2 授業の様子

(1) 言語障害の場合
 ★ 発音に誤りのある児童生徒
<動機付け>
 自分の発音の誤りを,鏡やビデオなどを活用し,視覚的,聴覚的に分かりやすく本人に示し,自分で気付くことで,課題を明らかにし,学習に取り組む動機付けをします。
<構音検査>
 定期的に検査を行うことで,発音の状態を把握し,評価をします。
<発音器官の筋機能指導>
・体全体の力を抜いてリラックスする体操をします。
・腹式呼吸,鼻や口を使って呼吸の練習をします(吹き戻し,シャボン玉づくり,ピンポン球吹き)。
・口や舌の運動,舌の癖を改善する運動,あごの運動をします(口じゃんけん・舌じゃんけん)。 口じゃんけん表の写真
【口じゃんけんの表】
<聴覚機能の指導>
・指定した音(おん)に対して,音(おん)を聞き,正しい発音か誤った発音かを聴き分ける練習をします。
・指定した音(おん)が,通級による指導担当者の発音した言葉のどこにあるかを聴き取って,指定した音のときに手をたたきます。

<発音練習>
母音練習………鏡を見て母音の口形を確認しながら練習します。
子音練習………子音を誘導する練習をします。
《カ・ガ行音の練習の例》
 奥舌が上がって,軟口蓋(がい)と接触し,その後ろに呼気をためて,舌を下げると同時に,呼気を破裂させる無声音(声帯の振動を伴わない音)であることを説明した後,うがいの動作を取り入れ,子音の「k」を誘導します。
《サ行音の練習の例》
 舌の先を上あごに付けないことを説明した後,ストローなどを舌先と上の前歯と下の前歯で軽く挟んで「涼しい風」を出す練習から,子音の「s」を誘導します。
ストローでサ行音の構音練習をしている写真
【ストローでサ行音の構音練習をしている様子】
《タ行音の練習の例》
 舌の先を使うことを説明した後,舌の先を歯茎に押し付け,つばを飛ばすように息を出す練習から,「t」を誘導します。

<習熟のための練習>
 自分の間違いに気付き,自分で言い直すことができるように働き掛け,会話の場面で一般化するようにします。
 
 
 ★ 言葉が詰まる児童生徒
・指名される順番が決まっている方がよいのか,突然当てられた方がよいのかなど,それぞれの児童生徒の感じ方が違います。心理的な緊張がないように,どの方法がよいかを本人と通級による指導担当者が話し合い,児童生徒にとって,よい方法を学級担任に伝えます。
・七五調などの定型詩を,通級による指導担当者と一定のテンポに合わせてリズムよく音読できるように練習することもあります。 音読表の写真
【音読表(口の体操)】
・児童生徒の興味ある遊びやゲーム,工作などを行い,精神的にリラックスした状態をつくります。次に近況などを聞きます。その会話を楽しみながら,心の中にある感情を出し,自分自身を見つめ直す時間にします。言葉が詰まることについて本人と通級による指導担当者が話し合い,児童生徒の理解を深めます。
 
 ★ 言葉の育ちがゆっくりな児童生徒
・伝えたい内容について,相手に分かりやすくはっきりと言葉に表す学習をします。
・児童生徒がよく知っている話を教材として活用し,在籍する学級の友達の前で伝えたい内容などを発表するという目標を立てます。
・発表に向けては,道具作りや発表練習などを通級による指導担当者と一緒に行います。
【牛乳パックを活用した発表練習】(例)
・友達の前で発表する目標を立てます。
・発表に向けて牛乳パックを活用した道具づくりを行います。
・児童生徒は,四つの絵カードを話の意味が通るように並べ替え,友達に並べ替えた絵カードの順に話をします。
・話した内容を個々の力に応じて,物語に書き表すこともします。
・相手に内容を伝え,それが伝わることを体得し,伝えたいという意欲を高めていきます。
牛乳パックの道具の写真
【牛乳パックの道具】
  
 
(2) 自閉症の場合
 ★ 時間の流れに沿って,集中して学習することが苦手な児童生徒
・1時間の授業の流れを授業の始めに絵カードで説明し,先の見通しを理解して授業に集中できるようにします。
・学習課題をカードで確認し,学習を終えるごとに絵カードを取ったり,シールをはったりします。
・課題の数を示したり,学習時間をタイマーで計ったりして,集中して学習する時間をつくれるようにします。
学習内容を示したカードとタイマーの写真
【学習内容を示したカードとタイマー】
 ★ 手先を器用に動かすことが苦手な児童生徒
・小さな物をつまむなど手や指を使った細かい運動(微細運動)が苦手な児童生徒は,指先の巧緻性(こうちせい)の運動だけでなく,手首の使い方や両手,又は目と手の協応も必要となります。
・折り紙を折る,ひもを結ぶ,はさみを使う,笛の練習をするなど身近な題材を取り入れることで児童生徒の意欲を高めます。手順はスモールステップで提示します。
・繰り返し行う時間を確保するなどの工夫をすることも大切です。
 ★ 場に合った行動が苦手な児童生徒
・毎日の生活は,様々な情報があふれています。どこに視点を合わせて,どのように行動したらよいか情報処理の苦手な児童生徒がいます。情報を整理した「ソーシャル・スキル」の絵カードなどを使って,社会的行動を学習します。
 
