back |
「newの培養法」を用いたニワトリ胚の培養と初期発生の観察
1 目的
ニワトリの有精卵を用いて,脊椎動物の初期発生の様子を観察する。高校生にも扱いやすい「newの培養法」により,24時間の卵外培養を行い,発生が進行する様子も継続観察する。
2 newの培養法
D.A.Newによって1970年代に開発された全胚培養法である。今回用いる方法では,リング状に切ったろ紙を胚の周りに置き,ろ紙の外側を胚膜ごと切り取ることで胚膜の張力が維持され,胚膜の外側・内側の両面からの観察を行うことができる。
3 準備
(1) 材料
ニワトリの有精卵,タイロード原液(ニワトリ生理食塩水※表1),NaHCO3,抗生物質(ペニシリン,ストレプトマイシン)
(2) 培地
アガロース,プラスチックシャーレ,薄い卵白(卵白のうち水状の部分),グルコース,NaCl
(培地の作り方:シャーレ100枚分)
@ 薄い卵白を100mL集め,50℃のウォーターバスで温めておく。
A 1mol/LのNaCl液と10%グルコース液をつくり,オートクレーブにかけておく。
(オートクレーブが使用できない場合は,1日程度であればこの操作を省略しても培養可)
B 0.6gのアガロースを80mLの蒸留水に入れ,電子レンジで加熱し溶かす。
C 12.3mLのNaCl液を加え,全量が100mLになるように蒸留水を加える。
D Cをウォーターバスで10分温めたのち,@とCを混合する。
E 6mLの10%グルコース液を加える。
F プラスチックシャーレに分注する。
(3) 道具
ピンセット2本(先端の細いものと太いもの),解剖用はさみ,ろ紙リング,パスツールピペット,ビーカー,ガラスシャーレ
(ろ紙リング(図1)の作り方)
@ ろ紙を2cm四方に切り取り,中央にパンチで穴をあける。
A 穴の内径が10〜13mmになるようにはさみで穴を切り広げる。
B 周囲の縁が5mm程度残るようにして,余分なところは切り捨てる。
(図1) |
(※表1)タイロード原液及び実際の使用液
タイロード原液(10倍液) | 使用液 | |||
NaCl | 80g | タイロード原液 | 100mL | |
KCl | 2g | NaHCO3 | 1g | |
CaCl2・2H2O | 2.7g | 蒸留水 | 900mL | |
MgCl2・6H2O | 1g | 抗生物質 | 1mL | |
NaH2PO4・2H2O | 0.6g | |||
グルコース | 10g | |||
蒸留水 | 1000mLになるように |
4 方法
(1) 有精卵の殻を割り,卵白を捨てる(図2)。
(2) 卵黄表面などに残る卵白は,ティッシュペーパー等を用いて取り除く。
(3) 胚が中央にくるようにティッシュペーパーなどで卵黄を寄せる(図3)。
(図2) | (図3) |
(図4) | (図5) |
(図6) | (図7) |
5 結果
2日目胚の様子
(図8) 胚前部には神経管が膨らんだ脳と,脳から分化した眼胞が観察できる。
(図9) 胚後部まで脊髄が伸び,その周りに次第に脊椎骨が形成される。
この頃の胚には血管はまだ見当たらないが,既に胸部のふくらみ(心臓)の拍動が確認できる。
(図8) | (図9) |
2日目胚の様子(動画)
(動画1)心拍の様子(心房と心室の拍動がそれぞれ確認できる)
(動画2)胚から広がる血管(胚の周囲に広がる管のような構造が血管である)
(動画3)背側から観察(屈曲していない胚を背側から観察すると,眼胞の形成や体節の分化の様子が観察できる)
6 考察
この方法で初期発生の進行を約2日間にわたり追っていくことが可能であり,2日目胚と3日目胚で血管の伸長や脊椎骨の数の変化が確認することができる。
ただし,同日に産卵された2日胚に相当する個体であっても,発生の進行状況には個体差が見られた。これは,低温条件下では有精卵の発生は一時停止し,再び抱卵されて温度が上がると発生が再開するという特徴によって生じる個体差と考えられる。入手前後に卵がどのような環境に置かれていたかについては,考慮する必要がある。
7 留意点
(1) 培地を作成する際に,ある程度の量の卵白を必要とする。これは,有精卵の廃棄する卵白を用いてもよいが,培地作成にかかる間の胚の状態変化を考え,今回は事前に別途購入した無精卵(スーパーの店頭にあるもの)を利用した。
(2) 当日の1〜2時間程度の観察であれば抗生物質は無くても十分であった。また,短時間の観察であれば,手荒ではあるが卵白を用いない寒天培地でも観察自体には大きな影響はない。しかし,卵白の抗菌作用等の効果も期待できないため,長時間の培養はできなかった。
8 参考文献
日本生物教育会全国大会 実験講習会「有精卵を使ったニワトリ胚のnew培養と観察のポイント」 福田公子(首都大学東京 大学院理工学研究科)
back |