
10円硬貨
コップ(2個)
包丁、まな板
3 実験手順
(1) ジャガイモを縦3cm、横1cm、高さ1cmの大きさに切る。2個用意する。
(2) 下図のように、30cmものさしの中央を六角形の鉛筆で支え、一方の端に用意したジャガイモを載せ、反対側に10円硬貨を載せて釣り合いを取る。硬貨の位置(支点からの長さ)によってジャガイモの重さを測定する。
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(図2)実験方法の模式図
(3) 水を入れたコップと、大さじ1杯の食塩を溶かしたコップ(10%程度の食塩水)の2つを用意する。
(4) (2)で測定したジャガイモをそれぞれのコップに入れる。
(5) 翌日このジャガイモを取り出し、水分をぬぐってからそれぞれの重さを測定する。
(6) 水・食塩水に浸したそれぞれのジャガイモで、「重さが変化した理由」、「硬さが変化した理由」を考えさせる。
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(図3) 長さ(重さ)の測定
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(図4) 操作前のジャガイモ |
(図5) 水・食塩水に浸す |
左を水に、右を食塩水に浸す |
4 結果
実験結果の一例を下に示す。
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入れる前の長さ |
一晩後の長さ |
水に入れたもの(図6) |
10.6 |
12.5 |
食塩水に入れたもの(図7) |
12.8 |
10.1 |
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単位(cm)、食塩水は正確に10%とした。23℃、18時間後
観察結果
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状 態 |
水に入れたジャガイモ(図6) |
色の変化はなく、やや反り返ったように見える。手に取ると操作前より硬い感じがする。 |
食塩水に入れたジャガイモ(図7) |
表面の色が黒ずんでいる。手に取るとしんなりしている。 |
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(図6)水に浸したもの |
(図7) 食塩水に浸したもの |
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(図8) 実験前後での大きさの比較
各図の左側:水に浸す、右側:食塩水に浸す
5 考察
半透膜による浸透現象は、日常いろいろなところで観察できる。塩漬けにした野菜がしんなりすること、野菜サラダをつくるとき野菜を水に漬けパリッとさせることなどがある。しかしこれらだけでは「見た」ということのみで終わってしまう。科学的な見方を深めるためには、定量的な変化として扱うことが必要である。
本実験では、身近な材料を用いて、浸透現象による質量の変化を「長さ」の変化であらわすものとした。
生徒の解答例で、水道水につけたジャガイモで重くなった理由については、「水を吸ったから」と答えた生徒がほとんどだった。食塩水につけたジャガイモで曲がりやすくなった理由として、「水がなくなったから」と答えた生徒がほとんどだった。
細胞を高張液・低張液に浸した場合の水の浸透現象を考えてほしいのであるが、そこまで考える生徒は少数であった。
この実験を行った後、授業で浸透現象の説明をしたとき、半透膜の性質が身近に感じられるようで理解させやすかった。導入実験としては効果があったと考えられる。
6 発展
食塩水の濃度をいろいろ変えて実験を行うことにより、ジャガイモの浸透圧を求めることができる。薄い濃度ではジャガイモの重さははじめよりも重くなるが、濃度が濃くなるに従いその差がだんだん小さくなり、ある濃度で等しくなる。このときの食塩水が等張液と考えられる。
23℃での実験では、1.1〜1.2 %(約 0.2M)くらいで等張になるようである。
7 参考文献
愛知県立旭陵高等学校 「生物報告課題 平成3年度版」