(3) 情緒障害の場合
 ★ 未経験の活動に不安感を示す児童生徒
・通級による指導担当者と一緒に体験することで安心感を与えることが大切です。
・児童生徒が興味をもって取り組める学習活動を考え,体験したことを確認できることが大切です。
【自信をつける調理活動】(例)
・保護者や学級の児童生徒たちに食べてもらったり,作り方などを作文やビデオで伝えたりします。
・周囲の人から認めてもらうことで自尊感情を高めるようにします。
 
 ★ 人とのかかわりが苦手な児童生徒
・ソーシャル・スキルを身に付けるため,社会的場面を設定して,通級による指導担当者とロールプレイを行います。小集団から徐々に集団の規模を大きくし,実生活の中で生かせるように練習します(ソーシャル・スキル・トレーニングのための絵カードは市販のものもあります)。
  
(4) 難聴の場合
 ★ 聞こえに心配のある児童生徒 1
・自分が聞こえなかった話の内容を,話の流れやその場の雰囲気に合わせて,想像して補いながら生活をしてきた経験を有する児童生徒もいます。
・自分では聞き間違いや聞き落としに気付いていない場合には,絵や実物を使って視覚情報を増やすなどの工夫をし,話の内容を分かりやすく伝えます。その後,その内容が正確に伝わっているかを確認することが大切です。 
【聞き取りの例】
1 担当者が,以下の例文を読みます。これを児童生徒は,話を聞きながらメモをします。

「車内放送:○○駅で信号の故障がありました。そのため,ただ今この電車は,10分ほどの遅れで,運転しています。△△駅への到着は,15時20分の予定です。お急ぎの所,大変御迷惑をお掛けしております」

2 例文の内容から,担当者が,質問します。
  例:○○駅で,何がありましたか。

3 答えを確認します(メモの仕方も,学習します)。
 
 ★ 聞こえに心配のある児童生徒 2
・友達の話す内容が分からなくて,何度も聞き直したときに「もういい」と言われ,悩みをもった児童生徒が通級による指導担当者に相談することがあります。そこで,話し合ってよい方法を考えます。例えば,小さなメモ帳を持ち歩き,話が分からないときに書いてもらうようにすると,問題解決することもあります。
 
(5) 読み書きに課題がある場合
 ★ 漢字を読んだり,書いたりすることが苦手な児童生徒
・バランスよく文字を書くことや,正しい文字を書くことを目標に,ます目の中に,十字の点線が入っている紙を用意します。
・本人の希望や発達段階に応じて,ます目の大きさを変えることもあります。
・漢字が正しく覚えられるように,漢字の成り立ちを絵で示したり,形の特徴を理解できるように一つの漢字をへんとつくりに分けたりして,理解しやすくすることも大切です。
漢字の絵カードとます目ノートの写真
【漢字の絵カードとます目ノート】
 ★ 文字や行を抜かして音読をする児童生徒
・教科書などの読む部分に,1行だけが見えるような枠を用意します。低学年と高学年によってその枠の大きさを,少し変えることも必要です。また,指で文字をなぞりながら読む工夫を,児童生徒に伝えます。 窓枠カードの写真
【窓枠カード(1行用)】
 
(6) 注意集中や衝動性に課題がある場合
 ★ 学習に集中することが苦手な児童生徒
・いろいろな物が目に入ると,興味や関心がその見えた物に移ってしまい,学習に集中できなくなります。その場合は,掲示物をできる限り減らしたり,つい立てやカーテンで,気になる物が見えないようにしたりします。
・授業に必要ない物は片付けるように指示をすることも必要です。
つい立てを利用した学習環境の写真
【つい立てを利用した学習環境】
 ★ 指名されていないのに,いきなり大声で答えてしまう児童生徒
・思っていることをつい声に出してしまう児童生徒には,いきなり口に出さないように数を数えてから,話す練習をすることがあります。
・話す相手がどこにいるかを場面ごとに示し,声の大きさを意識できるようにすることも必要です。
声の大きさを示したカードの写真
【声の大きさを示したカード】