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1 はじめに
ニワトリの手羽を用いて動物の筋組織(骨格筋)を採取する場合,教科書は,「シャーレの中で,筋肉の断片を押さえ,柄付針を用いて髪をとくようにして筋肉の断片をほぐし,糸くず状にほぐれた筋繊維を取り出す」のように説明している。 教科書の説明に従い筋組織を採取する様子と,軟骨組織,硬骨組織の各組織を採取する様子を視覚的に紹介する。 |
2 準備
(1) | 材料 |
ニワトリの手羽 |
(2) | 器具 |
顕微鏡, スライドガラス, カバーガラス, シャーレ, ピンセット, カミソリの刃, 解剖ばさみ, 柄付針, ろ紙, 小型のこぎり |
(3) | 薬品 |
メチレンブルー溶液(0.3gのメチレンブルーを95%エタノール30mLに溶解させた後,蒸留水100mLを加えたもの), 食酢, 蒸留水 |
3 骨格筋の観察
(1) | 方法 | ||
ア | 解剖ばさみで,ニワトリの手羽から皮膚(皮)を取り除く。 | ||
イ | 解剖ばさみで,ニワトリの手羽から筋肉の断片を切り取る。 | ||
ウ | 筋肉の断片をシャーレに移し,蒸留水に浸す。 | ||
エ | シャーレの中で,ピンセットで筋肉の断片を押さえ,柄付針を用いて,髪をとくようにして筋肉の断片をほぐす(動画1)。 | ||
オ | 糸状にほぐれた筋繊維を取り出し,スライドガラスに載せる(写真1)。 | ||
カ | 蒸留水で4倍に希釈したメチレンブルー溶液を1〜2滴かけ,そのまま放置して1〜2分染色する。 | ||
キ | 筋繊維をつぶさないように静かにカバーガラスをかける。 | ||
ク | カバーガラスからはみ出た液をろ紙で吸い取る。 | ||
ケ | 試料を光学顕微鏡で観察し,スケッチを行う。 |
「骨格筋標本の作製」 組織採取の様子 〔動画 1〕 | 〔写真 1〕 | |||||
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(2) | 観察のポイント | |||
最初に100倍で観察する。筋繊維が重なっていないところを探し,その部分を視野の中央に移動する。 | 次に400倍に倍率を上げ,横紋筋のしま模様を観察する。 | |||
100倍 | 400倍 |
(3) | 留意点 | ||
ア | メチレンブルー溶液は濃すぎるとしま模様が観察できないので,原液を蒸留水で4倍希釈したものを使用する。 | ||
イ | 糸状で取り出した筋繊維を,柄付針を使い,スライドガラス上で丸く縮まらないように広げておく。 |
4 軟骨の観察
(1) | 方法 | ||
ア | 解剖ばさみを用いてニワトリの手羽から皮膚(皮)と筋肉をきれいに切り取る。 | ||
イ | 関節の軟骨部分にカミソリの刃でV字型に切れ込みを入れる。 | ||
ウ | V字型の切れ込み部分から,カミソリの刃で,できるだけ薄く軟骨の切片を切り出す(動画2)。 | ||
エ | 薄く切れた軟骨の切片をスライドガラスに載せる(写真2)。 | ||
オ | メチレンブルー溶液を1〜2滴かけ,そのまま放置して1〜2分染色する。 | ||
カ | 静かにカバーガラスをかける。 | ||
キ | カバーガラスからはみ出た液をろ紙で吸い取る。 | ||
ク | 試料を光学顕微鏡で観察し,スケッチを行う。 |
「軟骨標本の作製」 組織採取の様子 〔動画 2〕 | 〔写真 2〕 | |||||
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(2) | 観察のポイント | |
最初に100倍で観察する。できるだけ薄い部分を探し,その部分を視野の中央に移動する。次に1000倍に倍率を上げ,軟骨細胞を観察する。 | ||
1000倍 |
(3) | 留意点 | ||
ア | 表面付近の組織では,軟骨細胞を観察することはできない。 | ||
イ | 硬骨近くの組織では,細胞は小さく,細胞間の隙間も狭いため観察には適さない。 | ||
ウ | 2つの細胞は,平面だけではなく,縦にも斜めにも並んでいるので,ピントを調節して立体的に観察するとよい。 |
5 硬骨の観察
(1) | 方法 | ||
ア | 小型のこぎりで2つに切断した硬骨を3日間食酢につけておく。(切断面から1mm程度しか柔らかくなる部分はできない。) | ||
イ | 表面だけが柔らかくなった硬骨の切断面から,カミソリの刃で,できるだけ薄く硬骨の切片を切り出す。(動画3) | ||
ウ | 薄く切れた硬骨の切片をスライドガラスに載せる。(写真3) | ||
エ | メチレンブルー溶液を1〜2滴かけ,そのまま放置して1〜2分染色する。 | ||
オ | 静かにカバーガラスをかける。 | ||
カ | カバーガラスからはみ出た液をろ紙で吸い取る。 | ||
キ | 試料を光学顕微鏡で観察し,スケッチを行う。 |
「硬骨標本の作製」 組織採取の様子 〔動画 3〕 | 〔写真 3〕 | |||||
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(2) | 観察のポイント | |||
最初に100倍で観察する。できるだけ薄い部分を探し,その部分を視野の中央に移動する。 | 硬骨ではハーバース管の周りに骨細胞が同心円状に並んでいる部分を探して観察する。 | |||
100倍 | 400倍 |
(3) | 留意点 | ||
ア | 3日間食酢につけておいても,硬骨の切断面から1mm程度しか柔らかくなる部分はできないので,硬骨の切片を切り出すときは,やり直しはできないことに留意するとともに,カミソリの刃で手を切らないように注意する。 | ||
イ | 硬骨ではハーバース管の周りに骨細胞が同心円状に並んでいる部分を探して観察する。 |
6 おわりに
骨格筋の筋繊維は,柄付針を用いて,髪をとくようにして筋肉の断片をほぐしていけば,生徒でも比較的容易に糸状の筋繊維を採取することができる。軟骨組織,硬骨組織の採取は,できるだけ組織を薄く切り出すことが大切であるが,この操作はある程度の習熟を必要とする。また,カミソリの刃を取り扱うので,けがの無いように十分注意することが重要である。 生徒が組織を薄く切り出すことが難しかった場合に備えて,軟骨組織,硬骨組織のプレパラートは,事前に幾つか準備しておくとよい。 |
7 参考文献
生物実験書 解説編 香川県高等学校生地部会編集・発行(平成19年8月7日) | ||
生物教科書「013」 生物T 東京書籍 |
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