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浸透圧の探究実験 モル濃度の算出練習のために
1 目的
(1) 植物細胞を濃度の高い溶液に入れると、細胞は水分を失って、やがて細胞膜で囲まれた原形質が細胞壁から離れる。この現象は、細胞が高張液と接していると水が細胞外に吸い出され、低張液と接していると水が細胞内に浸透してくると考えることで説明できる。
ところで、細胞膜の透過性についての授業をしていていつも次のことに気付かされる。すなわち、生徒たちは、細胞膜を隔てた細胞内と細胞外での分子の移動については理解できるのであるが、細胞を隔てた分子の移動については気付いていないし、指摘しないと、理解がすぐには及ばないようである。例えば、細胞膜の透過性についての授業後に、飲んだ水が体内に吸収されるという現象についての説明を求めると、しどろもどろになるのである。
生物としてのヒトの理解を目的として授業を進めるとき、細胞外から細胞内へ、そして、再び細胞内から細胞外への分子の移動についてまで理解をさせておきたい。
(2) モル濃度は溶液1リットル中の溶質のモル数で表される。浸透圧は溶質の分子数に比例すると考えてよく、1モルの物質を構成する分子数は同じであるから、モル濃度で比較するときの浸透圧は溶質の種類に関係なく、モル濃度が高いほど高い。最近は計算することを苦手とする生徒が目立ってきており、テストを実施しても、計算問題は後回しにしたり、ひどい場合には、計算問題には全く手をつけたりしないという生徒も見られる。このことを考慮に入れて、ここでは比較的複雑な「モル濃度の計算」という作業を取り入れた実験を組み立てた。
2 準備
(1) 材料
ジャガイモ(図1)
(2) 器具
腰高シャーレ(フラスコ)、包丁、メスシリンダー(注射器10mL)、コルクボーラー、彫刻刀
(3) 薬品
ショ糖
3 実験手順
(1) 同じくらいの大きさのジャガイモの塊茎を3個用意し、それぞれ皮をむく。
(2) 一部分を切って平らにし、その反対側の面の中央をコルクボーラーで切り取って約5mlのくぼみを作る。
(3) くり抜いた凹部分の大きさ(容積)を、メスシリンダー(または注射器10mL)を用いて正確に測定する。
(4) (1)〜(3)の処理をしたジャガイモに次のA〜Cの操作を施した後、図2のように水を入れた容器中に24時間放置する。
A 凹部分にショ糖を 0.3g 入れる。
B 凹部分には何も入れない。
C ジャガイモを 15 分間煮沸した後、凹部分にショ糖を 0.3g 入れる。
(5) A、B、Cの実験結果を予測する。その際、ジャガイモの細胞の浸透圧は、0.3モル濃度の溶液に相当しているものとする。
(6) 24 時間後にA、B、Cについて、それぞれの凹部分にたまった液量を測定し、各自の立てた予測と比較する(図3)。
4 結果例
( )内の数字は、凹部分の容積である。
実験前 | 実験後 | ||
A | 0.0 mL (6.2 mL) | 3.4 mL | 外側の水面と比べて内側の水面の液面はやや低い。 |
B | 0.0 mL (6.0 mL) | 0.2 mL | 内側にはほとんどたまっていない。 |
C | 0.0 mL (4.6 mL) | 2.0 mL | 外側の水面と比べて内側の水面の液面はやや低い。 |
A の凹部分にたまった溶液のモル濃度は 0.26M になった。
5 考察
ジャガイモの浸透圧が 0.3モル付近であったとすると、実験開始時は、ジャガイモの凹部分の浸透圧が最も高く、次にジャガイモの細胞、水という順番になる。
A のジャガイモは自分の細胞の浸透圧を維持しようとするが、凹部分のショ糖液に水分を奪われているので、その分が水の側から吸水されていく。これにより、凹部分、ジャガイモ、水の浸透圧の大きさの順番は変わらない。
やがて、A のジャガイモの凹部分で外側の水面を越えて浸透が進むと、凹部分とジャガイモの浸透圧の差が、水面を越えた部分の溶液の重さに相当するところで浸透が止まる。24時間後には、浸透圧が高い順に凹部分のショ糖溶液、ジャガイモ、水のように少なくとも3つの層ができる。
凹部分の溶液のモル濃度はもう少し高めになってよいはずであるが、C のジャガイモでの値が全透性による移動を示しているのと比較すると、水からジャガイモへ、ジャガイモから凹部分への移動が浸透現象によることが分かる。
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