愛知県総合教育センター研究紀要 第92集

 高等学校地理歴史科・公民科における評価の在り方に関する研究

1 はじめに
 従来の評価では、細かな要素的知識を正確に覚えている生徒を「学力が高い生徒」と評価しがちではなかったか。生徒の学習意欲を高め、多様で実質的な学力を育むためには、知識注入型の指導と評価の在り方を見直す必要があると考えた。

2 研究の目的
 従来の学習指導及び評価の在り方を見直し、「評価の4観点」に示される多様な学力、実質的な学力を育成するための効果的な指導と評価の在り方を探る。

3 研究の方法
 (1) 諸外国での指導と評価の現状を分析し、本研究の参考とする。
 (2) 県立高等学校の教員に対し、アンケートを行い、実態を調査する。
 (3) 「評価の4観点」を踏まえた指導と評価の実践を行い、結果を分析する。

4 研究の内容
 (1) 欧米・韓国における地理歴史科・公民科的教科のテスト問題の分析
 授業では、主体的な学習過程が取り入れられ、テスト問題も、資料活用能力、 思考力、表現力等を試す論述試験が中心であった。
 (2) 地理歴史科・公民科教員に対する授業や評価の在り方に関する調査
 普通科高校で教える教員には、「講義を中心に進めている」「大学受験を考え ると課題追究学習に取り組ませる余裕がない」とするものが多かった。
 (3) 「評価の4観点」を踏まえた指導と評価についての実践
  ア 資料の読み取りを重視した授業と定期考査(世界史)
 資料の読み取りや解釈を中心とした授業を行い、定期考査では、授業とは 異なる資料を使用した論述問題を出題した。
  イ 評価規準を使った学習活動の評価と授業を生かした定期考査(日本史)
 評価の観点を設定して作成した授業プリントに従って授業を行い、授業後 に生徒のプリントを評価規準に従って評価した。
  ウ 資料活用の技能・表現力、思考・判断力を高める実践と評価(地理)
 白地図への書き込み、分布図の作成、読み取りなど地理的技能を重視した 授業を行い、定期考査ではその技能を活用して解く問題を出題した。
  エ 問題意識を高め、知識を再構築させる授業の実践と評価(政治・経済)
  アンチテーゼを提示するなどして生徒の思考を促し、それを文章化させて 評価するとともに、定期考査では思考力を問う論述問題を出題した。
  オ  「目標・指導と評価の一体化」を目指した授業と評価(倫理)
  各授業ごとに「評価の4観点」を明確にした学習指導案・評価案を作成し、 この評価項目に対応させる形で定期考査の個々の評価問題を作成した。
  カ ポートフォリオによる個性的な学びの評価
  「記録ポートフォリオ」「評価ポートフォリオ」「秀作ポートフォリオ」 を作成させ、生徒の個性的な学びを評価し、学習意欲を高めようとした。

5 研究の成果と今後の課題
 (1)  「評価の4観点」を組み入れた指導案・評価案に基づき、授業を実践するこ とは、資料活用能力,思考・判断力など多様な学力を伸ばすとともに,生徒の学習意欲を高める上で有効である。
 (2)  論述考査問題の採点は,明確な基準を設けておけば、妥当な採点が可能であった。論述テストは、生徒の思考力や表現力を育てるために有効であった。
 (3)  評価を,生徒の多様な学力の成長の様子を見取るものでもあると考えること により,生徒と教員の関係が変わり,評価を授業者の授業改善にも活用できた。
 今後は、教員一人一人が、「評価の4観点」を踏まえた指導計画・評価計画を作成することに習熟し、評価能力を高めていくことが課題である。